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Scene.97「……はやお?」

 連れてきた黒づくめの男の記憶を読み取った幸洋の指示に従い、会長たちは西岡も伴い、倉庫街の中の、小さな倉庫の中へと足を踏み入れていた。

 その時、いくつものコンテナが高く積まれる倉庫の中でもわかるほど、幾度となく爆音が上がる。遠くの方で、タカアマノハラの大地を揺るがす衝撃が起こっているのが、わかった。

 窓から見える、遠くで上がる黒い煙を見て、リリィが不安そうに顔を歪めた。


「ケイタさん……大丈夫でしょうか……?」

「大丈夫! って、言ってあげたいんだけどね……」


 直接はカグツチの脅威を知らないものの、一度映像記録として残されたものだけは見たことがある朱音は、リリィを励ますようにその肩に手を置く。


「暁君も……それに、確かフレイヤさんもいるんだよ。啓太君なら、きっと大丈夫!」

「はい……今は、アラガミ・アカツキと、お姉さまを信じます……」


 フレイヤ・レッドグレイブの突然の来訪は、リリィたちの耳にも届いていた。

 その情報は、どうやら異世研三から直接生徒会室に残っていたものに届けられたらしく、驚いた美咲によってリリィたちに伝えられた。

 あまりにも唐突であったため、半信半疑であったものの、ここで嘘をつく意味もない。それに、第一世代であるフレイヤがやってきてくれたおかげで、政府もタカアマノハラの沈没に待ったをかけているようでもあった。今のうちに、光葉を回収し、駿のところまで連れて行けば、彼の暴走も収まるだろう。

 が、その光葉の行方も一筋縄ではいかないようであった。


「とりあえず二人とも!? こちらに集中してもらって構わないかな!?」

「あわわ!? ごめんなさい、会長さん!!」

「あ、ごめんね!?」


 会長の言葉に、二人は我に返り、手にした傘や盾を持って物陰を移動する。

 激しい跳弾の音が響き渡り、辺りに火花が飛び散る。

 幸洋の誘導に従い、黒づくめの男たちが光葉を隠している場所までやってきた会長一行。

 彼らは、黒づくめの男から盛大な歓迎を受けていた。


「予想はしていたけれど、盛大だねぇ……!」


 大量の鉛玉から身を隠しながら、会長は盾を手に取る。

 小さな円盤のようにしか見えない盾だが、取っ手のスイッチを入れた途端、十字の切れ込みを入れたかのように割れ、パーツの間にサイコキネシストが展開するような力場が現れる。

 彼が手にしたこれは、異能科学論によって生まれた防御用装備の一つで、通称念力盾という。サイコキネシスが展開される理論を応用した簡易式の防御壁である。

 これ単体で、アサルトライフル程度であれば悠々防ぎ切る防御力を誇るが、残念なことに電力では動かせず、異能の力でのみ動く。そのため、異能者以外が装備するために開発されたというのに、異能者専用の装備となっている。

 さらにもう一つ言えば、サイコキネシストがやるように銃弾を防げるわけではない。彼らは銃弾のような質量兵器を受ける際、無意識に全身をサイコキネシスで強化している。そのため、サイコキネシスト以外では銃弾が生み出すエネルギーを受け止めきれず、大抵は盾を弾かれてしまうのだ。

 とはいえ、身を守るのにこれ以上の防具もなかなかない。この場にいる、西岡とリリィを除く全員がこの念力盾を装備していた。


「霧頃君、大丈夫かね?」

「ももももちろんだとも!! 我は邪王黒龍と共にあり!」


 何やらポーズを構えながら、ぶるぶる震える幸洋。

 盾もそばにあるコンテナに触れてガタガタ音を立てており、とても身を守るための役に立ちそうにはない。


「我は無敵! 不死身! 強靭!! 我が身を撃ち滅ぼすなど、あのような醜悪な平気には不可能なりぃ!」

「だったら突貫してきてもいいのよ?」


 強がる幸洋に、朱音はおどけるとそんなことを言い出す。

 瞬間、幸洋は千切れそうなほど力強く、首を横に振った。


「否! あの程度、我が手を下すまでもなし!!」

「大丈夫だよ、霧頃君。君の手を煩わせることはないさ」


 この状況に怯える幸洋を安心させるように、会長はそう口にする。

 彼はあくまでサイコメトリー。戦闘力は一切持たない。

 であれば、戦うものがその任を負うのが当然というものだろう。

 サイコキネシストであるリリィが、ビニール傘を構えて会長の方を見る。


「会長さん! ここはやはり私が――!」

「ダメだよ、マリル君。君の力では、この弾雨を進むことはできないだろう?」


 逸るリリィを、会長は諌める。

 確かにリリィの突撃する傘槍(チャージ・パラソル)であれば、銃弾は防げるかもしれない。

 だが、敵は一斉射撃でこちらが近づけないように弾幕を張っている。いくら銃弾を防げるサイコキネシスを持っていても、その弾雨を押し進むのは容易ではないだろう。

 背後でアサルトスタンガンを背負い直す西岡に、会長は顔を向ける。


「……というわけで、西岡さん。先ほどの説明通り、お願いしますね」

「それは構わないが……大丈夫か?」


 西岡は手に填めたグローブの具合を確かめつつ、会長を案ずるように眉尻を下げる。

 これからのことを考えれば、彼の表情も納得だろう。

 だが、会長は力強く微笑み、頷く。


「なんの。頑張ってくれている古金君や、新上君に比べれば、この程度わけありませんとも」

「……わかった。頼む」


 西岡は小さく頷き、会長の行動を待つ。

 会長はその言葉に頷き、弾雨が一瞬途切れたのを確認してから、物陰から飛び出す。


「!」


 黒づくめの男たちが、飛び出した会長の姿を見てアサルトライフルを構え直す。

 会長は盾を構え、扇子を黒づくめの男たちが見えるように広げ、そして大きな声でこう叫んだ。


今です西岡さん(・・・・・・・)! 後ろからやって(・・・・・・・)しまってください(・・・・・・・・)!!」

「なっ!?」


 会長の声を聞き、黒づくめの男たちが残らず後ろを向く。

 だが、もちろん西岡の姿は会長が隠れていたコンテナの陰にある。

 会長は自らの異能にあっさりかかってくれた男たちの姿を見て、にやりと笑う。

 造言被語(ライアーボイス)。人の心を操る異能は、その行動すら操ることを可能とするのだ。

 敵の動きがあらぬ方向へと固定されたのを確認してから、西岡は静かに駆けだす。

 そして一瞬で黒づくめの男たちのところまで近づくと、最も近い場所にいた一人の襟首を占める。


「ッ!?」


 一瞬で動脈を絞められ、黒づくめの男は声もなく気絶する。

 それに気が付き、振り返った男の顎を、西岡は素早く打ち抜く。

 二人を一瞬にして無力化した西岡の腕前に、覗き込んでいたリリィが舌を巻く。


「すごい……っ!」


 まさに熟練の動きといった西岡の動作だったが、さすがに二人を無力化するので精いっぱいだった。

 西岡によって仲間を倒されたのに気が付いた、残りの黒づくめたちが我に返り、西岡の方へと振り返ったのだ。

 残りの人数は、三人。

 西岡は怯むことなく拳を構えるが、彼の不利は言うまでもない。


「さすがに全員は厳しいですかね……!」


 男たちがアサルトライフルを慌てて構え直すのを見ながら、会長は己の喉に扇子を当てる。

 そうして自己強化の暗示をかけるより早く、彼の傍から飛び出していく小さな影が一つだけあった。


「やぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 リリィである。

 己の異能、突撃する傘槍(チャージ・パラソル)を必要最低限だけ展開しながら、リリィは黒づくめの男のうち一人に向かって飛び掛かっていく。


「喰らいなさいぃぃぃ!!」

「ぬぉっ!?」


 狙われた男は慌てて回避しようとするが間に合わず、小柄なリリィのサイコキネシスによって弾き飛ばされる。

 面白いようにくるくる回りながら真上へと飛んだ男は、どしゃっと嫌な音を立てながら落下した。

 リリィは勢いよく体を回し、残りの男たちに向き直りながら勝鬨を上げた。


「見たか不審者め! これが私の力だ!!」

「このっ……!!」


 勝ち誇る小さな少女の姿に神経を逆撫でされたのか、男の一人が顔を怒らせてアサルトライフルをリリィに向けて構える。

 リリィは傘を開き、西岡は残った男たちを抑え込もうとする。

 瞬間。


「イィィヤッハァァァァァァァァァ!!!!」


 雄たけびと共に、倉庫天井のトタン板が破壊され、何者かが倉庫内へと侵入してくる。

 黒づくめの男達や、西岡がその正体が確認するより先に、侵入者は男たちの一人へと文字通り飛び掛かった。


「くらいなぁ!!」

「ごっはぁ!?」

「三代君!?」


 スノーボードで男たちのうち一人を弾き飛ばす少年の正体を悟り、その名を朱音が叫ぶ。

 吹っ飛んだ最後の仲間を見て、男は恐怖に顔を引きつらせる。

 そのまま西岡やリリィに捕えられる前に逃げ出そうと後ろを振り向く。

 だが、男が逃げることは、結局敵わなかった。


「ダウンバァーストォー!!」


 上空の声が叫ぶと同時に、吹き降ろす竜巻が、その身を押しつぶしたからだ。

 風の勢いに叩き伏せられ、男は自分の身に何が起きたか悟ることなく気絶する。

 その上に、崎原と竜巻少年が降り立った。


「よっとっ! みんな無事かな!?」

「久遠先輩たちに言われて、助けに来たぜ!!」

「ああ、助かったとも。ありがとう、二人とも」


 会長は崎原たちの姿を見て、ホッと息を突きながら会長は西岡から受け取っていた拘束用のロープを取り出す。

 それで気絶した男たちを縛り上げながら、地上に降り立った三代の方を見る。


「いやしかし、いいタイミングだったよ……。久遠君に、援軍は要請していたけれど、間に合うとは思わなかったからね」

「まあ、ほとんどが政府の言うとおりに避難しちゃってたからねー」


 崎原は笑い、三代は肩を竦めた。


「俺たちも、そろそろ避難しようかなーってところで久遠の要請だろ? こっちだって間に合うとは思わなかったぜ」

「そうだったのかい。それは、悪いことをしたね」


 会長は申し訳なさそうに頭を下げる。

 駿の暴走具合によっては、タカアマノハラは沈められてしまう。

 彼らへの援護要請は、つまりタカアマノハラ沈没に付きあわせてしまう可能性もあるのだ。

 それでも、彼らはこうして助けに来てくれた。

 それに感謝しながら、会長は辺りを見回す。


「さて。この男たちを無力化したら、光葉君の身柄を――」


 会長が視線を回すと、そこにはすでに脱出していた光葉の姿があった。


「――確保しよう、と言いたかったのだが……」

「すでに、出てきてたね……」


 助けに来た人間があっさり出ているのを見て、朱音も脱力したように肩を落とす。

 光葉の背後には、大きな穴の開いたコンテナが一つある。おそらく、彼女が閉じ込められていたものなのだろうが、彼女の影は鉄程度では防ぎきれない。あっさり打ち破って出てきたのだろう。

 ゆらゆらとうごめく影を身に纏いながら、光葉は一点を見つめ、小さく口を動かす。

 そこから音が聞こえてくることはなかったが、口の動きから会長はなにを呟いたのか察した。


「……はやお? 駿君が、どうかしたのかい?」


 会長は問いかけるが、光葉は答えない。

 そのまま影に潜り込み、どこかへと姿をくらませてしまった。


「!? 光葉君!?」

「……会長さん、どうしましょう」


 光葉の奇行についていけずに、リリィは所在なさげに首を横に振った。


「ミツハさん、どこかに行ってしまいましたよ……?」

「うぅむ……まあ、彼女の事だから、駿君の元に向かったのだろうが……」

「まあ、とりあえず西岡さんと一緒にここにいる連中を連れてきゃいいんじゃねぇの?」

「そうするしかないか……」


 会長はがっくり肩を落としながら、西岡の手伝いを始める。

 どこかで鳴り響く遠来のような爆音を、遠くの出来事のように聞きながら。




 何とか光葉を助けようとしたけれど、肝心の光葉は会長たちガン無視!

 まあ、光葉ですしね。しかたないね。

 以下次回!

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