お疲れパーティーin地球
大変お待たせしました。
ゴボゴポッ……という水が抜ける音が耳元に響く。その音が響く理由は、拙者が今円筒形のカプセルの中にいるからだ。
そう思っていると、プシュゥ……とカプセルが開き始めるのかそんな音が聞こえると共に、室内の少し暖かく調整された空調が足の指先に届く。
液体が体に纏わり付いているからだろう、妙にくすぐったい感覚が足先に走り……拙者はゆっくりと瞼を開ける。
「ここは……、戻って……きたみたいだな」
ポツリと呟きながら、カプセルが完全に開くまで待ち……完全に開き終えてから、拙者は起き上がった。
すると、置き上がったからだろう、肌に付いていた液体がネバーッと垂れた。
「……何だかヌルヌルしているが、滑りはしないだろうな?」
そんな不安を感じつつ、カプセルの端に手を置き、ゆっくりと立ち上がる。
……大丈夫みたいだ。ヌルリとした感触と共にずるっと滑ると予想していたけれど、そういうことは無いようなので……ゆっくりと歩き始める。
もしかすると床のほうが何か特殊な加工でもしているのか? そんな疑問を抱いたが、普通にリノリウムの床だった。
「うぅむ、謎だ……。それに、液体が床にも染み込まないようだし……、っとそろそろ体に張り付いた液体を流すべきだな。シャワー室は……」
今現在の自分の姿を想い出し、拙者は歩き出す。……が、途中、室内に設置されている全身を見る姿見を見て固まった。
それはそうだろう。何故なら、今の拙者の姿は神さまが送りつけてきた白いビキニ姿なのだから……。それがネバネバとした液体で彩られていた。
好色な瞳で見る者が居たら即効叩き切るほどだ。……が、問題はそれだけではない。
「な、なんだこれはぁっ!?」
所謂濡れ烏、と呼ばれる髪色であった拙者の髪が……白髪と見紛うばかりの銀色に変わっていたのだ!
当然驚きが隠せない。……が、あることに考えが至った。
「まさか、向こうの世界でエルサに与えられた力に覚醒したからなのか……?」
可能性は、ある。というよりも、大いにあるだろう……。神というものは人知を超えるものなのだから。
そう頭の中で結論付け、何と言うか釈然としない気持ちを抱きながら、拙者はシャワー室へと入りシャワーを浴びた。
雨のように体を打ちつける温かいシャワーは、体に纏わり付いていた液体を流し……体の芯を温めていく。
液体内は変化は無いと言われていたけれど、知らず知らずに冷えていたのだろう。
そう思いながら、体を温めながら水着を脱ぐ。……水着と肌の間にも液体が入り込んでいたようで、何と言うか微妙な感じがしたので、念入りに洗い流した。
ちなみに用意されていたシャンプーなどはもしかしたら上質なものなのだろう。何せ、もこもこという表現が正しいと言えるほどに泡塗れになったのだから……。
「……ふぅ、落ち着いた……」
体と髪に付いた水滴をふんわり柔らかなバスタオルで軽く吹き取りながら、息を漏らす。
バスタオルからも、拙者自身からもふんわりと良い香りが漂い、何と言うか気恥ずかしい気持ちとなる。
今までお洒落などに気を配ったことが無い。だから、気恥ずかしく感じるのだ。
そう考えながら、水滴を吹き取り……、持って来ていた荷物から飾り気の無い下着を身に付ける。
「…………ん?」
なんだろう、ちょっと胸が苦しいが……でかくなった覚えなんて無い。多分気のせいだろう。
そう考えながら、着替えを取ろうとしたとき――それに気づいた。
「箱?」
机の上に箱が置かれているのだ。
何時の間に置かれたのかは分からないけれど、開けないといけないだろう。そんな風に思いながら、箱を開けると……。
「ドレス?」
綺麗に畳まれていた黒色のドレスがあった。何と言うか、今の髪色に似合いそうな色合いの物だ。
そんな風に想いつつ、いったいどうするべきなのか悩んでいると……メッセージカードが置かれていることに気づいた。
いったい誰がこれを持ってきたのか。そう疑問に思いつつ、カードを手に取ると、ささやかな食事を用意したのでドレスに着替えて初めに集まった場所に向かって欲しいことが書かれていた。
「なるほど……、向こうの世界でパーティーをしたけれど、今度はテストプレイヤーのみでのパーティーということか」
置かれている状況で考え、拙者は一人呟く。頭の中で考えるよりも口に出して考えたほうが、考えは組み立て易いと思うしな。
それに……、これからもゲームでも度々会うことになりそうだから、改めて紹介させて貰うほうが良いか。
そう考え、拙者は箱からドレスを取り出したのだが、ハリウッド女優が着るようなスラッとした人魚みたいなデザインだった。
生地のほうも上質すぎるわけでは無いだろうけど、安い素材でないというのは何となく分かった。
「しかし、ドレスなんて着たことが無いから……着方が分からぬ。……普通に下から上に引いて着るのか、上からすっぽりという感じだろう」
結論付けると、拙者はドレスを着用する。
……まあ、結論から言うと、どちらも胸がつっかえてしまい、悩んでいたところ……施設のスタッフである弁天さんが声を掛けてきたので、彼女の手を借りて着替えを行った。
しかも、「女性は美しくあるべきですから」と言って、何処かからか化粧箱を取り出しメイクも行ってきた。
嗅ぎ慣れない化粧品の香りと着慣れないドレスに気恥ずかしさを感じながら、拙者は廊下を歩き、初めに集まった広間へと向かったのだった。
◆◇◆◇◆◇
広間の扉を開けると、拙者以外の者たちは待っていたようで全員席に座っていた。
……いや、拙者以外の席にも空きがあるな。誰の席だろうか?
そう思っていると、視線が拙者に注がれていることに気づいた。
「な、なんだ? 拙者は何処か変だろうか?」
「拙者って名乗り方……、まさかブシドーなのかっ!?」
食い入るようにこちらを見ていた女性――口調と顔立ちからしてサンフラワーだと思う――が驚きながら席から立ち上がった。
何と言うか、初めて見たときとのギャップがかけ離れすぎているな……。
いや、そう言えば初めて会った2日前は、周りに関心が無いようだったな。
そう思っていると、黒い髪をウェーブ状にしている……いや、どちらかと言うとガッチガチにしていた髪を解いたであろう印象の女性が拙者へと近づいてきた。
誰だろうか? そう思いながら不思議そうに見ていると、大人しめのドレスを着たその女性が申し訳なさそうに頭を下げてきた。
「あ、の……『ブシドー』さん、ですよね……?」
「あ、ああ、そうだが……。そちらは?」
「ア、『アニマステラ』……です、本名は田中よし子……です」
アニマステラ、その名を聞き……強烈な日々を過ごした結果、ぼんやりとして思い出し難くなっているアバターの顔立ちを必死に思い出すと、少しばかり見覚えのある顔立ちであることを思い出した。
同時に、エルサが言っていた魂を綺麗にしていたと言う言葉を思い出していると――またも頭を下げてきた。
「ア、アニマステラさん?! どうしたのだっ!?」
「あの、本当に……本当に申し訳ありませんでした! 向こうの世界では貴女にも、それに皆様にもご迷惑をかけまして、本当に申し訳ありません!!」
拙者に頭を下げ、グルリと体を回し……円卓に座る他のプレイヤーへも彼女は謝る。
そんな彼女、アニマステラへとサンフラワーが円卓の縁に肘をかけながら問いかけた。
「わたくしは別に気にしてないけど、これからてめぇは……エルミリサをどうするんだ?」
「向こうの世界のことではあるが、こちらへの魂と肉体の影響は大丈夫か?」
「色んなモンスターを混ぜ合わせまくってて、アニマステラさんの魂、かなり穢れてしまってたよネ?」
そう言って心配と同時に影響はないかと、サンフラワーに続いて黒いタキシードが似合っている流星さんと紫の生地に豪華な刺繍が施されたチャイナドレスを纏っている嵐牙さんが問いかけて来た。
彼らの問いかけに、自信という物が欠落してしまっているように見えるアニマステラはたどたどしく話し始める。
「は、はい、大丈夫です。……正直、あのときのことは思い出そうとしても、霞みがかったように思い出せません。
ですけど、覚えていることはあります。あのとき、わたしのエルサさんに対する狂気染みた嫉妬が引き金となって、アニマステラの体を覆っていた無数のモンスターたちの魂がわたしの――アニマステラの黒ずんでいた心と魂を侵食してきました。
……その侵食は魂から引き起こされるほどの激しい痛みで……痛みに体が動かせなくなって、侵食された魂によって……わたしという存在も闇の中に消え去っていく。そうなるはずだったんだと思います。
もうわたしがわたしだと分からない、そうなって……消えそうになっていた瞬間、わたしという存在を光の風が救い出してくれました。
そのあとは……、誰かの声を聞きながら、長い間眠っていたような感覚があります」
彼らの問いかけにアニマステラは答えて行く。その言葉を聞き、彼らは納得したように頷いていく。
拙者も、彼女の言葉を聞きながら……多分、これが魂の浄化なのだろう。と考えていた。
事実その考えは当たっていたようで、可愛らしい緑色のドレスに身を包んだ樹之命が言った。
「あの、それは十中八九、魂の浄化だと思いますぅ。それは穢れに穢れ切った魂をまっさらにするものなので、上位の神さまの技と言われてるものですね~」
「浄罪、ということか?」
『そう考えて貰えれば良いじゃろうな』
「はい、命さまもそう言っていますので大丈夫です~」
昔聞いた言葉を呟くと、彼女の隣に控える半透明の存在が頷く……って、何故か普通に見えるのはやはりエルサの影響なのか?
見えていない、そう思いつつ代弁する樹之命を見ながらそう思うことにする。
「……そういえば、ジ・ゴールドはどうしたのだ? 先程から足りないと思っていたのだが、居ないのはあのご老人だろう?」
反応からして、彼らの中ではある意味凄い出来事であろう状況。若干の戸惑いを見せる彼らを見ながら、拙者は誰が居ないのかをようやく気づき、訊ねる。
すると、何と言うか聞くべき話題ではなかった。そう思わせるような微妙な表情を一同が浮かべたのだ。
そんな彼らの様子から何となくだが、ジ・ゴールドがどうしたのかが察することが出来た。
「あーっと、あのジジイはだな……」
「何と言うか、クレイジーだったネー……」
「……簡単に言うとだ。向こうで我らにされたことに腹を立てていたらしく、ブシドーが来る前に苛立ちながら我らに暴言を吐いて立ち去って行ったのだ」
『うむ、あれは見事な暴言じゃったな。「今に見ておれ、お主らにこちらでも向こうでも後悔させてやるかなっ!」と言っておったからのう』
「家族に厄介事が齎されないか心配ですね~……」
「それもだけど、わたくしらの場合は仕事にも支障が来るんじゃねーのか?」
ジ・ゴールドが行う可能性に頭を痛ませながら、彼らは一斉に「はあ……」と溜息を吐いた。
…………拙者のほうも気をつけたほうが良いだろうか。
いや、大丈夫だろう。拙者の家のほうは家族のほうが厄介だと思うし……。
「……うん? 何だろうか、この良い香りは」
「そういえば……、唾を呑み込みたくなるような香りが何処からか」
『むむっ、この匂いは溜まらん……! 樹、変われ! 変わって妾に食べさせるのじゃ!!』
「ええっ!? み、命さまぁっ!?」
何処かから芳しい香りが漂い始め、匂いがどこからしているのかを見渡していると、拙者たちが入っていた部屋とは違う扉が開いた。
瞬間、部屋全体が美味しそうな香りに包まれた。いや、これはきっと美味い、美味いに違いない!!
そう思いながら開かれた扉を向くと、ダイコクさんやベンテンさん、他数名のスタッフがカートを引いて現れた。
美味しそうな匂いの元、それはきっとかーとの上に乗っている物に違いない。そう拙者は思った。
「お待たせしました。皆様への食事を用意しましたので、この2日間……いえ、向こうの世界での2ヶ月を労ってください。ささ、ブシドーさまもお座りください」
「あ、ああ、分かった」
「それでは、食事はコース料理のように出させて頂きます。まずはお飲み物をどうぞ」
ダイコクさんの言葉と共に拙者は椅子へと座る。
すると、拙者が座るのを待っていたと言うように、座る拙者たちの前へと飲み物が置かれた。
歪な形ながらも透明度が高いグラスに入った澄んだ綺麗な飲み物だった。が、そこから漂ってくるにおい、それは……。
「この香り高いが、ツンとしたアルコールを感じさせるにおい……酒か?」
「いえ、香りは酒に近い物ですが、中身は違うものですからご安心ください」
「そう……なのか? まあ、例え人の作った決まりだとしても、神が破るわけがないだろう。ならばいただかせてもらおう」
若干の不安を感じた。だが、この香りに逆らえることが出来ず、拙者はその飲み物に口を付けた。
その瞬間、口の中を程好い炭酸の刺激と共に様々な果物の味が広がっていった。
「――――っっ!? こ、これは、なんだ……!? 懐かしいはずなのに、味わったことがない……それに一度に数種類の果物を食べたような感じがした!」
何と言うか、懐かしくも新しい。そんな感じの味わいの飲み物。
その味に驚いていると、周囲も驚いた表情を浮かべていた。
「これは……、神水か?」
「それに果物の果汁が垂らされているようだけど、どれも神聖だぞ?」
「Oh-……、ワンダホー」
「何と言うか染み渡ります~……」
『た、樹……後生じゃ、一口、一口飲ませておくれぇ!』
彼らの言葉を聞く限り、きっと滅多にお目にかかれない飲み物なのだろう。
そう考えながらもう一度味わいながら口に含むと……、全身に何かが行き渡る感覚を感じた。
すると、体が軽くなった気がしたのでこれの効果だろうと考えることにした。
「お飲み物はお楽しみいただけたようですね。それでは次は――」
ダイコクさんがそう言うと、笑みを浮かべながら料理をテーブルの上へと置いていく。
前菜、スープ、魚料理、肉料理、出される様々な料理を味わい、舌鼓を打っていくと共に体の底から力が漲っていくような感覚を感じていた。
時には味の感想を口にし、時には味の深みを感じじっくりと味わい、時にはお代わりを所望してしまったり……。
そして最後に……酸味と苦味を感じさせるコーヒーと共に出されたクッキーを口にし、目を見開いた。
――これは、美味すぎる…………!
サクサクとした食感、口の中に広がるあっさりとした甘み、ほんの少しの塩辛さが甘みを引き立たせているにも拘らず自分が主役であると言う自己主張をしていない。
まさにコーヒーのつけ合わせであることを目的としているクッキーだった。
「いかがでしたか?」
「……どれもこれも素晴らしい物だった。それに、この料理のお陰なのか我の持つ魔力が上がった気がする」
「あ、ワタシも体が軽くなった気がするネ!」
「ああ、そう言われてみるとそうだな。これなら一気に教団殲滅出来るかも知れねーけど、一手足りないな…………あ」
「はふぅ、ごちそうさまでした~」
『うむ、美味かったぞ! ……せめてもう少し樹が主導権を寄越してくれればよかったのじゃが……』
「ベリーグットだったネー!」
「…………美味かった。とても、美味かった」
各々が味の感想を口にし、拙者も素直な感想を口にする。若干悔しい気持ちがあるが……。
「そうですか、調理した者も喜んでいると思います」
ダイコクさんとベンテンさんが拙者たちの感想を聞きながら微笑む。
……多分、拙者の気持ちもばれているのかも知れない。
そう思いながら、協力を感謝する言葉が語られ、あっという間に集まりは終わりを向かえた。
◆◇◆◇◆◇
ビルの外に出ると空は既に暗くなっており、所々で明かりが灯り始めていた。
そんな中、ビルの前には数台の高級車らしき車が横付けされる。
ビジネス街に合っているようで微妙に不釣合いな感じがしたが、その持ち主である人物は平然と前へと出てきた。
「リアルで会う機会は多分無いだろうが、向こうで会えたら……またよろしく頼む」
「また会おウ! あ、今度お店に来たらご馳走するヨー」
「ミーは何時でもゲームでもリアルでもお誘い待ってるから、よろしくネー!」
そう言ってメイドを連れた流星さんと嵐牙さんとブラッドレックスさんが車に乗り込むと帰っていった。
そんな彼らへと拙者は軽く頭を下げてから、手を振って見送った。
ちなみに嵐牙さんが言ったご馳走するというのは、食事中の話題で知ったことなのだが彼女は都会のほうで一度聞いたことがある有名な中華料理店を経営しているらしく、食事に誘ってくれたのだ。
なので長期休みなどで時間があるときには、食べに行きたいと思う。
「あの、それじゃあわたしも失礼します。……また向こうではゼロからスタートですが、間違えないようにがんばります」
「誘ってくれたらステータス上げにも手を貸すから、出来るだけ頼ってくれ」
「わたくしも、手が空いてたらだけどな。まあ、暫くは無理だけど……」
「はい、ありがとうございます。では……」
アニマステラさんがそう言うと、頭を下げてこの場から立ち去っていく。
同じく食事中に聞いた話だが、彼女の会社はブラック企業らしくストレスが溜まって大変だろうけど精神が可笑しくならないよう頑張って欲しいと思う。
「さて、では拙者たちも帰るとするか。……だが、この髪の色はどう言えば良いのか…………」
最後に残ったサンフラワー、樹之命の2人へと振り返り、拙者は言うのだが……髪のことを思い出し、眉を寄せる。
……あの後、食事を終えてしばらく待ってみたのだが、この綺麗な銀髪はまったく元通りの黒髪に戻ることは無かった。
一生このまま、と言うことは無いだろうが……どれくらいの期間治らないのかが不安だった。
いや、それよりも問題なのは家族に何と言えば良いのかだ。
「この銀髪を家族に見られたら、「遅すぎた非行」とか「今頃変な趣味に目覚めた」とか「やっぱり、彼が居なくなったのが堪えたのか……」とか「今回の集まりに行かすべきではなかった。死んで詫びろ!」とか言って来そうだ……」
「何と言うか物騒な家だな……。って、剣術一家だったか?」
「というか、死んで詫びろって……、本気ですか?」
「いや、剣術というよりも、実際は何でもありの古武術系だな。そしてお爺様は……本気だ」
さすがに冗談と思っていた樹之命が拙者の真剣な言葉に本気と察したようで何も言えなくなっていた。
本当、どうするべきか。……下手すればゲーム機を破壊されてしまうだろう。更には丸坊主にもされるかも知れない。
……この力で勝てるかと聞かれたら、きっと負けるだろうし。
「ブシドー。お前ってさ、人斬ることに抵抗あるか?」
「いや、サンフラワー。貴様は突然何を言っている? まあ、抵抗は無いけど」
頭を悩ませる拙者へと突然サンフラワーが突拍子も無いことを問いかけて来た。
一瞬こいつの精神異常を疑ったが、拙者も律儀に返事を返す。
というか、こいつは何をやらせようとしているのだ? ……まて、こいつエルサの前で何て言った?
「そうか、無いか。だったらちょっと頼みがあるんだ」
「断る。拙者は一般人だ。ただの高校生なんだ!」
「大丈夫大丈夫、魔法使いとか神に関わった時点でもう一般人じゃねーから。ってことで、アルフ。同行者一名追加だ」
「かしこまりましたお嬢様」
サンフラワーが何を考えているのか、拙者の頭が認識した瞬間――彼女の後ろに控えていた老年の執事が拙者を車の中に押し込んでいく。
「ま、待てッ! 拙者は、普通の人生を送ると――」
「樹之命、向こうでエルサに会ったら、ブシドー借りていくって言っておいてくれよ。そんじゃなー!」
「え、あ、は……はぁ~。頑張ってください~」
抵抗しようとした瞬間、既に拙者を押し込んだ車は猛スピードで走り始めた。
そんな拙者らをちょっと戸惑いつつも樹之命が手を振りながら見送っていった。
「は、放せ! 拙者は普通に生きるのだ。だから、そのような物騒なことに関わるつもりはな――――はにゃ」
「暴れると面倒なので、少し眠っていてください」
「よくやった。アルフ、ってことでこのまま向かおうか!」
「かしこまりました」
薄れ行く意識の中、楽しそうな声で放すサンフラワーの声を聞きながら……拙者の意識は飛んで行った。
こうして、雪火ちゃんは新しい世界へと踏み込んでしまいました。
人間、適度なストレス無いと駄目って知りました。




