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善悪の裏

お待たせしました。

「――以上が、今回皆さんがルーツフ島で行動した結果、急遽追加されることとなった機能です」


 突如現れた神さまが説明をした追加内容を聞き、オレは唖然としていた。

 ……普通、機能を突然追加って大丈夫なのか? 運営的にもさ?

 オレがそう思っている一方で、神さまと会ったことがあるブシドーを除いた全員は真剣に話を聞いていた。

 多分神さまと言う存在が珍しすぎるのだろう。……って、サンフラワーさんがキラキラとした瞳で神さまを見てるぞ?

 まさか、オレが成長するとこんな感じになるんだろうなーって思ってるんじゃないだろうな?

 そうじゃないって思いたい……。

 そう思っていると、流星さんが挙手をした。


「神よ。ひとつ、良いだろうか?」

「はい、流星さん。どうしましたか?」

「善人悪人、それがゲーム上で決まるのは我は構わない。だが、その裏に秘められたものを我は知りたい」


 あ、そう言えばそうだ。ただ端に悪人善人だって判断されたとしてもそれがどうしたって言うところだ。

 善人悪人かでNPCが態度が変わる可能性もあるかも知れない。それに受けることが出来るイベントも変わっていたりするかも知れない。

 だけど、それだけじゃない気がする。

 浮かんだ疑問に神さまの返答を待っていると、クスリと神さまは優しく微笑む。

 ……けれど優しく微笑む中にどこか疲れ的なものが見て取れた。

 何だろう、疲れることでもあったのか?


「……まあ、町造りに関わって、色々とエルサさんの異常性を見た貴方がたになら言っても良いでしょう」

「え、何でここでオレ?」


 神さまがオレの名前を出した瞬間、周囲の目はオレに突き刺さった。

 同時にブシドーからはまたかっ!という視線を向けられる。

 そんな困惑するオレの前に……いや、座っているテーブルの中央にある画像が表示された。

 白金色の長い髪を靡かせ、踊り子のような扇情的な薄い衣装を身に纏い、緑と海の二色の瞳を持ち、弓を構える少女。


「これって……、オレとイーゼが……合体したやつか?」

「おお、格好良いのだ!」


 あのときの自分自身の姿はどんな姿なのか分かっていなかった。

 だから改めてその姿を確認すると、所々にオレやイーゼの特徴が出ている。

 ……本当にオレとイーゼがひとつになっていると言うのが分かるようである。

 そして隣では合体していた自分の姿に興奮するイーゼがいた。

 ……それにしても、こんな神秘的な雰囲気だけど萌豚から見たらエロ衣装とか言われそうな姿してたのかオレ……。

 X指定だったら、色んなところ見えてるんじゃないのか? なくて良かったよ、X指定。

 そう思っていると、神さまは口を開く。


「これは所謂ふたつの存在がひとつになっている。向こうの世界の魂とこちらの世界の魂が混ざり合う、極めて危険な状態とも言えるものなんです。まあ、そもそもあちらでも、相当な修練がなければ魂の結合なんて出来ませんが」

「ひとつの器に魂はひとつ。精神的に負担を抱えて心を分ける。というものはあるが、それでも魂はひとつしかない……ひとつの体に無数の魂なんてあると肉体が持たないからな」

「そのための修練も半端無いほどに大変ですからぁ……」


 神さまの言葉に流星さんが理由を語る。

 そして相槌を打つように、樹之命さんが遠い目をして呟く……。何があった?

 そういう物なのか……。つまりは漫画やアニメと言った二次元というのは想像だから出来るものなんだな。

 ……って、あれ?


「それがどうして善人悪人の話に繋がるんだ? 肉体ひとつに魂ひとつって話にしかオレには思えないんだけど?」

「拙者もオカルト系は分からないため、良く分からない……。誰か説明を頼めるだろうか?」


 普通に一般人として育っていたオレとブシドーの二人はさっぱりだ。

 だから、周りに説明を求めることにした。

 ……が、周りも完全に理解出来ていないようで、少し難しい顔をしている。

 教えて神さま! そんな視線を向けると……、


「善人悪人、というのは一種の保護膜、そう思っていただければ良いです」

『『『『保護膜?』』』』

「はい、保護膜です。別の言い方をすると魂の障壁、バリアー」


 よくわからない。そんな表情をしている中で、樹之命さんの側に控えていた半透明の幼女が理解したようで頷く。


『……なるほどのう、貴女様はそこの分け身を理由にしておるが、本当はあのアニマステラという女が原因じゃな?』

「そういうことか。それなら保護膜と言ったことも頷ける。……だが、上手く行くのか?」

「ナルホドネー、バリアー。それなら理解出来るヨ」

「魂の汚染や侵食は厳しい……って、それをこのゲームに組み込むつもりなのネ!?」

「何と言うか、ばれたら色んな意味で地球では叩かれそうになるな……」


 神さまが近くにいるからか、半透明の幼女の存在が見えるようで彼女の声を聞きながら一同は頷く。

 というか、オレが理由で原因はアニマステラ? いったいどう言うことだ?

 分かるか? とブシドーに視線を送るも、彼女も理解出来ないようで首を振るばかり。


「分かった人たちが多いようなので、改めて言わせて頂きます。

 今回、プレイヤーであるアニマステラさんが、エルサさんに嫉妬した結果、無数のモンスターの肉体を合わせてひとつの巨大なモンスターを創り出しました。ですが、その方法では肉体ひとつに無数の魂を受けるというものです。

 その結果、彼女の魂は損傷してしまいました。ですから現在は違う空間で長い時間をかけて修復を行っています。

 つまりは、善人悪人と言う保護膜を使うことでプレイヤーの魂を別の存在の魂に侵食させず、損傷もさせないということを考えている訳です」

「……なるほど。では、それがないと現実でも大きな支障が出るようなことが起きるのだろうか?」

「そのとおりです。所謂、精神錯乱を起こし易くなると言ったところですね。悪ければ、肉体の変化も」


 神さまの説明に頷き、説明を噛み砕いたブシドーが訊ねる。……が、すぐに「うん?」と首を傾げた。

 うん、オレも何だか嫌な予感がし始めた。だから、訊ねる……いや、訊ねないと行けない気がする。


「神さま、まるでその言い方って、これからもアニマステラのようなことが起きるみたいなことに聞こえるんだけど?」

「……有体に言えばそうですね。とは言っても、アニマステラさんのように無数の魂が混ざり合うと言うよりも、エルサさんのようにと言った感じでしょうか」

「あ、ここでオレの話になるのか? って、どういうことだ?」

「今回、エルサさんがイーゼさんとひとつに……神化したのは、心器と言う器があったからでしたが……それ以前にお二人の心が繋がっていたからです」


 それを皮切りに、神さまは説明を始める。

 互いが互いを知り、互いが互いを想い、目的を同じとする。それがあったお陰でオレとイーゼはひとつになった。

 それに近いことが今回のアップデートと言う名目で追加されるNPCの感情表現の向上で起こる可能性がある。

 けれどそれが起こった場合、オレは特例とも言える状態となっているけれど、普通の人はそうではないらしい。

 分かり易く言うならば、その最大の影響が魂の汚染と言うことだそうだ。


「よく分からないけど、つまりは現在神さまが行おうとしているのはオレみたいにこちら側の存在とひとつになったときに、現実のほうで何も影響がないようにするための行動ってことで良いのか?」

「そんな感じですね。ですが、私的にはひとつになるというよりも、自らの魂をこちら側の存在に包まれる。という感じの物を目指しています」


 そう言いながら神さまは、空中に図を描くように指を沿わせる。

 すると、丸い中に魂と書かれた物が表示され、そこに覆うように別の丸が追加された。

 要するに小麦粉と水を混ぜ合わせる。という言い方よりも、包まれる風なイメージで良いようだ。

 所謂餃子や饅頭とか?


「Wow、じゃあこれってどういう名前にするつもりネー?」

「今はまだ隠し情報としてですので、まだ決まっておりません。ですが、エルサさんが今回のイベントでやらかす(・・・・)と考えていますので、名称は必要ですよね?」


 ブラッドレックスさんの言葉に反応するように神さまが頬に手を当て考える仕草をし始める。

 名称というものは大事だろうし、特に神さまがつけるとなるとひとつの形となるんだろうし……。

 ……あれ? それじゃあ、オレの神化って誰が呼び名を決めたんだ? もしかして元々あったとか? うぅん、謎だ。

 そう思っていると、話すことを話し終えた神さまがゆっくりと立ち上がった。


「あれ? もう帰るのか?」

「はい。とりあえず名称のほうは、この世界の住人とプレイヤーの皆さんが言葉を交わし、絆を育むのはまだ先だと思うので、その間に考えておくことにします」

「いい名称を期待させてもらうけど、恥かしいのはちょっと勘弁してあげて欲しい」

「ええ、期待しておいてください。それでは皆さん、明日の朝に長期滞在の期限が来るので……一度ログアウトしていただきますので、よろしくお願いします」


 そう言って頭を下げ、神さまは来たときと同じようにスッとその場から姿を消したのだった。

 …………って、明日の朝になったら、ここに居るイーゼを除いた皆がログアウトするのか。


 その場から居なくなった神さまの言葉に、オレ呆然と思うのだった。

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