船の旅(後編)
お待たせしました。
「堅苦しい挨拶はしなくても大丈夫だ。それよりもお前たちは私たちのことを知っているだろうが……、あまり素で話した覚えは無いだろうから、改めて自己紹介をしたいと思うのだが良いか?」
「かしこまりました。船の出港準備がまだかかりそうですし、何もせずに待つならばその方が良いでしょう。
どうぞ、席はご自由にお座りください」
ジッとブシドーを見ていたオレだったが、テラっさんの言葉にハッとし……そちらを向く。
すると、ライオンヘアーのおっさんも頷き、それを承諾したようだった。
そしてオレたちは招かれるままに中へと入ると、それぞれ思い思いの椅子に座っていく。
座っていくのだが……、
「……あの、ブシドーさん? なんで、オレの隣に座るのですかね?」
「べ、別に良いではないか……!」
「いや、何か状況的にこっちサイドと向こうサイドに分かれてるよね?」
「それはそれ、これはこれだろうが!」
怒鳴りながら、ブシドーは……ああ、面倒臭い! もう雪火で良い、心の中ではもう普通に何時も通り雪火で呼ぼう!
そう決意しながら、オレは雪火へと諭して来た。
なので、時と場合を考えろと言う意味を込め、オレは雪火を見ながら口を開ける。
「それはそれ、これはこれ以前に暗黙のルール的なものがあるっぽいんだから弁えろと言ってるんだって!」
「そのようなルールなど壊してしまうのが一番ではないかっ! だから、拙者はルールを壊し、お前の隣に居るのだ!!」
「今この状況でよくもそんなことを言えるなあ、おい!」
「この状況だからこそ、お前の隣に居るのだと言うのを分かれっ!!」
口論は段々と声が大きくなり始め、気づけばオレと雪火の話し合いは2人だけに聞こえるのではなく、周囲に聞こえるくらいまで大きくなっていた。
その結果――、
「「おほん、おほん……!」」
「「――っ!?」」
突然の咳払いにオレと雪火はビクリと震えた。
そして、2人して錆び付いたロボットヨロシクな感じにギギギと首を動かすと、テラっさんとライオンヘアーのおっさんの2人が冷たい眼でオレたちを見ていた。
……これは、怒っている? いや、普通に怒ってるよな?
頬を冷や汗が垂れるような感覚を味わっていると、ようやく静かになったことを確認したのか……テラっさんがオレたちに向けて口を開いた。
「お前たち……とりあえず、そういう口げんかは自己紹介が終わって船の中でやっていてくれ。じゃないと……温厚な私でも怒るぞ?」
「「っ!! !?!? は、はい……」」
一瞬、ほんの一瞬だけ放たれたテラっさんの怒気にやられ、オレの体から血の気が引くのを感じた。多分……いや、十中八九テラっさんが本気を出したら、かなり強化されているオレでさえ太刀打ち出来ないだろう。
……ふと隣にチラリと視線を向けると、雪火のほうも顔を蒼ざめさせてガクガクブルブルとしていたので、かなりやばかったのだろう。
そんな黙り始めたオレたちを見てから、テラっさんはライオンヘアーのおっさんに話を進めるように視線を向ける。
「すまなかったな。……大丈夫ならば、紹介を始めてもらっても良いだろうか?」
おっさんたちもテラっさんの気迫に思考をフリーズさせてしまっていたらしく、テラっさんの言葉にハッとした様子でビクリとしてから素早く頷いていた。
と言うか、全員自己紹介出来るのか? そう疑問に思い始めているとライオンヘアーのおっさんがパンパンと手を打ち鳴らした。
その音に他のフリーズしていたプレイヤーたちも再起動したらしく、一斉にライオンおっさんのほうに視線を向ける。
「正気に戻ったようだな? だったら、そろそろ自己紹介を始めよう。時間も無限ではないのだからな」
そう言うと、ライオンヘアーのおっさんが椅子から立ち上がり、一度周りへと頭を下げてから自己紹介を始めた。
「まずは、言い出した我から紹介させてもらおう。我が名は流星――――」
そうしてプレイヤーの人たちが自己紹介を行い、立ち上がる度にオレはそれぞれの容姿を確認していった。
……ちなみに容姿やら挨拶を事細かに説明をするとだいぶ語るのに時間が掛かるだろうと思うので簡単に言うことにする。
まあ、簡単に説明できるかは心配だが、まあ大丈夫だろう。
まず始めにガチムチ体型にタキシード風のスーツを着込んだライオンヘアーのおっさんは流星という名前で、ギルド『星の旅人』のマスターをしていると自ら言った。
次に自己紹介をしたのは金ぴかな装備に身を包んだビール腹が目立つオッサンで、ジ・ゴールドと言う名前だったのだが……そこまでは良い。なのにこのオッサン、自分に自信があるのか地球での名前を名乗るという行為を行ったのだ。
「ワシの地球での名は金平大蔵、希代の錬金術師である。そして――」
錬金術師というある意味有名すぎるけれど、本当にそういう職業があるんだなと思っていると続けて言った言葉は都心のほうで百貨店を経営している金平財閥の現当主だそうだ。
通りで金平という名前に聞き覚えがあったわけだ。だが、突然の本名の名乗りには周りのプレイヤーたちも呆れた顔をしていた。
……まあ、何かしてきても何とか出来るという自信は凄いと思う。ちなみに『ゴールドラッシュ』というギルドでマスターをしてるらしい。
何というか、金の権化のような印象が強いな。
その次は、ミニ丈チャイナドレスを着た紫髪をお団子にして纏めている女性が自己紹介をした。
名前は嵐牙という名前で、ソロプレイヤーらしい。ついでに言うなら、片言な喋り方からして日本人じゃないだろう。
あと言うならば、太股上まである白いニーソックスかガーターベルトが凄く眩しかったです。そして、視線に気づいたのか人の良さそうな笑顔で軽く手を振ってきたので、オレもそれに振りかえしていた。
その様子を見ていた雪火の突き刺さるような視線が痛かったです。
で、ワンクッション挟んだからか、また来ちゃったよ痛い人。
次に自己紹介を始めたのは、痛々しいピンク髪に女王様+魔法少女っぽい服装をした女性だった。と言うか、魔法『少女』と呼べる年齢じゃないな。見た目的に。
そう思いながら見ていると、彼女はアニマステラと名乗り……この世界の女王となる者だと言い出したのだ。
……それにはまたも全員が、何言ってるのこの人? という眼で見ていた。当然オレもだ。
で、名前と外見に似合わず動物を愛でるギルド『アニマルランド』のマスターをしているそうだ。
しかも現在……この世界で唯一の獣人であるニィナが獲物らしい。いいぞ、捕まえてくれ!
「ワタクシ、貴女を敵とみなしております! 何故なら、あのニィナさんの寵愛を一身に受けているからです!!」
そう思っていると、ニィナに愛されているというオレが宿敵扱いされました。何故だ!?
ガクリと項垂れるオレだったが、時間は過ぎて行き、次の人物が自己紹介を始める。
次は鎧の男が自己紹介をするらしく立ち上がった。
アメリカナイズな顔立ちをしていた赤毛の男は白い歯をむき出しにした笑みを周囲に振り撒きながら、片手を挙げ――。
「ハーイ、ミーの名前はブラッドレックスねー! ミーはギルド『竜滅の団』のマスターをしていて、この世界での目標はドラゴン殺しね! ヨロシクー!」
そう言って、HAHAHAと愉快に笑った。
ああ、うん、何というか凄くイメージが伝わり易そうな見た目だよね。
オレはブラッドレックスの紹介に、そう納得していた。
そしてブラッドレックスはヨロシクヨロシクーと言いながら、席へと着席する。
するとブラッドレックスと入れ替わるように、今度は銀髪に黒ドレスという井出達の女性が立ち上がったのだ。
……ちなみに重要なことだと思うので言うが、オレの隣でオレへと睨みを利かせている雪火よりもでかいと思う。一部分が!
それを見ながら紹介を待っていると先程のブラッドレックスの紹介がユニーク過ぎたのか、今度の自己紹介は凄くあっさりと終わりを告げた。
何故なら、「わたくしの名前はサンフラワー、ギルド『フラワーガーデン』のサブマスターをしていますわ」と言っただけで終わったからだ。
何というか色々と自己紹介をしたら良いのではと思うのだけれど、その気だるそうな表情からは速く此処から移動したいというオーラが見え隠れしていた。
そして、雪火を除いた最後のプレイヤーが自己紹介を始めた。
何処となく見た目から情けない気配を出し、長めの黒緑色の髪を先のほうで纏め上げた少女は……何処となく巫女を彷彿させるような白と赤で彩られた服装をしていた。
そして、瞳は茶色と緑色の二色……世間で言うオッドアイであった。
現実でもそうなのだろうか? それともゲームのキャライメージでそうしているのか? それは分からない、そう思っていると……。
「えっとぉ、うちは樹之命言いますぅ。巫女だからか主に補助や回復の魔法を重視にしていますがよろしくお願いしますぅ」
と頭を下げているのだが……何故だろうか、樹之命の背後に別の影が見えるのは……。
その影をジッと見ていると、段々と視界に見える影が浮き彫り始め、最終的に小生意気そうな薄布一枚を羽織った幼女に変化していた。
『かかっ、こやつは回復補助じゃが、わらわは違うぞぉ? なんたって、神なのじゃからな! 神っ! 神に不可能は無いのじゃ!! かーっかっかっかっ!!』
……えーっと、何あれ?
プレイヤーたちを見て見ると、彼らはその存在に気づいていないらしく、そこに視線は向けられていない。……いや、樹之命のほうは凄く恥かしそうに顔を赤く染めながらチラチラと後ろを気にしている。
一度、テラっさんのほうを見たオレだったが、テラっさんの視線は黙っていてやれ。という風に首を微かに振るっていた。
……要するに、痛い子なんだろう。可哀想に。……まあ、あとで話す機会があるだろうからその機会で良いだろうな。
そう思っていると、挨拶を終えた樹之命が着席し終え、最後に雪火の……って、おい、何で緊張しているんだこいつは?
と言うか、ガッチガチじゃねーかよ!
「おい、おい、雪火? お前の番だぞ? おい? せ……ブシドー、おい」
「うひゃおっ!? な、何をするのだっ!? …………あ、え、えーっと……その、せ、拙者の名前はブシドーだ。その、よろしく頼む」
小声で声をかけながら脇腹を指で突くと、ビクンと震えながら変な声とともに雪火は立ち上がり、全員から視線を向けられ緊張しながらも自分の名前を口にし……頭を下げて挨拶を終えた。
……座るときに恨めしそうにオレを睨みながらな。
これは、あとで2人きりになったら恐ろしいことになるんじゃないのか?
そう思っていると、扉がノックされ……テラっさんが許可を出してから中へと兵士が入ってきた。
「お疲れさまです! 船の準備が整いましたので、波止場のほうまで移動をお願いします!!」
「聞いての通りだ。船まで向かうが、準備は良いか?」
兵士の言葉に頷いてからテラっさんがオレたちのほうへと向き、そう口にする。
全員準備は出来ているようで、頷き立ち上がると部屋から出て、階段を下り……待合所から出た。
そして、到着した波止場には船が一隻接岸しているのだが……。
「小型船でも、飛鳥Ⅳのような豪華客船でもない、地球の海●丸サイズの帆船……だな」
「これだけの人数なのだからこれぐらいで十分ではないのか?」
「というよりも、飛鳥Ⅳレベルの船は今の技術じゃあ建造出来ないからな? 仮に出来たとしても、真ん中で折れるだろうし」
接岸している帆船、ポーッシュの街のイメージでもある波止場に泊まっている帆船の一隻を前にしながら、オレが呟くと雪火とテラっさんから突っ込みを受けた。
まあ、オレ自身そんな船を出されても逆に困るけどな。……前者は重量過多による沈没とかで、後者は船内の移動の不便さという意味で。
そう思っていると船からタラップが下り、波止場に固定された。
「どうぞ、お乗りください!」
「ご苦労。とりあえず……落ちないように気をつけて渡るように」
オレたちを案内した兵士がタラップの前に立ち、案内を始めたのでそれに従いオレたちは進んでいく。
嬉々と乗る者、恐る恐る乗る者、仲間に茶化されながらも進む者と様々な感じに分かれており、その中でオレは……恐る恐ると言った感じだった。
ミッちゃんが嬉々と乗り込んだタラップに続けて乗るとギシリと音を立て、本当に壊れないよな? という不安を感じながら、ゆっくりゆっくりと一段一段登っていく。
後ろからエクサと雪火の呆れたような視線を感じるが、こういう船に乗るのは現実でもゲームでも初めてということもあるし、中空に浮いている感覚はどうにも落ち着かないのだ。
どうか折れませんように、折れませんようにと心から祈りながら、何とかタラップを昇りきり……帆船に乗り込むと、オレは安堵の息を吐き出した。
そんなオレに、呆れた様子のテラっさんが近づいてくる。
「ふぅ…………、わ、渡れたぁ……」
「普通に渡れるだろう? それに落ちたとしても、海に落ちるぐらいだ」
「そ、それはそうなんだけど、何か妙に宙に浮くって感覚に慣れなくてさ……」
「……それが戦闘や訓練でピョンピョンと跳び回る奴らの言う言葉か」
もっともな意見が正確過ぎて、オレは何も言えなかった。
そして、そんな会話をしているうちに他のメンバーもタラップを昇り船へと乗り終えたらしく、船員によってタラップが引きあがられていく。
何時出港するのだろうかと思っていると……バサバサッと上空から音がし、上に視線を向けると2本の柱上で畳まれていた帆が拘束を解かれ大きく広がっていた。
おぉーと、その光景に目を行っていると……船員たちの手によって、帆が広げられると同時に波止場と船を繋ぎ止められていたロープが解かれていたらしく、ロープを受け取った際の掛け声が聞こえた。
改めてこの帆船を見渡してみるが、ファンタジーらしい中世時代にありそうなデザインをしていると思う。
……って、あれ? この船って、多分だけど……いや、十中八九風を受けて移動するんだよな? けど、風が吹いている様子が無いし……どうやって移動するんだ?
「どうしたッスか、そんな如何にも悩んでいるような顔をしちゃったりして」
「あ、ミッちゃん。いや、この船って柱に付いている帆に風を受けて移動するタイプ……なんだよな?」
「そうみたいッスねー。それがどうしたッスか?」
「どうしたって……。風が無いのにどうやって移動するのかなと思ったんだけど……」
「それについては問題ないわ」
「「うわっ!? って、エクサか……、驚かさないでくれ(ほしいッス)よ……」」
びくりとしたオレとミッちゃんだったが、何時の間にか後ろに立っていたエクサはまったく気にしていないとでも言うようにオレたちの言葉を無視していた。
というか、問題は無いってどういうことだ?
その疑問が顔に出ていたのか、エクサは説明を始める。
「地球の中世時代だと風がないと動かない自然任せだったから色々と不便だった。だから現代ではスクリューや蒸気などの機械を使ったりするようになった。……だけど、この世界には機械が無い代わりに……?」
「…………ああ、そうか。魔法がある。そういうことか?」
「そういうこと……よいしょ」
エクサの言葉でようやくオレは風が無いのに帆船でどう移動するのかということを理解する。
けど、それをやるのは誰なんだろうか。と思っていると、エクサがおもむろに着ていた厚手のローブを脱ぎ始めた。
その突然すぎる行動にオレを含めたプレイヤーたちは驚きの顔を浮かべながら止めようとするが、テラっさんたちはまるで気にしていないとでも言うように何の反応も示さない。……いや、子供は見ちゃだめってことなのか、ベンティさんがショートちゃんの目を両手で隠していた。
そして、厚手のローブを脱ぎ終えたエクサは、何時もの痴女スタイルに変化していた。……ちなみにそれを雪火は破廉恥はと両手で顔を隠しながら呟いており、他のプレイヤーのアニマステラ、サンフラワー、嵐牙、樹之命は凄く苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
……ああ、キミらも経験者だったね。
ちなみにプレイヤーの男衆はどんな反応をしてたかって? 流星は我関せずと言う風に目を閉じており、ジ・ゴールドは涎を垂らしながら乳尻太股を見ており、ブラッドレックスはヒューゥと口笛を吹いていた。
その視線に気づいているのか、エクサはオレたちのほうを振り向き――、
「言っておくけど、脱ぎたくて脱いだわけじゃないから」
「そうなのか?」
「ええ、前にも言ったけど、このほうが魔力を伝達し易いの」
エクサはそう言うと、静かに目を閉じ……まるで祈るかのように杖を天に掲げた。
すると、エクサの体に紋様らしき痣が浮かび上がり……2分ほど経ち陸のほうから風がゆっくりと吹き始めるのを感じ、その風を受けて帆が広がりをみせ……ゆっくりと港から離れ始めた。
なるほど、こうやって移動するのか。
移動を始める様子に感心していると、見送りに来ていたのか兵士たちが波止場のほうで敬礼をしているのが見えた。
……そんな彼らへと、田舎物の旅行客感丸出しといった感じにオレは手を振っていた。
正直紙テープとか用意されていたら投げつけてみたかったりもする。
まあ、無いから仕方ないだろう。
……とまあ、そんなこんなでオレのルーツフ地方探索の旅は始まりを告げた。
とりあえず、ルーツフ地方ではどんなことが待っているか、それが楽しみではあるが……今は船旅を楽しむことにするか。
そう思いながら、風を受けてゆっくりと進んでいく海の先を、オレは見つめた。
次回は船室での出来事を予定しています。
自己紹介の部分、だいぶ削りました。
服装とか事細かに書いたり、相手の体もマジマジ舐めつけるようにみていたりする描写もあったのですが、それだけで(中編)になりそうだったので……。
>自分に足りない物
10年来のチャット仲間から、一撃必殺の破壊力が足りないと言われました。
……破壊力かぁ。フィニッシュブローでもスーパーブローでも使えるようにならないと厳しいなー。
ギャラクティカマグ●ムとか、ブーメラ●フックとかな感じのスーパーブロー的ヒロインを……。




