巨体の奮闘
「はああああっ!」
アンリが全力の一閃で、スカルドレイクの脚を斬りつける。
しかし——
「カンッ!」
鈍い金属音と共に、剣が弾かれた。
「……ちっ、まるで鋼鉄じゃないか!」
「今度はあたしの番! ブーストパンチ!!」
リリアが魔力で増強した拳をスカルドレイクの顔面に叩き込む!
だが——
「……ッ! 固っ……! いった~……!」
手をぶつけた瞬間、彼女は痛みで顔をしかめ、手をぶんぶん振る。
「どうやら、生半可な攻撃では通じませんね……」
様子を見ていたアイクが低く呟く。
それなら、僕の出番だ!
「みんな、下がってて! うおおおおおっ!!」
僕は全速力で突進し、スカルドレイクの頭へと激突した。
「ガァンッ!」と骨を打ち砕くような衝撃が僕の全身を貫く。
視界に星が瞬き、脳が揺れる。
それでも——
「うおおおおおおおおおっ!!」
僕は巨体を活かし、スカルドレイクの頭を地面に向かって力任せに押し込んでいく。
「フルルルルルル……!」
スカルドレイクが唸り声を上げながら踏ん張るが、パワー勝負なら負けないぞう!
「いいぞ、そのまま押し込め!」
「タイゾウさん、すごい……!」
皆の声援が背中を押す。
だが——
「キィィィッ!!」
スカルドレイクが反撃。鋭い爪が僕の腹を横一文字に切り裂いた。
「ぐっ……!」
「タイゾーさんっ!」
リリアの悲鳴と共に、スカルドレイクがそのまま至近距離から口を開き、どす黒いブレスを吐き出す——!
「クリーン・ゾーン!!」
光の障壁が瞬時に展開され、濁流のようなどす黒い毒息をかき消していく。
「間に合った……!」
シェリーさんの魔法が、僕の命を救った。
けれど——
「ぐっ……くぅ……!」
彼女自身も毒の勢いに耐えながら、顔をしかめていた。
どす黒い息が逸れた地面では、草が瞬く間に枯れ、土が黒く腐っていく。
まともに浴びていたら、今ごろ僕は……。
——ぞうっとするぞう、なんて言ってる場合じゃない!
「シェリーさん、突破口は!?」
「わたしの《浄化魔法》なら効く……でも、詠唱に少し時間がかかるの……!」
「了解です、時間を稼ぎます!」
「えっ、タイゾウさん!?」
僕はシェリーさんの背後から飛び出し、再びスカルドレイクへ突進。
どす黒い息が肌に直撃し、焼けるような激痛が広がる。
「ぐっ……っ……!!」
それでも僕は鼻を巻きつけ、スカルドレイクの首を引き寄せる。
「こんのおおおおおおおっ!」
分厚い皮膚を突き破る毒の痛みに耐えながら、全身の筋力で巨体を地面にねじ伏せていく。
象牙を突き立て、さらに押し込む!
「フルルルルル……ッ!」
スカルドレイクが苦しげに身をよじるが、僕は耐えた。
耐えて、耐えて、押し込む。
「ありがとう、タイゾウさん……今だっ! 《ターンアンデッド・エクセレント!!》」
光が迸る。
天から降り注ぐような眩い白光が、スカルドレイクを包みこむ。
「ギィィィィィィッ!!」
骨が軋む音、砕ける音、消えていく呻き。
スカルドレイクは白光に焼かれ、ゆっくりと風化していった。
空を覆っていた不吉な鳥たちも、光に追い払われたかのように、ぱらぱらと飛び去っていく。
「……勝った……! ぱおーん!!」
僕は鼻を高く掲げ、勝利の咆哮を空に響かせた。
けれどその喜びも束の間——
「うっ……!」
シェリーさんがその場に崩れ落ちそうになる。
「シェリーさんっ、大丈夫ですか!?」
「だ、大丈夫……だけど、タイゾウさんの方が……!」
よろめく彼女を僕の鼻で支える。
「ありがとう、タイゾウさん……それじゃあ、《ヒール》!」
優しい光が僕の体を包み、腹の傷がふさがっていく。
けれど、肌の黒ずみはまだ消えない。
「……呪いも入ってる。次は……《ディスペル》」
シェリーさんが青白く輝く魔力を手に宿すと、黒ずみもすうっと消えていった。
「これで完了……よかった、間に合って」
安心したように僕の鼻に寄りかかる彼女。
わぷっ……またお胸が……って、今はそれどころじゃない!
「シェリーさん、これ飲んで!」
リリアがすかさずスタミナポーションを手渡す。
「うぷっ……ありがとう、リリアちゃん」
「お互いさまだってばっ!」
肩を叩き合う二人に、心が温かくなる。
「しかし……さすがだな、タイゾウ殿」
「まさか単独でスカルドレイクを押さえ込むとは……」
レオンさんとアイクさんが感嘆の声を漏らす。
「えへへっ、それほどでもないぞう!」
みんなの笑顔に囲まれて、僕の心もほんのり温まっていた。
こうして、道中最大の障害を乗り越えた僕たちは、蠱毒の森へ向けて再び歩みを進めるのだった。




