13話
グレン達のパーティを救援してから7日後、ついに俺たちの目の前に門番の待ち受ける部屋の扉が現れた。
「ここが上層最後の門番の部屋ですか」
「8層を突破できれば晴れて中堅冒険者の仲間入りだねぇ」
「なんかカッコいい響きにゃー」
目的の場所に辿り着いて盛り上がるパーティ
「それは明日のお楽しみだ、今日はもう余力が無いから後はおっかなびっくり入り口まで戻らないとな」
水を差すようで気が引けるが、今日はとても突入できる力は残っていない。むしろ慎重に迷宮を出ることを考えなければいけない状態だ。
「それでは皆さん。門番の事は家で考えるとして、今は気を引き締めて帰りましょう」
エレンの呼びかけにそれぞれの調子で応じると、俺たちはゆっくりを来た道を戻り始めた。
「そんで、8層の門番はどんな敵なのかなー?」
「出てくる可能性がある敵は、インプ、ウッドゴーレム、オーク、シャドウってころかな」
シャドウは階層で強さが変わるために、どの階層でも出現する可能性がある敵だ。
「強そうな名前のモンスターが増えてきていますね」
「実際強くなってるからねぇ」
「特徴などはわかりますの?」
エレンの問われたチコが手元の丸めていた樹皮紙を広げる。
「インプは猿にコウモリの羽を付けたような奴で、初歩的な魔術と鋭い爪が武器だねぇ」
「飛んで魔法とはずるいにゃ」
「しかし、打たれ弱いようだから開幕で一気に押してしまえそうではあるな」
「んだねぇ、そんじゃ次にウッドゴーレムだけど、これは名前の通り木製のゴーレムだよぉ、こっちはかなり打たれ強いっぽいねぇ」
どうやら単なる木のままではなく、魔法で防御性能なども上がっているらしい。
「火球が使えれば良く燃えそうだねー」
「無いものは仕方ない、油や火矢の準備をしていくか」
まぁそんな簡単には燃えないと思うが、用意しておくに越したことは無いだろう。
「あとはオークかぁ、シャドウ今までのよりも若干強くなってるってくらいだろうしなぁ」
「オークは遥か北方に自らの国を構えていると聞きますわ」
「ああ、オークは人間よりも力が強いし、国を作るくらいだから頭も悪くないよぅ。メイジなんかもかなりいるらしいしよぅ」
「力任せの蛮族なんて思ってると痛い目を見るという事か」
「手ごわそうですね」
一通り、チコが情報収集してきた結果を皆に伝え終わる。
「明日はいつも通りなるだけ戦闘を避けて門番の部屋を目指しますのよね?」
「ああ、それでもし突入後に厳しいと思ったら撤退する。まだまだ装備や術なんかも整える余地はあるから無理はしない。皆もそのつもりでいてくれよ」
「わかったー」
「お姉ちゃん、大丈夫かな?」
「ハルはウチが守るから心配いらないにゃ」
勝てないかもしれないという話にハルが不安そうになるが、ミーナがその頭をなでながら安心させている。
「それじゃあ今日はもう寝るよぅ、明日はまず雑貨屋に寄って必要な物を買い込んでから迷宮に挑戦だよぅ」
「わかりましたわ」
「了解」
打ち合わせをお開きにすると、俺たちはそれぞれの寝室へと向かった。
無事に8層目を突破できれば中堅冒険者の端くれとなれるが、それよりなにより仲間を失わない事を最優先に心がけよう。
翌朝、クルト達は準備を整えると勝手知ったる迷宮へと向かう。
「あら、ずいぶんと気合の入った顔をしているのね」
「今日は8層の門番に挑む予定だよー」
「気を付けろよ~」
螺旋階段を下りて、迷宮へと抜ける鉄格子を守る門番に見送られつつ8層目へ跳ぶべく転移装置のある部屋へと足を向ける。
「今日は随分と混雑していますのね」
エレンの言う通り転送装置のある部屋にはざっと見て15人ほどの冒険者が集結していて、俺たちを含めれば20人を超えそうな勢いだ。いつもは広く感じる場所が息苦しく狭いほどだ。
「あれはレオンさんじゃないかなー」
「そうみたいだ。どうやらこの連中は彼のギルド関係かな」
忙しそうに指示を飛ばしているレオンさんに声をかけるのは少々気が引けたので、その脇を抜けつつ転送装置へ向かう事にした。
「おや、君たち」
と、すれ違う時にレオンさんの方から声がかかったので俺たちは足を止めて挨拶をする。
「どうも御無沙汰だよぅ」
「結構な人数ですが深層への挑戦ですか?」
「ああ、18層の探索へ行くつもりだ」
「あたし達は8層目の門番退治だよー」
「そうか、上手くいけば中堅冒険者の仲間入りだな。がんばれ」
かなり差がある話だが俺たちをバカにするような様子はなく、爽やかな笑顔で応援してくれる。
「ありがとうございますわ。レオン様の探索も上手くいくことを祈っております」
「ありがとう、いい加減19層を拝みたいからな、気合を入れて行ってくるよ」
レオンさんはそういうと軽く手を振って再び仲間の輪の中に戻って行った。
さて、俺たちも気合を入れて8層へ跳ぶとしよう。
俺たちは通いなれた感じのある8層目を慎重に進んでいく、門番討伐が目的の日はいつも通りモンスターとの接触を最低限にするべく慎重に行動する。
先頭に立って常に聞き耳を立て、更にトラップにも気を配っているチコの負担が大きいために適宜休憩を挟んで集中力を切らさないようにする必要がある。
無論休憩中はチコにはリラックスしてもらい、俺たちが周囲の警戒をすることになっている。
「もう大丈夫だよぅ」
「それじゃあ行きましょう!」
チコの声にハルが元気よく応じて立ち上がる。やる気十分といった感じで頼もしい限りだ。
門番まであと三分の一ほどの位置まで来た時の事だ
「天井のアレはなんにゃ?」
ミーナの言葉で天井に目を向けると、丁度チコの居るあたりの岩の隙間から何か黒っぽい液体のようなものが染み出してきているように見える。
「チコ! 上に何かいる避けろ!」
嫌な予感を感じた俺がとっさに声をかけると同時に、黒い何かがチコに跳びかかるように落ちて行った。
「あぶないなぁ」
チコは俺の声に反応してすぐさま横っ飛びに身を投げたおかげで黒い何かに覆い被られずに済んだが、結構ギリギリだった割に緊張感のない言葉にこんな時だが微笑を誘われる。
「これはスライム…… ブラックスライムですわね」
同じく駆け寄ったエレンが呟く、これがスライムという奴なのか8層目まで来て初めて見た敵だ。
観察しているとスライムは体(?)をたわませるとバネのようにエレンに跳びかかってきた。それを受け止めたエレンの盾からは何か妙な臭いがしてくる。
「盾が溶かされてるっぽいよー。こんにゃろう! 熱風」
ルシアが上手い具合に盾の表面をあぶるように魔法をぶつけると、スライムは魔法から逃れるように盾から飛び降りた。スライムが張り付いていた盾の表面が金具も板の部分も少し溶けてしまっている。これは剣が効かないという事だろうか……
「ほいっとぅ」
さて、どうしようかと考えていると、チコが無造作に油の入った小瓶をスライムに投げつけ、そして小瓶が割れて油がスライムに行きわたったところで火縄をぽんとその上に放つ。するとスライムは油もろとも盛大に燃え出した。
「良く燃えるにゃー」
「そうですね」
「あまりいい匂いではありませんわね」
炎から逃れるようにのたうち回るスライムだったがやがて動かなくなる。
結局ブラックスライムはそれだけで終わりだった、チリ一つ残さず燃えてしまったので全くのタダ働きであるが、今日の目的は稼ぎじゃないのでよしとしておこう。
「ウッドゴーレム用の装備が役に立ちましたね」
「備えあれば憂いなしにゃ!」
「そうだな、被害も特に無く済んで良かった。それじゃあ引き続き警戒しつつ進むとしよう……。チコ、頼むよ」
「お任せだよぅ」
その後は単独行動していたコボルトと遭遇したが、こちらを見るなり一目散に逃げていってしまったので戦闘もなく目的地までたどり着くことができた。
「とうちゃくー」
「ここからが本番ですわね」
「ああ、そうだな」
決戦前の一休みという事で俺たちは扉のそばに腰を下ろす。
「どきどきするにゃ」
「ボクもです」
「いつも通りやればいいさぁ」
チコはそう言うが門番戦を間近にするとどうしても緊張してしまう。腕前も心構えもまだまだということなんだろう。レオンさんたちもこんな気持ちで戦っていたことがあったのだろうか?
どうも今の余裕ある感じからは想像できない。俺たちもいつかはあんな風になりたいなぁ。
「それでは休憩ついでに門番の対象となる相手の復習でもしておきましょうか」
「覚えるのはにがてにゃ」
「大丈夫大丈夫、それじゃインプからいくよぅ……」
「それじゃ準備はいいな?」
「はいにゃ」「大丈夫です」「問題ありませんわ」「おっけー」「ばっちりだよぅ」
声をかけると皆から返事が返ってくる。どうやらいい感じに緊張もほぐれているようだ。多分、俺が一番固くなっているかもしれない。
「よし、行くぞ!」
そんな考えを振りほどくように俺は扉を勢いよく開けた。




