閑話:邪神たちは踊る~襲撃編~
お待たせしました。
うぅ……、合コンがぁ……。合コンがぁ…………。
イケメン、イケメン~……。職場は本当にお爺ちゃんばかりじゃ味気ないのよぉ……。
うぅ~……、今頃楽しそうに会話してたりしてるんだろうなぁ……。
え? 始まってる? なにが…………あ。
こ、こほん! つつつつ続きを中継しますね!
邪神一行が監獄前へと辿り着くと、既にそこにはわたくしの報せを受けて襲撃を防ぐために多くの兵士たちが待機していました。
ちなみに兵士たちの大半はこの世界の下級上級の天使たちが担当をしています。一部、主神様の分け身としてのエルミリサも居ますが普通のことです。
そんな雑兵としか言いようが無い兵士たちを見ながら、邪神一行はほくそ笑みながら……悠然と歩いてきます。
しかし、兵士たちの中から彼らを率いているであろう人物が姿を現すと、邪神シャマラが手を上げて静止を促した。
シャマラのその動作を見届けると、前に出た人物……女騎士は声高らかに彼らへと問いを投げかけました。
「止まれ! ライブラから報告は受けた! 貴様たちはいったい何をしようとしているのだ!?」
怒鳴るような大声で邪神たちに問いかける声は、彼らを恐れようとしない堂々としたものです。
ちなみに容姿のほうは、女性らしい肉体をしていると思うのですが……その大半は銀色の輝きを放つ騎士鎧と呼ばれる類の鎧と兜を着用して体を隠しているため詳しくは分かりませんが、兜の奥からちらりと見える緑色の瞳と金色の髪からして美人であることは間違いないでしょう。あと、スタイルも抜群ですよ!
などと言っていると、邪神シャマラが優雅に一歩前へと踏み出し……頭を下げ、笑みを浮かべながら真っ赤な唇を動かした。
「ごきげんよう、騎士団長のトール様。ワタクシたちが何を行うか……ですか?
決まっているではありませんか、この場所に来た目的はただ一つ。違反者たちの解放です」
「解放……だと? 意識の無い人形を解放して何の意味があるっ!?
この場所は貴様たちの遊び場ではないのだぞっ!!」
「あら、その様子だと気づいていませんのね? ……いえ、それ以前にここ最近の話題、知ってますの?」
「最近の話題だと? 騎士にそのような話題など不要だ!」
話題を聞くならば剣を振る。それがトールの信条であり、お堅い騎士団長と思われがちだが……正直な話、一直線なだけなのである。
そしてそんな彼女のことを理解しているのか、クスクスと口元に手を当てながらシャマラは嗤う。その様子を見て、トールは激昂しました。
「貴様ぁ! 何が面白いのだ!?」
「いえ、別に……、ただ強いて言うならば……周りの話はきちんと聞いたほうが良い。ってことだけですわ」
「ええい、わけのわからぬことを! だが、貴様らはこの監獄を壊そうと考え、なおかつ違反者を外へと連れ出すと明言したな! だったら、我ら騎士は貴様らを排除する!!」
「あらあら、そうですか。……それでは、ワタクシたちも抵抗することにいたしますわ」
トールの言葉に従うように兵士たちはそれぞれ武器を構えます。対するシャマラ率いる邪神たちはシャマラの言葉に従い前へと出ました。
それを見計らうように、立派な様相の大剣を掲げたトールの指示が合図に響き渡ります。
「総員――、突撃ッ!!」
『『『『ウオオオオオオオオオオオオオオオッ!! ――――う、うわあああああああああっ!?』』』』
トールの合図を皮切りに、兵士たちは雄叫びを上げながら一斉に邪神たちへと突撃しました。
ですが突撃を開始した彼らの足元に突如ポッカリと大きな落とし穴が出来上がり、一気に落ちてしまいました。
前方を突き進んでいた兵士たちは落ち、何とか落ちるのを免れた兵士たちも後続の兵士たちによって仲良く落ちていきます。
これは……いったい? いえ、何となく分かりますよ? 犯人……。
わたくしがそう思っていると、犯人が楽しそうに笑い出しました。
「やったやった~! 小悪魔ガロンちゃんの悪戯ぁ~~……大・成・功~~♪」
「フハハハ! ガロンよ、面白い悪戯ではないか!! ではワガハイが貴様の悪戯を地獄に変えてやろうではないか!!」
ピョンコピョンコと跳ねる小悪魔ガロンへと、サタンが高らかに笑いながら言います。
そして、高らかな笑いと共に腕を振るった瞬間――兵士たちが落ちた穴の底から溶岩が噴出し始め、落とし穴に落ちた兵士たちを絶叫と共に黒焦げの死体へと変えていきました。
周囲に悲鳴が響く中で、落とし穴に落ちなかった者たちは恐怖に苛まれますが……何とか自身を鼓舞しつつ駆けて行きます。ですが彼らへと地面を滑るように近づいてくる者がいた。
けれど、兵士たちが気づいたときには身体が斬られ倒れているため、何が起きているのかまったく分かっていないでしょう。
「フシュルルル……。所詮中身は神ではなく天使たち……、他愛もない」
長い舌をチロチロとさせながらアポピスはそう言って、斧に近い形をした鎌型の剣であるケペシュを両手に持ってそれぞれを振り回しつつ兵士たちを斬り裂いていきました。
シャリン、シャリンとケペシュが振るわれ、兵士たちの体が斬られ……倒れていく。
けれども、呆気なく倒されることは出来ないと言うように幾名かの兵士たちは攻撃を捌きつつ反撃に打って出ました。
しかしアポピスは蛇としての特性を駆使しているのか、ウネウネと身体をくねらせると攻撃を回避していくと同時に反撃としてケペシュを振るい、反撃をする兵士の腕を斬り落とします。
更に敵は一人ではありません。
それに気づいているはずなのに、兵士たちの頭からは邪神が一柱消えていることに気づいていません。
そんな中で、兵士のひとりが声を荒げました!
「う、うわぁ! もう無理だぁ!! おれたち天使が邪神に戦いを挑むなんて無謀だったんだぁ!!」
「そ、そうだ……! 帰る! こんな所に居られるかぁ!!」
「お、おれも!」
「わたしも……!!」
突如叫んだ兵士は持っていた槍を地面に投げ落とすと、戦場から逃げ出すために走り出しました。
その姿を見た他の兵士たちも怖気付いたらしく、武器を投げ捨て戦場に背を向けて走り出します。
しかし、そんな逃げる兵士たちへと影の軍勢が襲い掛かり、自らの影の中へと沈めて行きます。ですが、最初に恐怖に叫び逃げ出した兵士の姿は存在しません。
何故ならばそれは……。
「アハハハッ、上手くいった上手くいった! 本当、あいつらって単純だよねー!」
アポピスに斬られ倒れていく兵士やチェルノボーグの影に呑み込まれていく兵士たちを見ながら、1人の兵士がケタケタと笑っています。
ですがその姿が徐々に変化を起こし……最終的にロキへと姿を変えました。
……そう、逃げ出した兵士はロキが変化していたものだったのです。
たかが一石を投じるだけの行為。けれどその一石によって状況と言うものは変化するものです。
不和……怖いですよね。
「貴様ぁ! 逃げるな!!」
「ふふっ、ワタクシ……あまり戦う力は持っておりませんの。ですからその攻撃は回避させていただきますわ」
ブォンブォンという風斬り音がトールが大剣を振るう度に聞こえてくるが、そのどれもが一撃必殺を齎すものです。ですが……当たれば、という言葉が付きますが。
事実、トールの振るう大剣はシャマラへと向けられるのだがそのどれもが寸前で回避されて命中することは無いようです。それがトールのプライドを刺激するらしく苛立ちをますます募らせていきます。
しかもそれだけではありません……。
何故なら、トールへの支援のためにシャマラへと攻撃を行う兵士たちでしたが……ある程度接近すると、一瞬呻き声を上げて黒く染まると……先ほどまで味方であったトールへと襲い掛かってきます。
「くそっ! お前たち……、目を覚ませ!!」
「団長、自分たちは正気ですよ。ただ主神様よりもシャマラ様を崇拝することにしただけです!」
「それが正気ではないと言ってるのだっ!!」
段々と増えていく邪神信仰者たちの攻撃にトールの剣戟も徐々に減り始めていきます。けれど途中で止めるわけには行きません。
唇を噛み締めながら、襲い掛かってくる元部下たちをトールは切り伏せて行きます。
……え、彼らに実際に何があったのかって?
簡単な話です、ただ単にある程度近づいたところで相談をこっそりと持ちかけているだけです。
……要するにそっちよりもこっちのほうが待遇良いですよ。的な。
更に言うならば一番琴線に引っ掛かったのは、美人悪魔とのセッティングだそうです……合コンぇ……。
合コン合コン言ってるならば、わたくしも寝返れば良いのでは? ですか?
それが出来れば苦労はしませんが……、わたくしはこれでも公平を信条としている神です。ですからどちらにも肩入れはしません。
…………まあ、今回の合コンキャンセルとか、冗談でつけた痴女関連に怒られた仕返しとして何かをしてやりたいとは思いますよ?(怨み)
あ、ああ……! 冗談、冗談ですからねっ! わたくしは公平、公平がモットーなんですから……!!
だから、そんな『ワタクシたちを優遇するなら超イケメン集団(ただし邪神系)との合コンをセッティングしてあげます』なんて視線でわたくしを見ないでください!!
「ぐっ!? う……うぅ……、は、放せッ!!」
少しばかり傾きかけたわたくしが何とか自制していると、トールが数の暴力に耐え切れなくなったのか複数の寝返った兵士たちによって拘束されていました。
地面に這い蹲るような形となったトールへとシャマラは近づき……、その背後へと他の邪神たちも近づいていきます。……つまりは他の兵士たちは逃げたか倒された、もしくは寝返ったということでしょう……。
それを理解しているのか、トールは苦々しい表情を浮かべながらキッとシャマラたちを睨みつけます。
そんなシャマラは他の兵士たちにするようにトールへと誘いを持ちかけます。
「トール様、貴女様もワタクシのために働いてもらえませんか?」
「断るっ! 我は主神様に忠誠を誓っている、だから貴様の誘いに乗るつもりなどないっ!!」
真剣にトールは叫びます。
……でも、この状況をプレイヤーたちが見ていたら、ただのロールプレイかNPCのイベントにしか思えないでしょうね……。けれどこの世界も一種の現実なのですから。
そう思っていると、まるで聞き分けのない子供に対するようにシャマラはフゥ、と溜息を吐き……。手をトールに向けて翳します。
すると、向けられた手から黒い靄が表れ……トールへと近づいていきました。
「そうですか……、でしたらゲーム的に邪神によって強力な洗脳を受けたってことにさせていただきますわ」
「な、何をするっ!? は、放せ……放せ……! う、うわあああああああああっ!!」
黒い靄が暴れるトールの体の中へと入っていくと、彼女の体はビクビクと跳ね……最終的に動かなくなりました。
それを見届け、寝返った兵士たちがトールから離れると、ゆっくりと彼女は立ち上がりました。
けれどその緑色の瞳は濁っており、感情を感じさせないようになっています。
とりあえず、詳細を確認しましょうか……、…………なるほど、トールの状態は現在《混乱》と《魅了》を中心とした精神に及ぼす類の異常のオンパレードですね。
要するに、自分から裏切らなかったので強制的に操る方向でいったと言うことでしょう。
「さて、それでは監獄内に入るといたしましょう」
そんな彼らを引き攣れ、邪神たちは監獄の中へと入って行きました。
……主神様ー、まだ監視していれば良いんですかー?
何というか結構大事になると思いますよー?!




