嫉妬の果て・5
お待たせしました。
「イ、イーーゼェェェェェェェェ!!」
オレの叫びが周囲に響き渡る中、イーゼの小柄な体は宙をクルクルと舞い……ドスっという音と共に地面に落ち、そのまま衝撃が抜け切っていなかったようでゴロゴロと地面を転がり、廃墟となった家の中へと突っ込んでいった。
瓦礫に埋もれたように彼女の体は捻れたような体勢で倒れたまま……ピクリとも動かなかった。
まさか……死んだ? 死んだのか……? それとも気絶しているだけ……なのか?
そんな考えが頭の中に広がり焦り始める中で、必死に体を動かそうとする……だが、次の瞬間――アニマキメラの声によってオレは頭に血が上りカッとなってしまった。
『GGGGGGGOOOOOOAAAAAAAAAAAAAAA!! 死ニマシタワ! クソ生意気ナエルフガ死ニマシタワ!! ザマァミヤガレ! ぎゃはははHA――――GYA!?』
「……うるせぇぇぇ!! イーゼは死んでいない! 死なせてたまるものかよ!!」
腹が立つ耳障りな笑い声を放つアニマキメラを力の限り殴りつけると、オレはすぐにイーゼが倒れた場所へと駆け出した。
ちなみにアニマキメラはまだ生きているだろうが、オレが力の限り殴りつけたから再生するのも時間が掛かるはずだ。
そう考えながら、イーゼの上の瓦礫を払い除け彼女を抱き起こした。
オレの腕に抱かれた彼女は地面を転がったからか砂埃や擦り傷が多々あり、可愛らしい顔が台無しとなっていた。
「イーゼ、しっかりしろ! イーゼッ!!」
そんな彼女の体を揺すり、声をかける……。けれど反応が無い。
まさか、本当に死……。そんな考えが頭の中を過ぎった瞬間、パキンと彼女の胸元から音が響いた。
すると……。
「…………んっ。……けほっ! ごほっ! ……お、おまえ……どうしたのだ……?」
「イーゼ! 良かった……。無事だったみたいだな……けど、なんで?」
ホッと息を吐きながら、ゆっくりと目を開けたイーゼを見るけれど、何で大丈夫だったのか疑問に思う。
けれど、先程割れた音でオレは彼女に渡していたアクセサリの存在を思い出す。
「そ、そうか……祈りのネックレスか!」
あのときは何が起きるのかは分からない。けれど念のため、そう思いながらイーゼに装備させていたけれどそれのお陰でアニマキメラの攻撃が防ぐことが出来たようだ。
祈りのネックレスを用意した過去のオレにナイスと言いたくなる思いを抱きながら、彼女を起き上がらせようとするのだが……アニマキメラの体当たりから地上に落ちるまでしか肩代わりは出来ていなかったようで、起き上がろうとしたイーゼの表情が歪んだ。
「くっ……うぅ……、痛いのだ……」
「大丈夫か? とりあえず――これを飲んで回復しろ」
「わかったのだ……ごくごくご……ゲ、ゲロマズなのだ……」
インベントリから取り出したポーションをイーゼに渡すと、彼女はいぶかしむこと無くゴクゴクと一気に飲み干した。
……が、味は最悪だったようで飲み終わったイーゼの顔は物凄く眉を寄せて今にも泣きそうであった。
けれどダメージは回復したようで、体を動かし始めると驚いた顔をした。
「お、お……おぉっ!? か、回復しているのだ! 痛いのが無くなったのだ!!」
「それは良かった。……が、イーゼ。何であんな馬鹿なことをしたんだ?」
イーゼが回復したことにオレはホッとする。……のだが、聞きたいことを聞くことにする。
そしてオレは馬鹿なことと言ったのだが、彼女にはそれがわからなかったらしく首を傾げられた。
「馬鹿なこと? なんのことなのだ?」
「……わかっていないのか。馬鹿なことっていうのは、まだステータスが弱いお前が一人で勝手にアレに攻撃をしたことだよ。わかってるのか? 祈りのネックレスをしてなかったら死んでたかも知れない……いや、確実に死んでたんだぞ?」
「うっ……、ご、ごめんなさいなのだ……。けど……」
心配して怒っている。彼女もそれに気づいているようで先ほど以上に眉を垂らせてしょんぼりとし始める。
……だけど、イーゼにも言い分があるはずだ。そう思いながら彼女の次ぐ言葉を待つ。
すると、ゆっくりとだが彼女は口を開いた。
「アレから、痛い。助けて。って声が聞こえたのだ。それに、無数のモンスターたちの楽にして欲しいって声もしたのだ」
「声?」
イーゼの言葉に首を傾げつつも問いかけると、彼女は頷く。
というかその声の主は十中八九……、そう思いながらアニマキメラを見ると絶叫と共に肉体が再生しているのが見えた。
アレだけ悪態吐いてたけれど、痛くて助けて欲しいと言ってるのか……。
どうするべきなのか……。いや、決めるのはオレじゃない、イーゼだ。
「…………イーゼ、お前はどうしたいんだ?」
「我は助けたいのだ」
「……お前を殺そうとしたし、オレたちの言葉をちゃんと聞かなかった奴なんだぞ?」
「殺されそうになったけど、お前のくれた装備で助かったのだ。それに、話を聞かないのは仕方ないのだから諦めるのだ。だけど……助けてと言ってるなら、助けてあげたいのだ」
真剣な瞳で、オレの質問に彼女は答えていく。
これは……やめさせれないな。感覚的にそう感じながら、オレはイーゼを見る。
「……イーゼ。今のお前の力じゃ、あのアニマステラを助けることなんて出来ないだろう」
「わかってるのだ。だけど、助けてって声がガンガン響くから助けたいのだ」
「…………どういう理由で助けたいって言ってるのかは理解出来た。だから、確認だ」
軽く喉を唾を飲み込むことで潤し、オレは告げる。
「今から行うこと、それをすることでお前は力を手に入れることが出来ると思う。だけどその代わり、お前の体とか心とかどうなるのかはまったくわからない……。それでも、やるか?」
「やるのだ。自分の身は自分で守らないといけないのだ。だから、我に力を与えて欲しいのだ」
「……わかった。それじゃあ、ちょっと待ってろ」
正直、本当にこの世界の住人に対してそれを行うのは初めてだ。だから、どうなるのかは分からない。
不安を抱きながらも力を求めるイーゼを前に、オレはナイフを取り出すと……手の平に刃を走らせた。
シャッと手の平を走る鋭い感覚が走り、すぐにオレの視界にはプツッと皮膚が斬れた手の平から血が溢れ出すのが見えた。
「イーゼ、口を開けろ」
「何をするのかは分からない。だけど、お前を信じるから口を開けるのだ」
一瞬躊躇ったイーゼだったが、オレにそう言うと軽く目蓋を閉じて口を開けた。
それを見届け、オレは開かれた口の中へと手の平から零れる血を垂らし始める。
ポタリポタリと彼女の舌の上へとオレの血が零れ落ち、ゆっくりと垂れていく……だけど、綺麗に斬られた手の平からは血の出が悪く、思うように出てこない。
……実際にどうなるのかはわからないけど、漫画で見たやりかたをやってみるか。そう思いながら、斬れた手の平の傷を握り締めるように強く拳を握り締めた。
ギュウと握り締められた手は赤から白へと変わり、握り込んだ指が手の平の傷を押し付ける。
その結果、握り締められた拳からはポタリポタリと珠状の血が零れ落ち、イーゼの口の中へと落ちて行った。
そして、口を開き続けて口の中が乾いてきたのだろう。イーゼは口を閉じるとゴクリと、喉から湧き上がったであろう唾と共にオレの血を飲み込んだ。
「うぅ……、な……なんだか凄く口に入れたことのないような味がするのだ……――――うっ!?」
顔を顰めながらイーゼは味の感想を口にする。……が、それは一瞬のことだった。
イーゼは胸を押さえると苦しそうにその場で蹲り始めた。
「うっ……! あ……!? あぎっ……ぉぁ!!」
蹲った彼女の口からは悶え苦しむ声が洩れている。
イーゼの体に……何かが起きてる。それは理解出来る。だけど、いったい何が起きるのかは分からない。
この世界に生まれた種族に対しての初めて血を与えたのだから……、どうなるかは本当に分からない。
けど、イーゼを信じるしかないのだ。そう思いながら、オレは彼女を見続ける。
『GGGGGYYYYYYYHHHHAAAAAAAAAAAA!! チャンス、チャンスデスわぁ!! 死にナサいぃぃぃぃぃぃぃ!!』
それをチャンスと捉えたのか、アニマキメラはオレたちに向かって襲い掛かってきた。
というか静かに向かって来れば良いものをドシンドシンと威圧感を与えるように、足を踏み締めながらこちらへと近づいてくるので否が応でも気づいてしまう。
チラリと後ろを向くと、意気揚々とアニマキメラはクマの腕を振り被ってオレたちを纏めて殴り飛ばそうとしているのが見えた。
「はぁ……、邪魔を――するな!」
軽く溜息を吐いてから、オレは振り返るようにしながらインベントリから取り出したナイフでアニマキメラの腕とぶつかった。
直後、クマの腕の先にある爪とぶつかり合ったナイフはパキンと折れ、オレの手から消え去った。
って、角だけじゃなくて爪にも武器破壊属性が付いてたのかよっ!?
「っく――――うわっ!!」
「うぐっ!?」
驚くオレはアニマキメラの腕を避けるのを忘れてしまい、そのまま吹き飛ばされてしまった。
そして、吹き飛ばされた先にはイーゼが居たらしく、彼女の呻く声が聞こえた。
だがその瞬間、オレの視界に半透明のパネルが表示されたと同時に視界が光に包まれ、世界が白に染まっていった。
……そして。
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エルサのEXスキル【血の主従】の従者の人数が4人となりました!
そのため、半神の能力のひとつが開放されました!
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