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なのだなのだ。

ブクマ評価感謝です。

 ――し、――だ。


 ――――もし、――のだ。


 ……声が、聞こえる。誰の声だ?

 というか、オレはいったいどうなったんだ?


 ぼんやりとする頭を回転させながら、何が起きていたのかを思い出そうとする。

 確か……船。

 そうだ。オレは……船に乗ってたんだ。

 じゃあ、ここは船……? いや、波の音も聞こえないし風も強くない。そして何より揺れていない……。


 ――へん……がない。……かた――、――のだ。


 ということは……地上、だよなぁ?

 じゃあ、時折聞こえてくる声は……誰の声だ?

 初めて聞く声に首を傾げつつ、オレはゆっくりと瞳を開け――――


 ――ドスッ!


「ぐえっ!? ごふっ!!」


 腹に衝撃が来た。それはそれはもう見事なまでの衝撃だ!

 何というか腹の中がグチャグチャになる程の衝撃にオレの口からカエルが潰れたような声が洩れた。後ついでに溜まっていたと思しき水も口から吹き出された。

 というか痛いっ!! 凄く痛いッ!!


「げほっ、っげほっ!? い、いったいなにが……?」

「目が覚めたのだ?」


 口と鼻から垂れる水に咽ながら起き上がるオレの耳に、オレが目覚めたことに声を上げる少女の声が聞こえた。

 誰だ? 聞きなれない声だけど……。いや、声自体は選択ボイスにある声優の佐藤絵里(さとうえり)の声を感情をまったく込めずに喋らせた感じか?

 そう思いながら、声がしたほうを向くと……小さい少女が居た。

 見た目は……多分、10歳ぐらいで……オレやニィナよりも遥かに年下といった感じの見た目だろう。

 土で汚れてしまっているからか、本当は金色に輝く長い髪はボサボサとしており、何を考えているのかわからない緑色の瞳。そんな輝く物を持っているであろう少女は何故か裸で、無表情のままオレをジッと見つめていた。

 ……というか、片手がグーのまま上がっているということは……腹に衝撃加えたのはこの子か?

 そう思っていると、何を考えているのかわからない……無表情のまま……少女はオレへと声をかけてきた。


「返事が無いのだ。本当に目が覚めているのかどうなのか分からないのだ。だったらもう一発……」

「お、起きてるっ。起きてるから! だから、殴らなくても良いから!!」


 淡々と告げながら、拳をもう一度振り上げたのを見てオレは急いで起き上がると、焦りながらそう少女に言う。

 すると、少女はその体勢のまましばらく固まり……、どうしたのかと思っていると改めてオレを見てきた。


「分かったのだ。起きている、と我々は理解するのだ」

「あ、ああ……分かってくれて良かった」


 拳を下へと下ろすのを見ながら、オレは目の前の少女が自身を呼ぶ言いかたが変だと思った。

 『我々』って言うと、多人数のときにつけるものだよな? だったら、一人のときは『我』じゃないのか?

 そんな疑問を抱きながら、少女を見ていると……まるで観察でもするかのようにオレを見ているのに気がついた。

 な、何というか……恥かしい。

 心からそう思う……って、そうじゃなくて! ここは何処だっ!?

 焦りながら、少女の視線から目を反らすように周囲を見渡す。

 ……そこは、海ではなく森だった。……ワホイ? じゃなくて、ホワイ?


「あ、え……え、えぇ……?」


 どうして、海上の帆船に居たはずのオレは……、何で広大な森の中で裸の少女に観察されているんだ!?

 とりあえず、この子は何か知ってるはず……だよな? だったら、聞いてみるべきだ。


「な、なあ……。何でオレはこんな所に、居るんだ?」

「こんなところとはどんなところなのだ?」

「えっと、ここだよここ」

「こことはどんなところなのだ?」


 そう言いながら、少女は取ってつけたように首を傾げた。

 な、なんだこれ?

 だけどツッコミは入れるな……、向こうも冗談で言ってるわけじゃ無さそうだ。あの無表情ながらもきょとんとしている様子から悪戯とか考えてるわけじゃなさそうなんだ……。

 心で自制しながら、オレはどう問いかけるかを考える。


「…………えっと、この森は、何処にある森なんだ?」

「ルーツフ地方にある森なのだ」

「ルーツフ地方……」


 それって確か、オレたちが向かう場所……だったよな?

 けど、それって航海に3日ほど掛かるんじゃなかったか?

 じゃあ、3日経ってるのかと聞くならば、オレの目に映る日付を確認すると……1日しか経っていないようだ。

 それが何でこんな所に居るんだ? しかも、周囲が森だから……多分内陸の辺りだと思う。


「な、なあ……オレは何でこの森に居るんだ?」

「泉に刺さっていたのだ」

「は?」

「嵐が来た翌日、そこの泉にお前は突き刺さっていたのだ」


 意味不明な言葉に首を傾げつつ、少女が指差す方向を見ると……何か水中から樹が生えた小さな泉があった。

 普通に泉……なんだけど、何か不自然な感じに樹が水中から生えているな?

 そう思いながら樹を見ていると、《鑑定》が働いたのか半透明なパネルがオレの視界に表示された。


 ――――――――――


 アイテム名:世界樹の若木

 品質   :上級(7)

 所有者  :エルサ、E-0

 説明   :

  世界樹の枝が森との親和性が高いエルフの魔力を吸い取って成長した結果。

  若木のため生命力が高く、枝は撓りやすいため弓や釣竿を作るのには最適である。その反面家具などを作ろうとしたらもっと歳を取った物でなければ厳しい。

  世界樹の葉は生命力の塊であるため、回復薬などの調合に最適。


  ※世界樹はこの世界に3本しかないので、所有者以外が採集した場合、罰せられます。


 ――――――――――


 ……わー、世界樹だー。こんな所にあったんだなぁ。

 新マップにあったんだなー……。

 …………って、んなわけないよっ!?

 所有者っ!? 所有者って何だぁ!? いや、持ち主って意味なのは分かってるから!

 だけど……あ、焦るな……! オレが勘違いしてるだけかも知れないだろっ!?

 この少女は何か知ってるに違いない。そう結論付けてオレは少女へと向く。


「どうしたのだ」

「えっと、あの樹って……元々あった物なのか?」

「違うのだ。あの樹は、泉に突き刺さったお前を我々が代表して我が助けようとしたときに溺れて無我夢中で掴んだ物が成長した物なのだ。つまりはお前の持ち物なのだ」

「そ、そうなのか……」


 確定した。要するにあの樹はオレが釣竿代わりに使ってたあの枝だ。

 そうかそうか、凄く成長したんだなぁ……。

 ――って、ちょっと待て。鑑定結果にはどう書かれていた? 確か、エルフの魔力を吸い取って成長したと書かれてたよな?

 じゃあ、目の前に居るこの裸の少女って……。


「な、なあ、もしかしなくてもだけどさ……、キミって……エルフ?」

「そうなのだ。我々はエルフなのだ。そして、お前は人間なのだ」

「あ、ああ……、そう、だな」


 淡々と言いながら、少女は髪を掻き揚げてオレに耳を見せてきた。

 ……小さいながらも先っぽが尖った、物語に出てくるエルフ特有の耳だ。垂れ耳のでかい感じではない。

 というか、漫画とか小説、よくてアニメでしか見たことが無かったエルフだったけど……初めてのエルフとの遭遇なんだな……これ。

 オッサンエルフと初遭遇とかよりもマシだろうけど……、裸のロリエルフに腹殴られる初遭遇ってどんな状況だよ。

 心からそう思う。そう思うのだが……そろそろ何かを着て欲しいと思う。

 だから、オレは言う。やましい気持ちは無い。だから言う!


「えーっと……、そろそろ何かを着てくれないか?」

「分かったのだ。そもそもが、お前が起きるのを我々は待っていたのだから裸だったのだ」

「そ……そうか、わ……悪い?」


 何というか悪いことをした。そう思いつつ、少女が着替えるのを待っているのだが……立ち上がったまま、その場から動かない。

 いったいどうしたんだ?

 疑問を抱きながら少女を見ていると、少女がクルリと振り返ってきた。

 座っていたからまだ大丈夫だったけど、立ったまま振り返ったら大事なところとかバッチリ見えちゃう! 見えちゃうから!!

 心の中で叫びながら、両手でオレは顔を隠す。……指の間から覗き見たりもしないからな!


「困ったのだ。我々の服、土と雨で汚れたのを洗おうと思ってたら忘れていて、服がぐしょぐしょのままなのだ」


 ……とても困っている風には見えない。見えないが、困っているのだろう。そう思うことにした。

 そして、少女が先程まで向いていた方向を見ると、脱ぎ散らかされた服があった。

 しかもその服はぐっしょりと濡れた地面の泥水を吸い込んでしまっているのか、土色に染まりきってしまっていた。

 これは……洗うのに苦労しそうだな。……あと、下着が無いように見えるのは気のせいだろうか……、い、いや、気のせいだ。気のせいに違いない。

 そう思いながら、全裸で呆然としている少女に何か羽織らせるべきだと即座に判断し、オレはインベントリの中を漁り始める。

 中には色々と入ってるから服も普通に見つかる。……と思ったのだが、まったく無かった。


「あ……、そ、そうだった……」


 確かドロップ品で手に入れてた服の殆どはニィナに服飾の参考にしてと言って渡していたんだ。

 今あるのは……、一応これで良いか。

 出す物を決め、オレはそれをインベントリから取り出した。


「とりあえず、裸じゃ寒いだろうし……これでも羽織るか巻くかしていてくれないか?」

「素直に裸で居られると恥かしいと言えば良いのだ」


 オブラートに包んだ言葉をサクッと告げられ、オレは泣きたくなった。

 多分、この子には羞恥心は欠片も無いのだろう。

 そう思いながら、オレは差し出したバスタオルを胴体に巻きつける少女を待っていたのだが……ふとあることを思い出した。


「そういえば……、キミの名前って?」

「…………」


 返事が無かった。

 ……これは、聞いてはいけないことだったか?

 そう思っていると――


「E-0」

「え?」

「我々は、E-0(イーゼロ)なのだ」


 淡々と、少女……E-0はオレにそう名乗った。





 ……そういえば、雪火たちは大丈夫だろうか?


ニィナ「――っ!! い、今……エルサに新しい女の影が……!!」

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