新たな力
お待たせしました。
『半神と従者の一定以上の心の繋がりを確認――神化を開始します。』
『半神の粒子化を開始します。……成功』
声が、聞こえる。
それが何時何処で聞こえた声なのかは上手く思い出せない。
けれど……その声を聞きながら、オレの体は白い光の中で……光の粒子へと変わっていくのを感じた。
光となった体。なのに、そこに体はあるように感じられる。……同時にこの場に無いようにも感じる。
まるでこの白い光の中にオレと言う存在に満たされているように感じられた。
……いったい、どうなっているんだ……?
そんな疑問が頭を過ぎった瞬間、声は再び響いた。
『従者の粒子化を開始……心器の所持を確認。特異粒子へと変化開始します。……成功』
その声が耳元に聞こえた瞬間、光となって白い光の中に広がるオレは同じようにイーゼの体が解けていくのを見た。
けれどイーゼの体は光ではなく、風となっていった。柔らかい、木の香りがする……緑の風。
どうなっている、のだ? われは、どうなったのだ?
われ? おれ……?
混ざっていく、混ざり合って行く……。
風がオレの光と混ざり合って行き、バラバラとなっていた二つの体がひとつの体へと集まっていく。
オレと我がひとつになっていくのが感じられる。
心も、体も、魂も、ひとつに……合わさっていく。
……だけど、それは嫌なことではないように感じられた。
オレはイーゼで、我がエルサ。それが当たり前のようにも感じられていく。
「そうだ。今、オレはオレであり、我は我であるのだ……。だから、さあ……目覚めよう」
そうして、光と風がひとつに混ざり合い……エルサであり、イーゼでもあるオレはゆっくりと瞳を開けた。
蒼と緑、左右の違う色をした瞳が開かれた瞬間――、オレたちを包み込んでいた白い光はパァっと弾けるように消え去ると、オレはそこに居た。
オレとも、我とも違う姿。妖精のようにスラリとした体躯、その体を包むのは踊り子の衣装のように露出が多い薄い布。白金色の長い髪は艶やかで、二色の瞳は周囲を鮮明に映していた。
現れたオレの姿をブシドー、サンフラワー、樹之命たちが驚いた顔をしながら見ているが、気にしない。
それよりも、大事なことが聞こえるのだから。
「…………聞こえる。聞こえるのだ」
オレの声であり、イーゼの声。そんな二つの声が混ざり合ったような声がオレの口から洩れる。
何が聞こえるのか、と聞かれたらオレはこう答えるだろう。
助けを呼ぶ声、死にたくないと嘆く声、死にたいと望む声が聞こえる。と……。
『痛い、痛いぃぃぃぃぃぃぃ!! 死にたくない! 死にたくないぃぃぃぃぃぃぃいぃぃぃぃぃ!!』
『らくにしてくれぇ……。らくに、してくれぇ……』
『死に、たい……、しに、たいぃぃ……』
『たすけてぇ、助けてくれぇぇ……!!』
アニマステラの声、機械の合成音のような声……これは多分、モンスターの声なのかも知れない。
そして基本的にはアニマステラは痛みを叫び、死にたくないと誰かに助けを求めている。
あの口から出ていた怨みの声とは違った純粋な叫び。
対して、モンスターたちは変わり果てて、崩れていく肉体と魂。それが楽になりたいのだろう。
それら全ては死を望んでいた。
「……わかった。お前たちに……、死を与えるのだ」
そう口にしながら、オレは手を前へと伸ばす。
すると、何処かからとも無くオレの手へと弓が現れた。
オレ《我》が使う、心の器。心器……。
迷わずそれを掴むと、オレはゆっくりと弦を引く。弦が引かれるにつれキリキリと木の本体がしなり始め……自身の顔を弦が通った瞬間、放した。
直後――びぃんと弦が鳴り響き、ひゅおっと風を切る音が聞こえた瞬間、アニマキメラの体へと風の矢が突き刺さった。
その瞬間、オレの蒼い瞳が鈍く光がひとつ消えるのを確認した。
『きえる、きえる……。アリガトウ、アリガトウ……』
消えた光が、オレに対しそういうのが聞こえた瞬間、アニマキメラの口から苦しそうに悶絶する雄叫びが放たれた。
魂という繋がりが消え、痛みと怒りに燃える雄叫びだ。
『UUUUGGGGGGGGGGGAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!! 何をシタ!? イッタイ、何をシマシタノォォォォォォォ!!』
「何もしてないのだ。しいて言うなら……お前らの望みを叶えただけだ」
『出任セヲ言ウナアアアアアア! GGGGGRRRRRRRRRRRRRAAAAAAAAAAAAAAA!!』
「……お前のその口から放たれる声は信じない。心の助けを求める声を聞いたから、信じないのだ」
ドスドスとこちらへと駆けて来るアニマキメラへと、オレは言うけれど……聞いていないだろう。
呆れつつ呟きながら、オレは迫り来るアニマキメラを蒼い瞳で視る。
蒼い瞳には、アニマキメラの中にある無数のモンスターたちの魂が視え、その中に今にも消えそうな弱さでアニマステラの魂が視えた。
それを視ているオレの姿は呆然と立っているように見えたらしく、アニマキメラはクマの両腕を振り上げるとオレへと一気に振り下ろした!
きっとアニマキメラの頭の中では、ぐちゃりと頭を潰すイメージが浮かんでいるだろう。ただし、オレがそこに立っているならの話だがな。
「遅いのだ」
両腕が振り上げられ、振り下ろされようとした瞬間――不可視にしていた背中の妖精のような透明の翅を広げ、オレは空へと舞い上がった。
そして……蒼い瞳が魂を視た瞬間、緑の瞳が魂を一つ一つターゲットとして捉えた。
「一つ一つは面倒臭いのだ。だから、一気に纏めてやらせてもらう」
ようやくその場にオレが居ないことに気づいたアニマキメラは周囲を見渡す。
それを見ながら、オレは弓を構え――風の魔力を込める。
その瞬間、周囲に風が吹き始めた。轟々、ビュウビュウ、力強い風がオレへと集まり、風の矢へと変化していく。
十、二十、五十、百……風が集まる度に、弓が振るえ……今か今かと時を待つ。
そしてようやく、アニマキメラはオレの存在に気づいたようだった。
『アナタ、そんなところにIMAシタのネェェェエェェェェ!!』
「これで終わりなのだ! 吹き荒れろ、――『サウザンド・アロー』!」
ギラギラと光る瞳をこちらへと向けるアニマキメラへと、オレはそう口にした瞬間――弦を引いた。
ビィンと音が響いた瞬間、スキルは発動し……千の風の矢は一斉に地上のアニマキメラ目掛けて撃ち出された。
それもただ単にアニマキメラを穿つのではない、一つ一つ……アニマステラの魂に張り付くように繋がったモンスターの魂を削り取っていくのだ。
『GGGGGGGGGGGGGGYYYYYYYYYYYAAAAAAAAAAAAAAA!!』
その嵐のように吹き荒れる風に晒されたアニマキメラの悲鳴が周囲に響き渡り、それが徐々に弱まり……最終的には聞こえなくなっていき……、地面から巻き上がった砂埃が落ち着くと……そこにはほんのりと光りを放つ野球の球ほどの球体があった。
……それは、アニマステラの魂だった。彼女には悪いが、あの変質を遂げたアバターまでは救うことは出来なかったのだ。
『わた、くし……どう、なったんですの……?』
「どうもしないのだ。お前は、しばらく休んでから……もとの世界に戻るのだ。お前の心の穢れはもう、ないのだから……」
『そう……ですの? それ、じゃあ……すこし、ねます、わ……』
「ああ、おやすみなさい。……良い夢を」
オレは静かに、優しく言う。すると、アニマステラの魂は空へと浮かび上がると……ゆっくりと姿を消した。
……死んではいない。ただ、少しの間こちらの世界と地球の境界に送られただけだ。
地球での2日間……境界での長い時間の中で、彼女もきっと元気になっていることだろう。
そう思いながらしばらく彼女の魂が消えて行った辺りを呆然としていると、体が緑色の光を放ち始めた。これは……?
「いったい……」
「――なんなのだ?」
戸惑うオレの声の隣に、聞き覚えのある声が聞こえた。
「「え?」」
そして、隣を見ると……驚いた表情のイーゼが立っていた。
それも……裸で、だ。
「え、イ、イーゼ? って、何ではなんだよっ!? はっ! ま、まさか……」
嫌な予感を感じながら、オレも首を下へと動かし、自分の服装を確認すると……同じく裸だった。
どうやら、どういう理屈かは分からないけれど、オレとイーゼがひとつになっていたのが解除されると裸となってしまうようだ。
これは、色んな意味で訳が分からないな……。
「色々と気になるけど……、とりあえずは……着替えるか」
そう呟きながら、オレは自分の分とイーゼの分の服を取り出し、着替えを始めることにした。
……あかん、スランプ来たか。それとも色んなやる気が削がれてる?(汗




