14話
両開きの扉を俺が開け放つと間髪入れずに右脇からエレンが飛び出した。エレンは皆の前に立ちふさがり壁となるために、3フィル(約3メートル)ほど進むと盾をしっかりと構え腰を落とす。
その姿は体格に恵まれてることもあり、まるで砦のように頼もしい。
「陣形を整えろ!」
俺がそう声をかけると同時に残りの仲間たちも飛び出し所定の位置についていく。
俺とミーナがエレンのやや後ろに下がった両脇の場所に立ち、その後ろにルシアとハルが、そして最後尾に遊撃手としてチコが並ぶ。
その姿は矢をつがえたクロスボウを上から見たような形だろうか。
「敵はオークだよぅ、ひのふのみの……5匹!」
最後尾に居ながらもチコがいち早く敵の確認をする。
部屋は幅が6フィル(約6メートル)、奥行きは目測でざっと20フィルくらいだろうか、そのもっとも奥まったところにオークが固まっていたがこちらに気づくと、そのうち4匹が喚声を上げて襲い掛かってきた。
「来るにゃ!」
4匹のオークは揃いの装備で身を固めているようだ、防具はチェインメイルに、素材は判らないが兜をかぶり、そして木製と思われる腕の長さほどの幅の丸盾で身を固め、武器は幅広の湾曲刀を装備している。
「俺と同じ程度の装備、というところか。背後の1匹は……うわっ!」
突撃してきてないオークの様子を確認しようとしたら突如周囲が闇に包まれた。
「暗黒ですわ!、皆さま前へ進んでください!」
どうやら背後に残った1匹は魔術師だったようだ、一定範囲の視界を閉ざす暗黒の魔法により俺たちの周囲が闇に包まれる。
相手からもこちらの姿が隠されるが、自分の周りすら見えないのではこちらが不利すぎる。エレンの言葉を待つまでもなく俺たちは慌てて前進する。
すると、闇を抜けるや否やというタイミングでオークの突撃を受け止めることとなってしまい、なんとか前衛の3人で4匹を受け止めることはできたが後手に回った感は否めない。
また、パーティのすぐ背後に闇を抱えていて狭い範囲に6人が押し込められる形となってしまっている。無論、闇自体に害がある訳ではないので下がることは可能だが視界を失ってしまうのでそう簡単にもいかないだろう。
「暗黒はそんなに長く続く魔法じゃないからなんとか耐えてー」
「チコ!なんとか回り込めないか?」
「部屋の幅が狭すぎるよぅ」
「くぅ、手ごわいですわ」
なんとかこらえてはいるものの押され気味だ、特に2匹を相手にしているエレンは苦しそうにしている。
だが、混戦となっているおかげで敵の魔術師からの攻撃が無いのが救いか、と考えていた時に俺の相手のオークの持つ湾曲刀が赤黒く光を発した!
「これは魔力付与か!?」
くそぅ、こいつをくらったら鎧を貫通される確率があがっちまう。
「これ以上させるかー眠り!」
ルシアが乱戦の隙間から敵魔術師に眠りの魔法を飛ばす。
が、しかし敵は一瞬よろけたものの踏みとどまり効果が発揮されなかった。
「ウチがいくにゃ!」
ミーナはそういうと目の前のオークの盾めがけて体当たりを食らわせた。
体ではなく、盾に対しての攻撃に不意を突かれたのかオークはよろけてたたらを踏む。その隙にミーナは滑るようにオークの横を駆け抜け、魔術師へと駆け出す。
魔矢や氷槍の狙いが定まりにくいように、小刻みに左右に体を振りつつ接近していたが、前線と魔術師の中間あたりで何かに足を捉まれたかのようにつんのめってから立ち止まってしまう。
拘束の魔法か!そして敵魔術師は更に何か唱えている。
「ミーナあぶない!」
「ふにゃ!」
俺が叫ぶと同時に敵魔術師から放たれた氷の刃が体勢を崩したミーナの体に突き刺さる。ミーナは体をくの字に曲げると悲鳴を上げてそのまま糸が切れたように倒れこんでしまった。
「姉さん!」
倒れて動かなくなってしまったミーナを見たハルが、オークの壁の足元を潜るように抜けるとミーナへ駆け寄っていく。
「ルシア、援護を頼む!」
「わ、わかったー。魔矢!魔矢!魔矢!」
ルシアは牽制のために立て続けに魔矢を敵魔術師に放つがじきに魔力が尽きてしまうだろう。
俺は焦る心を押さえつけて未だにお互い決定打を打ち出せていない目の前のオークを観察する。こんな時こそ冷静に対処しなければ。
よくよく動きを見ると、当初からやや力任せに湾曲刀を振るっていたオークだが、魔力付与の援護を受けて以降は決めてやろうという気持ちが強まったのか、さらに力強く、悪く言えば雑になっているようだ。それなら……
「フゴー!」
オークはまるで疲れを知らないかのように湾曲刀を振り下ろしてくる、それを俺は盾で受け止めた。が、しかし、さっきまではがっちりと受け止めるようにしていたのを刃が盾に食い込んだ瞬間に腕を引いた。
すると余計な力の入っていたオークは前のめりになる形となり、倒れまいとバランスを取るために左手の盾を無意識に後ろに引く。
その盾が引かれた隙間に俺は下から剣を突き上げた。ずぶり、と切っ先がオークのあごに突き刺さる、俺がそのまま剣を押し込むと頭を下から串刺しになる格好となった。
オークは一瞬『なんだこれは?』というような目で俺を見たが、すぐにその目から光は消え地面に倒れ伏す。
「はぁはぁ……。クルト、もう魔力がほとんどないよー」
「すまん、もうちょっとだけがんばってくれ!」
魔法を連打していたルシアが荒い息で話してくるが、俺は無理を承知で頼むと剣を引き抜き、敵魔術師へと向かって駆け出していく。
「根性ー! 魔矢!魔矢!魔……」
背後で魔術を行使していたルシアだが、限界まで魔力を使い切ったのか3発目の魔矢の詠唱が途中で途切れ、そして地面に倒れる音が聞こえてきた。
そしてその最後の力で放たれた2本の魔矢が俺の脇を抜けて魔術師に向かっていく。狙いが甘かったのか命中することなく回避されるが、牽制には十分。
倒れているミーナとそれを必死に法術で治療しているハルの横を駆け抜け、敵が再び詠唱を開始しようとしたときには俺はもうすぐそばまで接近して攻撃体勢に入っていた。
「フガーッ!」
魔術師は、魔法の詠唱を諦めると杖、というよりもこん棒にしか見えない1フィル(約1メートル)ほどの木の棒を雄叫びをあげながら両手で構える。
距離があり、敵味方の壁の隙間からの狙いのためにルシアの魔矢はほとんど外れるか回避されていたが、それでも左肩に1発命中していたようで血を流しているのが分かる。
俺はそれを見て、右構えに構えを変えると思い切り横に振りぬいた。
「フギッ!」
剣は杖で防がれたが傷の所為で左腕の力が出せないのだろう、力負けすることなく魔術師の左わき腹に押し込むようにして杖ごと叩き込んだ。
わき腹を切り裂くまでには至らなかったが、ろっ骨を何本か砕くような感触が腕に伝わってくる。そして素早く剣を引くと痛みに膝をついた魔術師の腹に突き入れる。
分厚い腹筋の下にある柔らかい内臓をえぐる嫌な感触と共に刀身が半ばまで潜りこむ、魔術師は一瞬暴れたが口から血を吐くと刺さった剣にもたれるようにして動かなくなる。
魔術師の肩に足をかけて剣を引き抜こうとしたときに背後からチコの悲鳴が聞こえてきた。
急いで剣を引き抜き、慌てて振り返ると足を抑えて倒れているチコが見える。距離があってどこをやられたのかはっきりとは見えないが状況からして足をやられたのだろう。
「チコ!」
エレンが悲痛な叫びをあげるが、既に2匹オークを受け持っている状態では助けることはできない。
ルシアは気絶していて、ミーナは負傷、ハルはその治療中とあっては俺が行くしかない!
「今行く、待ってろ!うわっ!」
しかし、駆け出したとたんに何かに足を取られて転んでしまう。
くそっ、死んだと思い込んでいた魔術師に足を掴まれている。
「グゲゲ……」
「離しやがれ死にぞこないが!!」
「グギャー!」
俺の足を掴み、血を吐きながら笑っている魔術に顔面に剣を叩き込むと今度こそ奴は動かなくなった。
死にながらも掴んだままの手を引きはがして立ち上がると、チコが倒れたまま短剣でオークの攻撃をなんとか受け止めているのが見える。しかしこのままでは時間の問題だ。
慌てて駆け出そうとしたときに、今までハルの治療を受けていたミーナが跳ね起きるや、矢のように走り出した。
「シャーッ!」
「ギャア!」
そしてそのままの勢いでチコに切りかかっていたオークの背後に強烈な跳び蹴りを食らわせると、吹き飛んだオークに馬乗りになり顔面に連続して拳を叩き込む。
「にゃにゃにゃにゃにゃ!」
「フゴッ!フギッ!ギャオ、グゴ……」
殴られるたびに悲鳴を上げて痙攣していたオークがやがて静かになった。しかしそれと同時にミーナも力尽きたようにオークに倒れこんでしまった。
「姉さん!」
そして、それを見たチコがはっとしたようにミーナに駆け寄ろうとしたが、エレンが今まで抑え込んでいた2匹の内の1匹がさっと遮るように立ちふさがり右手の湾曲刀を振り下ろす。
ガツン、という音と共になんとかその攻撃を防いだが体格差、そして絶対的な力の差でこらえきれずに仰向けに倒されてしまう。
慌てて俺は走り出すが、とどめを刺そうとしているオークに間に合うか……
しかし何故かオークは再び湾曲刀を振り上げた体勢のまま止まっている。
「うおおおおーっ!」
俺はその隙に雄叫びをあげてチコを飛び越えるようにして突きを入れると、オークはわずかに盾をかざして受け止めるしぐさをしたものの明らかにその動きは鈍く、切っ先は鎖帷子を突き破って胸板に突き刺さった。
すかさず剣を引き抜き、首元にとどめの一刀を叩き込むとオークは半回転してうつ伏せに倒れて動かくなる。その背には深々とクロスボウの矢が突き刺さっていた。はっとしてチコに目をやると座り込んだ姿勢のままでクロスボウを構えているのが見えた。どうやら敵の動きが止まったのはチコのお陰のようだ。
「助かったチコ!ハルはミーナとチコの怪我を見てくれ。エレン、そいつが最後だ、前後から挟み撃ちにするぞ」
「は、はい」
「わかりましたわ!」
俺の声を聴いて開幕からひたすら攻撃を受け止めていたエレンの動きが変わり、攻勢に立つ。
「おら、いくぞ!」
俺はオークを挑発するように声をかけながら背後に回り込んでいく。
オークは俺を気にして背後を取られないようにしようとするがエレンの攻撃が激しく思うように位置取りが出来ないようだ。
「それ、そら!」
挟んだ状態で大きな攻撃を仕掛けると同士打ちの可能性があるので、俺はわざと声をかけながらの牽制攻撃にとどめ、主攻をエレンに任せる事にした。
必死に防戦するオークとつかの間の膠着状態に陥ったが、人間型の生物が前後同時に長時間の集中を続けることは難しい。
隙の大きくなったオークの右肩に俺の剣が食い込むと、それに呼吸を合わせたかのように次の瞬間にエレンがモーニングスターですくい上げるようにオークの持つ湾曲刀を跳ね飛ばした。
そして振り上げたモーニングスターをその軌跡の頂点でくるりと手首を翻し、自分の飛ばされた武器を見て呆然と見ているその頭に叩き込む。オークが跪くようにしてから前のめりに倒れこむと、この部屋で俺たちのパーティ以外で動くものは居なくなった。




