表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
59/103

野生児エルフ?

お待たせしました。

そして、今年もありがとうございます。来年からもよろしくお願いします。

 E-0と名乗ったエルフが名乗ってから、オレはとりあえず……彼女の服を洗うこととした。

 聞くところによると彼女の洗濯は汚れた服をただ単に泉に入れてザバザバするだけだったらしい。

 ……これは駄目だろ? オレでさえも駄目だと理解出来る。

 なので、オレは彼女にタライが無いかと訊ねてみたのだが……持って居なかった。

 しかも話を聞いている限り、どうやら彼女……E-0は知っていることはある。

 だが、それは知っているだけで実際に行ってみるというと違う物だと思う。

 オレ自身このゲームを始めるまでは知ってる知識だから楽勝と思ってたら、実は難しかったということを実感したのが何度もあったからだ。


「だから、知ってるだけの知識よりも実際に手を動かして行ったほうが良い、そうオレは思うんだよな」

「そういうものなのか? それは新しい発見なのだ」


 インベントリから取り出したタライの中に、E-0の汚れた服を入れながらオレは言う。

 その言葉に無表情ながらも驚いた様子で頷くE-0を見る。

 彼女はちょこんと座っているのだが、その服装はオレが差し出したバスタオルを巻いているだけだ。……ロリエルフにバスタオルって……。

 ――っとと、その前に服を洗わないとな。

 余計なことを考えずにオレはタライに泉から水を入れるとインベントリから洗濯用石鹸を取り出した。


「これは、石鹸という物か? 知ってたけど、初めて見たのだ」

「だろうな。後は洗濯板も出したほうが良いか」

「洗濯板はあるのだ」

「…………一応言っておくが、平たい胸=洗濯板という大きなボケは止めろよ?」

「……わかったのだ」


 オレの言葉に頷きながら、E-0は立ち上がりバスタオルを外そうとしている手を止めていた。……脱ぐ気だったのかよ。

 というか洗濯板=貧乳の代名詞って言う知識があるのか……。

 知りたくなかったエルフの知識(?)にガクリと項垂れながら、オレは洗濯を始めることにした。

 ちなみに洗濯板が無くても、洗濯石鹸をつけて擦り合わせても効果はあるはずだ。というよりも洗濯板が無かった時代はこうしてたはず……多分。

 そんなことを考えながら、洗濯石鹸をつけて汚れたE-0の服を洗い始める。……あ、微温湯で洗えばよかったか?

 少し手順を間違えたかなぁと思いつつ、オレは洗濯を続けるのだが……やっぱり水で洗っていたからか汚れが落ちるのに時間が掛かるようだった。

 けれど、洗濯石鹸を使ったお陰か汚れきっていた服の汚れは徐々に落ち始め、元々の服の色が周囲に晒されることとなった。


「……って、茶色かと思ってたら緑色だったのか」

「イワンが言っていたが、草で染めたらしいのだ」

「イワン?」

「我々から離れて、エルフの集落を統治する者の名なのだ」

「なるほど……っと、まだ取れないな……」


 ううむ、これはやっぱり微温湯のほうが良かったか?

 ゴシゴシと服を洗いながら、E-0と会話をしているからか上手く話が頭の中に入ってこない。

 まあ、後で詳しく聞くつもりだから別に良いか。

 ……それから20分掛けて、オレは汚れを落として、服に着いた洗剤を洗い流し……洗濯を終えた。


「よし、後は乾かせば良いだろう。……あ」


 額の汗を拭いながら、一仕事を終えた瞬間……オレの腹が待っていましたと言わんばかりにキュルルルと可愛らしい音を立てた。……ようするに空腹というやつだ。

 ……こ、こういうことはあまり起きたことが無かったけど、何か恥かしいな……。

 というか……、E-0はどう見ているんだ? ふと気になったオレは頬を赤らめつつ……恐る恐る振り返った。

 するとそこには、ジッとオレを見つめるロリエルフの姿があった。


「お腹が空いたのか?」

「あ、えっと……」

「だったら、食事にするのだ」


 言葉が詰まったオレの返答を待たずに、E-0は立ち上がるとスタスタと歩き出し……周辺の樹に昇り始めた。

 ――って、バスタオルだけな上にノーパン!

 枝に跨り始める様子を見ていたオレは即座にそのことを思い出し、サッと後ろを向く。

 というかエルフには羞恥心というものは無いのかっ!? いや、E-0だけ、E-0だけに違いない。そうだと言ってくれ……。

 心の底から他のエルフには羞恥心というものがあることを願っていると、


「受け取るのだ」

「え――うわっ!? あ、あぶな――」

「どんどん行くのだ」


 ヒュッと風を斬る音とともに大人の頭ほどのでかさの木の実が投げつけられてきた。

 突然のことで驚いたオレだったが、持ち前のステータスで素早くそれを受け止める。

 続いて、拳大の赤い木の実が投げつけられ……って、これ林檎だよな? とか一瞬思ったのだが、E-0はどんどんと樹に実っている木の実……いや、果物を投げつけてくる。

 それがバナナだったり、キウイだったり、パパイヤだったり、チェリモヤだったり、マンゴーだったりと様々な物だった。

 そんな様々な果物が両手にいっぱいになったところで、E-0は樹の上から降りてきた。

 ……のだが、何でこの子、バスタオルから葉っぱ一枚あれば良いになってるんですかねぇ?


「……えーっと、バスタオル、どうしたんだ?」

「採ってるときに飛んで行ったのだ」

「えっと、何で葉っぱ?」

「裸だとお前が恥かしいと言ったから、こうやって葉っぱを貼り付けたのだ」

「あ、そ……そうなんだ……」


 無表情ながらどこか自信満々にE-0は答える。

 …………そんな彼女に、オレは何も言えなかった。というか、ますます酷くなってしまったよ。


 裸ロリエルフ→バスタオルロリエルフ→葉っぱ前張りロリエルフ ……アカン。

 駄目すぎる進化の過程を見てしまったオレは渋柿を食べたような顔をする。


「どうしたのだ? 顔を顰めて、その木の実は渋かったのか?」

「ああ、いや、うん……、なんでもないんだ、なんでも……」

「そうか。ならば、食事にするのだ」


 良く分かっていないと言う風に首をコテンと傾け、E-0は淡々と言いながらマンゴーを掴みガブリと噛み付いていた。

 まあ、そうだな……。何はともあれ食事だよな。

 腹が減っては何も出来ないという言葉を思い出しながら、オレはどれを食べるか考える。……だが、始めに投げられたヤシの実みたいな果実。これが気になる。

 これはもしかして……、あの有名な青いタヌキが主役の映画に出ていたという、パカッと開いたら中にはカツ丼とかカレーとかパスタとかが入ってるというあの……あのっ!?。

 ドキドキしながら、開きそうな繋ぎ目辺りを掴むとグッと動かす。……が、開く気配は無い。もっと力をこめるか?

 いや、力を入れすぎると周囲にぶちまけてしまうかも知れないではないか。ここは慎重に、慎重にだ……。


「何をしてるのだ?」

「っ!? や、えっと、これを開けようとしていてだな……」

「これは開かないのだ」

「えっ!? だったら、中にあるものはどうやって食べれば良いんだっ!?」

「お前は何をわけのわからないことを言ってるのだ? これはこうやって――穴を開けて、中の汁を飲むのだ」


 なん、だと……?

 オレはE-0が行った行動に衝撃を隠せなかった。

 何故なら、彼女は素敵な未来道具かと思われたヤシの実を近くの岩に力強く叩きつけ、亀裂を入れてからそこからぽたりぽたりと垂れ始める汁を飲み始めたのだから。

 ……どうやら、これは未来道具ではなく、普通にヤシの実だったようだ。


「く、くそう……、オレの、オレのカツ丼が、カレーが……」

「カツドン? かれー? 何を訳のわからないことを言っているのだ」

「いや、気にしないでくれ……」


 自分でもちょっと、いやだいぶ馬鹿なことを考えていたと反省しながら、木の実というか果物を食べ始めた。

 ……まあ、久しぶりに食べるバナナもキウイも、林檎も美味しかった。

 ちなみにこの世界の林檎は酸味が強烈なタイプなのだが、今食べている物は地球の林檎と同じように甘みが強調されている物だった。

 しかし、問題があった。


「貰った手前言うのもなんだけど、果物ばかりだと口の中が甘くなるんだけど……何か無いか?」

「お前は我侭なやつなのだ。甘くない物、野菜は我々から出て行ったイワンたちの集落で栽培しているらしいのだ」

「集落……、エルフにも暮らしはあるんだな」

「……なんだか馬鹿にされてる気がするのだ。だが行くならば案内するのだ」

「いや、野菜は気になるけど……すぐに辿り着けなさそうな気がするから別に良い。他には無いか?」

「そうか? 他の甘くない物と言っても、この近くではコメしかないぞ?」

「……コメ? 今コメって言ったか?」

「コメではない、コメなのだ」


 E-0が言った言葉が聞き違いではないかを問い質すと、彼女はオレが何を言ってるのかわからない風に言い直させようとする。

 オレの場合は普通にコメをコメと言ってるのだが、彼女の場合はコメはコ(↑)メと何故か上げるような風に言っているのだ。

 これは一定どういうことなのだろうか? いや、呼び方は人それぞれなのだろう。

 心の中で言い聞かせながら、オレはE-0へとコメがある場所を尋ねた。

 すると彼女は立ち上がり、案内をしてくれるようだった。

 案内される中、オレはドキドキとしながらコメのある場所へと歩みを進める。

 そんなオレへと、E-0は淡々としながらも呆れたように語りかけてきた。


「お前はあんな固くて、食べるのに時間が掛かるものが良いのか? 本当、変な奴なのだ」

「固くて食べにくいと言うと、麦に近い感じ何だよな?」

「そうなのだ。麦に近いけれど、コメだということは知識で知っているのだ」

「知識で知ってるなら、調理法とかも知ってるんじゃないのか?」

「知識として知っては居るのだ。だが、我々は調理をするつもりは無いのだ。自然のものは自然で食べるのがベストなのだ」


 ……要するに、料理する気はありませんと発言しているらしい。

 ああ、そう言えば幾つか調理したら美味しくなるんじゃないのかという組み合わせがあったりしたけど、普通に生のまま……皮も剥かずに食べてたな。

 エルフ=野生児なのか、それともE-0=野生児なのか……どっちなのだろうか。

 ――ってしまった。コメに夢中でこのロリエルフ、葉っぱ前張りのままだったよ!

 やってしまったという後悔の下、オレは頭を抱えつつ歩く。

 装備を出してあげる? また無くされそうだよ! それでも良いなら出すけど……まあ、良いということにしよう。

 と思っていると――


「着いたのだ」


 E-0の言葉に、目線を前に向けるとそこは……沼地だった。しかも、奥のほうは底無しの可能性が高そうだ。

 だがその沼地の浅瀬には、オレが求めるべきものが穂を揺らしていた。


「これがコメなのだ」

「これが、コメ……コメ……コメ! 米だぁ!!」


 E-0の紹介を聞きながら、オレは拳を握り締める。

 何故なら、コメと紹介されたそれは、オレの記憶の中にあるあの見覚えのあるフォルムだったからだ。

 そのフォルムとは、日本人の主食である米を実らせる……稲だった。

 たわわに実り頭を垂れさせた穂を見ながら、オレは歓喜の声を上げながら収穫を開始した。

 インベントリから鎌を取り出し、飛びつくように稲を一束手で掴むとズッと鎌を引く。

 すると、ザクッとした感触とともに稲が切られて、オレの手の中に納まった。

 その束を興奮しながら見ていると、目の前に鑑定結果が表示された。


 ――――――――――


 アイテム名:イネ

 品質   :中級(4)

 説明   :コメがたわわに実った稲。精米するとコメになる。


 ――――――――――


 予想通りの結果に、オレは良しと思いながらグッと拳を握り締めるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング

アルファポリスでも不定期ですが連載を始めました。良かったら読んでみてください。
ベルと混人生徒たち
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ