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狂い猫注意

お待たせしました。

 綺麗に整地され、体力をつけるために特訓を行うプレイヤーたちのために用意されていた白い枠線で地面に引かれた楕円形のレーンはボコボコとなっていた。

 そして、外から見えないようにという風に植えられていた木もぽっきりと折れており、打ち込み用に用意されていた案山子も根元から折れていた。

 ……更に言うと、何名かのプレイヤーたちが地に倒れ伏し……バッドステータスの『気絶』を引き起こしていることが分かった。


「……い、いったい…………なにが?」

「う……うぅ……」

「っ!? お、おい、大丈夫かっ!?」


 唖然としていたオレだったが、うめき声が聞こえ振り向くと地面に頭から直立に突き刺さっているプレイヤーが居た。

 その体勢に少し引いたが、何があったのかを聞くために助け起こすことにした。

 ……あ、こいつってしばらく前にナンパ目的でフラフラしてたプレイヤーじゃないか?

 そう思っていると、『気絶』が解けてきたのかそのプレイヤーがゆっくりと目を開け始める。


「こ、ここは……? 俺は確かあのにゃんこちゃんに……あ、不人気ちゃ――ごふぁっ!?」

「おい、いったい何があった!? はやく答えろ!!」

「お、おぱ……おぱ……っ! 見えそうなのにみえそうでみえな……スクショスクショをとって拡散を……!!」


 いったい何が起きたのかを聞こうとするのに、オレを見たプレイヤーは信じられない物を見たという風に真剣にオレを見始める。というか、ギラギラとし過ぎていて……何というか本屋でエロ本コーナーを見ている学生のような瞳だ。

 ……いったいどうしたっていうんだ? みえそうでみえな……ん? ちょっと待てよ……?

 震える手付きとギラギラした瞳でオレの姿をスクショしようとするプレイヤーに対して嫌な予感を感じつつ、オレは自分の服装を見るべく、ゆっくりとけれど素早く首を下に向けた。

 ……スケスケローブとマイクロビキニというエロ衣装のままだった。

 それに気づいた瞬間、送り返す前に着替えをする時間とか落とされる前の服装に戻してくれよと心からエクサに対して思うと同時に……。


「おっといけない、そんな所に蚊が!!」

「ふごげっ!? ――おぐっ!?」


 素早く手を動かすと同時にプレイヤーがスクショを行った瞬間――オレはプレイヤーの頬を張り倒した。するとプレイヤーの体は錐揉みしながら、訓練場の壁に突き刺さるのが見えたがすぐに視界から外し素早く衣装を切り替えることにした。

 多分、撮られたスクショはオレが張り倒す瞬間の映像が撮られていることだろう。スケスケローブは撮られていないと思いたい。……思いたい!!

 ……とりあえず速く着替えだ着替え! 着るのは穴に落とされる前の布のワンピースで良いや!

 そう思いながら、素早く装備欄を表示させるとササッと装備を変更させる。


 ――――――――――――――――――――


 頭 :マジックサークレット

 腕 :

 上着:白いマイクロビキニ(上)

 下着ボトム:白いマイクロビキニ(下)

 下着ランジェリー

 脚 :

 その他:スケスケローブ


 ――――――――――――――――――――


 ……名前をもう少し考えようよと心から思いながら素早くオレは装備欄を変更していく。


 ――――――――――――――――――――


 頭 :ツインテール用青リボン

 腕 :

 上着:布のワンピース(上下一体)

 下着ボトム:布のワンピース(上下一体)

 下着ランジェリー:布の下着

 脚 :革の靴

 その他:


 ――――――――――――――――――――


 軽く光が体を包んだ直後、オレの服装はエロ衣装から見慣れた服へと戻り、安堵の息を吐き出す。

 その直後、向こうのほうから激しい音がし、あそこで何かが起こっていると直感で察したオレはすぐさま音がした方向に向けて走り出した。

 するとそこでは、狂ったように歓喜するミッちゃんと……そのミッちゃんに対して野生の怒りを露わにするボロボロの体操服姿のニィナの姿があった。

 え、ナニコレ? 何度も言ってる気がするけど、本当にナニコレ?


 ◆


「フシャーーーーーーーーーーッ!!」

「ハハハッ!! 良いッス! 良いッスよーーっ!! もっと……、もっと、わたしを楽しませるッスよーー!!」


 髪や耳、尻尾を逆立たせ怒りを露わにしながら四つん這いになるニィナと、拳を握り締めながら高らかと笑うミッちゃん。

 一体この状況は何なのだろうか?

 そう思いながら、誰か詳しい説明が出来る人物が居ないかと周囲を見渡した瞬間――何度目かは分からないが2人の攻防が始まった。


「フシャーーーーーーッ!!!」

「ハハハハハハッ!!!」


 一瞬で飛び掛った2人の攻撃はどちらも荒々しく、本当に女だろうかと疑ってしまうものであった。

 空中から飛び掛ったニィナが猫のように鋭く尖った爪を腕の力で前に向けて振り下ろすと同時に、ミッちゃんは地面へと脚を踏み締めて重い拳をニィナに向けて打ち放つ。

 チッとニィナの爪がミッちゃんの頬を擦り、軽く皮膚が裂かれるがすぐに傷は塞がり……重い拳がニィナの横腹へとめり込んでいく。

 しかし、拳がめり込んだはずのニィナの体は拳の風圧に煽られるかのようにふわりと空中を舞い、タッと地面に足がつくと同時にその場で回るようにして腕を振るった。

 けれどその攻防は何度目かとなっているのか、ミッちゃんからは驚いた様子は感じられず……それどころか反撃としてか逆回転をしながら、ニィナの頭に向けて裏拳を打ち込んだ!

 だがミッちゃんの裏拳はニィナの頭に命中することは無く、寸前で頭を引っ込めたニィナに回避させられると同時に爪を立てた状態の両手で突き出されたミッちゃんの腕を掴むと、グルリンパという感じにミッちゃんの腕を鉄棒のようにしながら車輪を行い、クルクルと地面へと降り立った。


「ニャーーーーッ!! フシャッ!!」

「いたた……、何度目か分からないッスけど、本当面白いッスよ!!」


 裂かれた腕から血が滲み出すけれど、それもすぐに収まり始め……笑みを浮かべながらミッちゃんはニィナへと視線を向ける。

 そして、体を捻り始めると一気に拳を打ち出そうとしているようで、命中したらただじゃすまなさそうな感じがした。

 ……ミッちゃん、治癒能力半端ねぇ上に強すぎるんじゃね? ……じゃなくて!!


「ちょっと待った! 待った待った待ったーーーーっ!! いったいどうしたんだ、どうしたんだよこれはっ!?」


 呆然としながら目の前の光景を見ていたオレだったが、正気を取り戻して急いで2人の間へと立ち塞がった。

 間に立ち塞がったオレの存在に気づいた2人の反応は別々であった。

 拳を構えたままのミッちゃんは……上っていた血が未だ冷め切っていないのか獲物を狩るような、いや戦闘本能丸出しな瞳でオレを見つめながら、ニィと笑うとニィナへと打ち出そうとしていた拳を間に立ち塞がったオレへと一気に打ち出してきた!!

 これ、かなり本気だっ!?


「邪魔ッスよぉ!!」

「っ!? うわっ!! くぅ――――っつつつ……!」


 突然のことに驚いたが、オレは即座に体に魔力を行き渡らせると同時に土の属性を拳に宿らせると放たれたミッちゃんの拳を掌で受け止めた。

 すると、ミッちゃんの拳を受けたオレの掌はミシリと音を立てたけれど……魔力を纏った上に土の属性で強化されているからか……グロテスク描写よろしくな感じに掌は粉砕されることもなく、軽い痺れが走るだけだった。

 その一方でミッちゃんのほうは、防げるはずがない。そう思っていたのか、目を見開き真剣に驚いた表情が見られたが……そのお陰か周りが見えるようになって来たようだった。

 そして、背後のほうではニィナがオレの存在に気づいているようだけれど……様子を窺っているのか、警戒をしているように感じられた。時折、スンスンと鼻をヒクヒクさせて匂いを嗅ぐように見えるのは気のせいだろうか?


「…………ん? あれ? エルサさんじゃないッスか? 戻ってきたんッスね?」

「ああ、戻って来たさ……あの地獄からな。……で、いったい何があったんだ? あっちのグラウンドのような訓練場とか倒れているプレイヤーとか、ニィナを殺す気で放っていたこの拳とか」

「……え、えーっと、ッスね……ちょっとそれには、深いわけが…………」


 オレが少しばかり睨みを利かせながら問いかけると、少しずつ冷静さを取り戻し始めたミッちゃんは焦り始めながら、しどろもどろと言い訳を考えている。

 ……おい、いったい何をしたんだ?

 そう思っていると、不意に背後から気配を感じた。その直後――。


「ニャァァァ~~~~ンッ♪ にゃあ、にゃあぁん♪ うにゃぁ~~んっ♪」

「うわっ!? ちょ!? ニ、ニィナァ!? お、落ち着け! 落ち着けってば!!」


 猫のような鳴き声を上げながら、ニィナが突然背中に抱きついてくるとすごく嬉しそうな様子で……まるで本物の猫のように、後ろから背中に圧し掛かるようにして顔を近づけてると頬をぺろぺろと舐めはじめてきた。

 ペロペロと頬に当たる舌の感触がこそばゆく、ゾクゾクとした感覚が体を走り、それに耐え切れずに体は捻りそうになるが……、此処は我慢してとりあえずミッちゃんに何があったのかを聞くのが先だ。


「ニ、ニィナ……ちょっと待――ひゃっ!? いったい、なにが起き――ああ、頬がダメっていう意味じゃなくてだな! ――ひゃうっ!? く、首筋がいいってわけでもなくって……!!」

「ぅにゃあ? にゃぁ~ん、にゃにゃ~~ん♪」

「ひゃ――っ!? ちょ、そこはダメだそこはぁぁっ!!」


 首を傾げながら、ニィナはつぶらな瞳でオレを見つめるとオレの言葉を理解したのか頬から首筋へと舐める場所を変えていく。このままではワンピースを脱がせて体のほうまでも舐めそうな勢いだ。

 って、分かってない、分かってないよぉ!?

 心の底からそう思いつつ、ニィナが正気に戻ってくれるように体でも揺すって声をかけようかと思った瞬間、それは起こった。


「にゃぁん♪ にゃん、にゃん、にゃ~~♪」

「…………? ――――――ッッ!!?」


 ――ちゅっ。


 そんな効果音がつきそうなほど軽くだが、ニィナの柔らかな唇がオレの柔らかい唇に触れた。

 一瞬、何が起きたのか分からなかったオレだが、唇と唇が軽く触れたことに気づき始め……顔が熱くなるのを感じた。

 しかも、最悪なことに『気絶』から立ち直り始めたプレイヤーたちがその光景を目撃したらしく……。


『おい、今の見たか?』

『ああ……バッチリスクショした』

『キス? キスなのか? どちらかと言うと軽く触れただけって感じだけど……キスと言えばキスだよな?』

『スクショした奴……掲示板に上げてくれ。全力で保存するから』

『ユリだ、百合の花が咲き乱れるぜ……! ただし、薔薇の花はいらねぇぞ!!』

『キマシタワー! キマシタワー!!』

『ニャンニャンプレイか……萌えるな。不人気ちゃんのほうも猫っぽい服を着てたら最高だったのによぉ……』


「おぉ~~! ラブラブッスね~~!! ひゅーひゅー、お暑いッスよお二人さ~ん!!」


 元凶のお前が周りを煽るな!

 そう心から叫びたかったが、人生初と言えば初のキス(とオレは思っている)に動揺しながらも、これはキスじゃないキスじゃない。ただ触れただけ、触れただけなんだ……!

 そう自分に言い聞かせるが……、ニィナはオレの心境に気づいていないらしく、チュッチュチュッチュと頬とか口の当たりに唇を当てる。……まるで愛情表現と言う感じだ。

 そんな何度も連続で放たれたキスに、オレの精神は限界を向かえ……顔が燃えているのではないかと思うくらいに熱くなるのを感じながら仰向けにバタリと倒れ、青い空を瞳に焼き付けながら……プツンと意識を失ったのか視界は真っ暗になった。

 ……そして、意識を失う寸前、テラっさんの野太い声が聞こえたような気がした。

野生VS戦闘狂


とりあえず、次回は何故彼女はこうなってしまったのか。な感じになります。

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