ああ、懐かしきかな、我が主食
あけましておめでとうございます。
刈り取りを開始して数時間、その場に生えていた稲を全て刈り取りホクホク顔となったオレがそこに居た。
しかも量はだいぶあったらしく、精米しても米俵が2つは出来るだろう。
炊き立てご飯にしたら、何を食べようかなー。
塩おにぎりも良いし、オムライスも捨てがたいだろう。醤油や味噌をプレイヤーが作ってるし、割高だけど……今度購入しようかな。
そうしたら、カツ丼も作れるし、炒飯だって出来る。他にも色々出来るはずだ。
そんな風に心の中でウキウキとしていると、何処と無く呆れたような口調でE-0がオレに話しかけてきた。
「お前は何でこんな固くて食べるのにも不自由な物を手にして嬉しそうにしているのだ? 我々にはそれが理解できないのだ」
「……ああ、そういえば生のままでしか食べたことが無かったんだったな。しかも一個一個殻を剥きながら……」
「なんだか馬鹿にされてる気がするのだ。お前、凄く失礼なのだ」
「ああ、悪い悪い。けど、コメが駄目なものだという印象を抱かれるのは嫌だな……。仕方ない、本当のコメの味を教えてやる!」
自信満々にE-0へとオレは言うと、木の枝を拾い集めながら彼女を引き連れて泉へと戻り始めた。
そして、泉へと戻り終えるとオレは木の枝を置いて焚き火をする準備を整え、それを終えるとインベントリから道具を取り出す。
ひとつは鉄製の鍋でもしもコメが見つかったら何時でも使えるようにとインベントリの中に入れていたものだ。もうひとつはそれを焚き火の上に置くための鉄製の三脚だった。
今まで……というよりも【†SSS†】時代のときから死蔵していた物が遂に陽の目を浴びるのだ。嬉しいに決まっているだろう。
そんなワクワク感を抱きながら、オレはイネを数束取り出す。
「とりあえず、《料理》スキルを今こそ全力で発揮させるべきだな」
呟きながら、掴んだイネに《料理》スキルにある下処理を使用する。
すると、半透明のパネルが表示された。
―――――
下処理を開始しますか?
<YES> <NO>
―――――
もちろん、<YES>だ。
ポチっと押すと、掴んでいたイネが光を放ち始め……パッと瞬くと3つのアイテムが手元にあった。
なので、詳細が分かってはいるのだが《鑑定》を始めることにする。
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アイテム名:籾殻
品質 :低級(3)
説明 :コメを包み込んでいた殻、色々と使い道がある。
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アイテム名:稲藁
品質 :低級(3)
説明 :コメを実らせた稲が乾燥された物。家畜の餌に最適。
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アイテム名:コメ(精米済み)
品質 :低級(3)
説明 :主食のひとつ。色んな料理に用いることができる。
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「よしっ! 普通に米だ!!」
「おお、これがスキルなのか。初めて見たのだ」
グッと拳を握るオレと、スキルを使ったことに驚くE-0。……あれ? もしかして、エルフってスキルが使えない?
気になったので訊ねてみると、他のエルフは使えるらしい。
けれど、E-0は繋がっているから使えないと言った。……繋がっているってどういうことなんだろうか?
この世界に生まれた生命の特徴なのか、それとも彼女が変なのか……ある意味気になるな。だけど、今はコメを食べることのほうが大事なんだ。
そう考えながら、オレはコメを鉄鍋の中へと入れていく。
ザラザラと鉄鍋に米が落ちる音を立て、三合ほどの量が鍋の中へと満たされていき……洗うことを始めようと思うのだが、問題を思い出した。
水が無いのだ。……いや、水自体はある。あるのだが……泉の水が綺麗だとは限らない。
なので、E-0に訊ねることにした。
「聞きたいんだけど、飲める水とか湧き水とかあるのか?」
「飲める水か? それなら、こっちにあるのだ」
良かった。どうやらあるみたいだ。
ホッと安堵しつつ、オレは彼女の後をついて行く。すると、泉から少し離れた場所にご丁寧様に苔生した石で作られた物があり……そこから湧き水が溢れていた。
何というか、誰かが作った感が漂っているが……バックストーリーで古いエルフが作ったとかそんな感じの遺跡ってイメージなんだろうな。
そんなことを思いながら、飲める水なのかを一度調べてみることにする。
――――――――――
アイテム名:湧き水
品質 :上級(7)
説明 :新鮮な湧き水、軽く浄化することで高品質の聖水にも変わることがある。
――――――――――
……どうやら、かなりいい湧き水らしい。
事実、軽く手で掬って口に含んでみると、若干南国な気候をクールダウンさせる爽やかな冷たさが口の中に広がり、塩素やカルキなどの薬臭さも都市の土臭さも感じられない。とっても美味しい水だった。
これは問題ないな。そう思いながら、オレは米を軽く洗って水が白く濁らなくなったのを確認する。……が、新たな問題があった。
「や、やばい……そういえば、この鉄鍋……米と水の比率なんて目盛ないぞ?」
中に何の加工も施されていない鉄鍋を見ながら、オレは顔を引き攣らせる。
というかそう考えると、電子ジャーの釜とかって本当に便利だったんだなぁ……。
どうするべきかと考えながら、《料理》スキルのレシピ一覧を表示させてみる。
――どうかありますように……!
「……あったっ!!」
「何があったのだ?」
「あ、いや……あはは……」
カクンと首を傾けるE-0を誤魔化しつつ、オレは愛想笑いをしながら素早くレシピの中から炊き立てご飯を選択する。
というか、初歩中の初歩であろうご飯の炊き方が乗っててくれてありがとうレシピ!
心から感謝しつつ、オレは三号分の米に見合う量の水を鉄鍋の中に注ぐと泉へと戻った。
「確か、初めチョロチョロなかパッパ、赤子泣いてもフタ取るな……だったよな」
「何なのだそれは?」
「あーっと、ご飯を美味しく作るためのコツ……らしい」
呟いた言葉の意味を尋ねるE-0へとオレはそう返事を返すが、オレ自身上手く分かっていない。
だから頼みます、レシピさん! あなたの力、お借りします!!
そんな風にどこぞのユーザーランキング一位に輝いた特撮風に念じながら行動を始めた。
「えぇと、先ずは火をつけることからだな」
火つけ用のマッチマッチ、インベントリからマッチを取り出すとレシピの案内どおりに焚き火に付け足したイネと籾殻を纏めた場所へと火をつけたマッチを放り込む。
すると、それらに火は燃え移り……白い煙を軽くモクモクと上げながら、赤い火が上がり始めて焚き火へと燃え移り始めた。
あ、そう言えば折れた枝は水を含んでいるから火が着きにくいんだったな。だから、乾いているイネと籾殻を使ったのか。
なるほどなぁ。
納得しながら、鉄製の鍋が火に燃えるのを見ているのだが……時折レシピの案内が火が強すぎたり弱過ぎたりと注意をしてくれるので、手間が掛かるが上手に指示をしてくれていた。
そのお陰か、枝の量は一定となり、少し強い火に鉄鍋は熱せられ……それによって鍋の中の水が沸騰し始めているらしく……ぐつぐつという音を鉄鍋が放ち始めてきた。
鍋と蓋との間からプクリと泡が立ち始めていくのを見る中、案内に従い焚き火の枝を減らして火の量を弱くしていく。
するとブクブクとした泡の量が減り始めていくとともに何度も持ち上げられていた蓋の音が止み始めた。そして泡とともに溢れ出した米の成分を吸い取った水が鍋の外周に白い線を作り始めるとともに、コメが炊かれるときに香る独特の匂いが周囲に漂い始めた。
「ああ、これだよこれ。この匂いなんだよ……!」
「む? これは……なんだか美味しそうな匂いがするのだ」
ウキウキと呟くオレに対し、E-0はこの匂いの正体が何なのか分からずに首をかしげているようだった。
けれどその正体をオレは今は語る暇はない。ここからだが大事だと案内が告げているのだから。
そしてちりちりという音が耳に小さく聞こえると同時に、案内が火から離してくださいという案内が表示され……オレは手早く鍋を火から下ろそうと――って、落ち着けオレ! このまま持ったら火傷してしまう!!
近づけようとしていた手を止めると、手早くオレはインベントリの中から手袋を取り出して装備する。
「あちっ、あちちちっ!」
手袋を装備しているのだが、やはり火にかけられていた鉄鍋は熱く急いで火から離すとオレは鍋を地面の上へと置く。
ジュッという音が一瞬したことから、やはり熱かったのだろうと思いつつ蒸らしを開始する。
「出来たのか?」
「いや、まだ出来ていない。後は10分ぐらい蒸らさないといけないんだ」
「……何というか、面倒な物なのだ」
「だけどそれが出来たら美味しい物になるんだよ」
何処となく面倒臭そうに言うE-0へとそう言いながら、オレはジッと蒸しあがるのを待つ。
っと、その間に食器を用意しておいたほうが良いよな? あ、他にも一品作ったら良かったかも。……まあ、今は仕方ないか。
そんなことを考えながら、食器を出し終えて木のしゃもじを取り出していると時間は過ぎて行き、案内が完成を告げた。
なのでオレは蓋を開けるのだが……、ほ、本当に炊けてるよな?
ドキドキと胸を躍らせながら、手袋を嵌めた手で蓋を掴むとゆっくりと上げていく。
すると、モワッという炊き立てご飯特有の湯気が鍋から上がり、コメの匂いが鼻を突いた。
そして鍋の中ではテラテラと光り輝く炊き立てご飯がピンと立っていた。
「こ、こ……こめだぁっ! 炊き立てご飯だあああああああぁぁぁぁぁぁっ!!」
見事に完成していたそれを見ながら、オレは歓喜の声を上げる。
久しぶりに見たご飯は本当に宝物のようにオレには見えた。
輝くご飯へと木のしゃもじを突き刺すと、ざっと返し始め……ホカホカと湯気立つ中でパリパリとした糊と炊き立てご飯とおこげが混ざり合って行く。
おこげだぁ、ぱりぱりだぁ!
喜びを噛み締めながら、食器にご飯をよそっていく。とりあえず、漫画であるような山もりだぁ!
山盛りご飯を2つの食器によそい、一つをE-0へと差し出す。……箸は使えないだろうからスプーンで良いよな?
「さ、食べてみろ!」
「これがコメなのか? なんだか見た目が、我々が食べた物とまるで違っているのだ」
スプーンを掴みながら、炊き立てご飯をジロジロと見る彼女だったが、意を決したのかスプーンに掬われていたそれをパクリと咥えた。
すると、あまり表情を変えていなかったE-0の顔が驚きに眼をパチクリさせ始めたではないか。
そしてパクパクと炊き立てご飯を食べ始めた。
そんなE-0の様子を見ながら、オレもご飯を食べ始める。
……モチモチとした食感と、カリカリとしたおこげの味。
ああ、これはコメだ……本当にコメなんだ……。
そんな久しぶりに食べたコメの味に、オレは涙を流すのだった……。
ファンタジー系の作品ってコメ出すのが一番難しいって思うのは気のせいでしょうかね?




