彼はその日だけ訪れる。
今日はハロウィンということでハロウィンを題材とした短編を書いてみました。
あなたの街にも彼のような存在がハロウィンパーティーに紛れ込んでいるかもしれませんね。
今日はハロウィン。
子どもたちが楽しそうに仮装をして街を練り歩いている。
子供達は家のドアを叩きこう言う。
「トリックオアトリート!」
それを聞いた家主は笑顔でお菓子を差し出す。
そんな微笑ましい光景が街のあちらこちらで見受けられる。
その中に1人白い大きな布を被った少年がいた。
子供達は彼が誰だかわからないが背丈は自分たちと同じくらいだからきっと友達の誰かだろう、と考えていた。
少年を含んだ一行はある家の前へ辿り着く。
そしてまたこう言う。
「トリックオアトリート!お菓子をくれなきゃいたずらしちゃうぞ!」
「はいはい、お菓子をあげようね。」
そう言った家主の初老のおばさんは少年たちが持つジャック・オー・ランタンを模した入れ物にお菓子を入れていく。
「おや、見ない子だね。」
おばさんは少年に向けてそう言った。
「あ、えっと、僕この街のハロウィンパーティーが好きで、隣町から来たんです。」
「そうだったのかい、楽しんでいきなね。」
「はい。」
その時少年は冷や汗をかいていた。
なぜなら隣町から来たなんて言うのは真っ赤な嘘だからだ。
そもそも彼は現世の存在ではない。
彼はオバケだ。
彼は毎年ハロウィンの日にこの街を訪れる。
理由はハロウィンの日なら彼がオバケであることに誰も気づかないから。
そしてハロウィンの日だけ現世とはオバケの世界が繋がるから。
彼は自分がオバケであると子供たちに伝えたかった。
だがそれは叶わぬ願いだ。
彼が住んでいる街、リーフタウンの掟に、オバケは自らの正体を人間に明かしてはいけない。
とあるからだ。
これを破ったものには重い罰が下される。
それは存在の消滅だ。
彼は一度オバケが消滅するのを見たことがある。
体の先の部分から線が曖昧になっていき、風に流されるように消えるのだ。
だから彼は自分がオバケであると伝えられない。
「ねぇねぇ、その布をとって顔を見せてよ!」
そう彼に話しかける少女がいた。
「私の名前はアメリア、君の名前は?」
そうアメリアは澄んだ青色の目を輝かせて彼に言ってきた。
彼はオバケとして生きてきたから名前など持っていない。
「うーん、好きに呼んでくれていいよ。」
「わかった、そうだなぁ…その布がすごくふわふわしてるからフワリでどう?」
フワリか、いい名前だな、彼はそう思った。
「フワリだね、わかった。」
「それじゃあフワリ、一緒に歩こう?」
アメリアは手を差し出してきた。
そうしてアメリアと彼、いや、フワリは歩幅を揃えて歩き出した。
日が完全に沈み気温が低くなり肌寒かったがフワリはそんなものは微塵も感じなかった。
「ねぇフワリ、去年もこの仮装して街に来てたよね?」
「え、覚えててくれたの?」
「うん、なんだか不思議な空気を纏っていたから覚えてるの。」
「そうなんだ…。」
フワリはオバケなのに胸の奥がじんわりと暖かくなった。
「あ、そろそろお家に帰らなくちゃ。」
アメリアがそう言った。
フワリはアメリアと別れるのが口惜しかった。
「あのさ、アメリア、最後にお菓子を交換しない?」
「いいねそれ!わかった。」
フワリは持っていたお菓子の入れ物を覗き込んだ。
最初に目を引いたのはマカロンだった。
マカロンにしよう。
「じゃあせーので出そうか。」
「「せーの!」」
アメリアが出してきたのはクッキーだった。
「わぁ、私マカロン好きなんだ。ありがとう。」
「ううん、こちらこそありがとう。」
「それじゃあね、フワリ、今度は顔を見せてね。」
そういうとアメリアはフワリに背を向けて歩き出した。
「アメリア!」
そうフワリが言うとアメリアは振り返った。
「なぁに?」
「また来年!」
「そうだね、また来年!」
フワリとアメリアはそれぞれ歩き出した。
大きな布の中でフワリは笑顔だった。
フワリの淡い恋情と人間世界への憧れを丁寧に描写しました。
ちなみにアメリアと交換したマカロンとクッキーに込められた意味を調べてみるとよりこの物語の世界観が広がります。
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