エクサレッスン(前編)
お待たせしました。
そして、いきなり何言ってんだ的な質問(笑
……突然だが、君たちはマイクロビキニという種類の水着を知っているだろうか?
布面積が小さく、隠さないといけない場所だけを隠すという……たまにははみ出したりする感じの水着らしい。
……らしいって言うのはオレ自身現物なんて見たことが無いからだ。
まあ、イラストサイトでアニメキャラとかオリジナルの可愛い女の子が着ている物なら見たことはある。
有名なイラストサイトではタグとして、アニメタイトルの呼称+マイクロビキニ部なんてタグもあったりする。
勿論そのタグにはお世話になりました。
白いマイクロビキニとか、黒いマイクロビキニとか、赤いマイクロビキニとかが巨乳だったり貧乳だったりのキャラクターの胸を包み、ロリだったり人妻だったりとかの画像だって素晴らしかった。
そんな風にマイクロビキニ万歳とか思いながら、スリングショットとかを調べたら軽く引いたりもした。
アレは水着なのだろうかと……。まあ、ニップレスとかいうのもあるんだから水着なんだろう。
……そして、何でいきなりこんな話をしているかと言うと……訳があった。
とても、とても重大な訳が……。
いや、もうぶっちゃける。もうぶっちゃけたる!
オレは今何が悲しくて、マイクロビキニとスケスケローブなんて着なくちゃならないんだよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!
「集中が乱れてる。ちゃんと集中するように……」
「あ、はい……、すみません」
向かい側に立つ、同じようにキワドイビキニを着た気だるげな女性に叱られ、オレは謝る。
……本当、どうしてこうなったんだろうか?
集中を乱すなと言われたけれど、どうしてオレがマイクロビキニ+スケスケローブなんて痴女まっしぐらな服装をしているのかを、心の中で涙を流しながら思い出し始めた……。
◆
「うぉわあああああああーーーーっ!?」
『エ、エルサァァァァァァーーッ!!』
ヒュッと足元の感覚がなくなった瞬間、オレの体は真っ暗闇の中へと落ちていった。
上からニィナのオレを呼ぶ声が聞こえたけれど、返事をする余裕はまったく無い。
というか悲鳴を上げながら、一気に落下しているオレは不安を感じていた。
このまま地面に落ちたら、オレミンチじゃね? と……。
「ま、マズい! ミンチだミンチ! オレの命がかなりマズい!! 掴める場所! 掴める場所ーー!!」
慌てながら、オレは必死に手をばたつかせながら空中を泳ぐようにして壁があるであろう端まで移動する。
けれど、暗闇の中はどうなっているのかまったく分からないけれど、必死にばたつかせてもオレの手は壁にも引っ掛からなかった。
「ど……どうなってるんだ!? まさか、フィールド移動? けど、いきなりすぎるだろ? ――って、ふぎゃっ!?」
ようやくこの空間が何であるか気づき始めたオレだったが、何か膜のような物を通り過ぎた。
気にならない程度の衝撃だけれど、突然のことでオレは驚き変な声が口から洩れる。
けれど、その膜はフィールド移動に必要な物だったのか……それを通った瞬間、オレの視界は明るさを取り戻し始めた。
……が、そこはまったく見覚えが無い場所だった。
「どこだ……ここ?」
在り来たりだが、素直にオレはそう呟きながら周囲を見渡す。
そこは……、何処かのダンジョンの一部屋だと思われる場所だが、薬品というか漢方薬に近いようなにおいが室内には充満しており、顔を顰めたくなる。
そして部屋の中はほんの少し……、そう……ほんの少しだけだが人が住んでいることを主張するように生活感を感じさせられた。
いったい、ここは何処なんだ? そう思っていると視線を感じ、恐る恐る振り返ると……キワドイ水着とスケスケローブを着た痴女がいた。
「――――ひぃ! ち、痴女だっ!?」
「誰が痴女よ、誰が……。しかも、この格好を痴女と言うんだったら、あんたの格好も痴女でしょ……」
「え?」
一気に体を壁際まで引きながら顔を引き攣らせるオレに対して、痴女は呆れながらオレを見る。
それに釣られるようにオレも自分の格好を見るように首を下に向けた……瞬間、固まった。
……オレの視界には、小さな胸の先にある2つのさくらんぼを隠すぐらいの面積しかない上に濡れたら透けそうな白い水着とスケスケローブ越しの裸体が見えていた。
え、なにこれ? ほんとう、なんなのこれ?
いったい何があったと混乱するオレに対して、これ見よがしに大げさな溜息を吐く音が聞こえ、それがしたほうを見ると痴女が立っていた。
「……で、何か言うことは?」
「…………ち、痴女と言って申し訳ありませんでした……」
「よろしい。……じゃあ、改めて自己紹介するけど。我輩が魔法訓練を担当しているエクサ=リットルよ……。よろしく」
そう言って、痴女……じゃなかった、エクサは気だるげにオレに自己紹介をする。
それを聞きながら、オレも自己紹介をしようとしたが……。
「ああ、あんたは有名だから知ってる。名前は……エルサってのに変えたのね」
「し、知ってるなら別に良いけど……、オレはどうしてこんな所に落とされて、こんな格好をしてるんだ?」
「……ああ、テラの旦那は何時もの如く珍しく《魔力操作》持ちを説明無しにいきなり落としたのね」
オレの問い掛けに、エクサは溜息を吐きながら頭を抱える。……テラっさん、ちゃんと説明してくれよ。
ガハハと笑うテラっさんの姿を目に浮かべていると、エクサが説明を始めた。
「簡単に言うと、人間って基本的には《魔力操作》なんてスキルは覚えないのよ。
たまに現実のほうで魔術の世界に足を突っ込んでるプレイヤーが覚えてたりするけれどね……、そんな彼らに魔法の訓練をする場所が此処ってわけ。
通称、エクサダンジョン。道具制限あり、装備制限あり、正直な話極悪仕様だと思うダンジョン……」
「……え? 道具制限も装備制限もあるのか? ってことは、この格好って……」
「そう……、エクサダンジョン専用の衣装。布面積が限り無く少ないのはエロいからじゃなく、魔力を体中に伝達させるために必要な衣装だから」
……いや、どう見てもエロ衣装ですよね? スケスケローブ+マイクロビキニでエロ衣装じゃないって言い張れる自信なんて無いからね。
心の底からそう思っていると、オレの思っていることが判っているのかエクサは厳しい現実を告げる。
「魔法を上手く使いこなせるようになってエクサダンジョンから抜け出せないと、ずっとこの衣装のままだから……それがイヤなら文句を言わずに魔法の訓練をすること……。OK?」
「……マジデ?」
「オオマジで」
顔を引き攣らせながら訊ねると、エクサは躊躇うこと無く頷いた。
その現実に恐怖しながら、オレは魔法を使えるようにならなければいけないと実感した。……早くまともな服を着るために!!
◆
そして今に至るが……、現在オレはスケスケローブとマイクロビキニというエロ衣装の状態で何度目かの瞑想をしていた。
何度目か……というとおり、それまで恥かしいと思ったり、男性だったらどんなことになっていたのだろうとか考え続けて余計なことを思ってしまいまったく集中出来ずに居た。
その度に、エクサからは叱責と杖の一撃をお見舞いされていた。
なのでそろそろ真面目にやらないと、このエロ衣装を着続けたために称号に《野生の痴女》なんて付いてしまったなんてことになりかねない。
「すぅー……はぁ~…………」
「そう、このまま……深く……静かに……何も考えず、魔力を体の隅々に渡らせるように……」
エクサの言葉に耳を傾けながら、オレは目を瞑り……呼吸をゆっくりとする。
ゆっくりと吐き……、ゆっくりと吸い……。深く、深く、意識を沈めていく……。
するとオレは、自身の中にゆっくりと静かに燃える何かを感じた。
なんだ……これ?
初めて感じるのに、何故だか懐かしく感じるそれに触れるような感覚を感じていると、エクサがオレに語りかけてきた。
「燃える何かを感じる……? それが魔力、そして全身に行き渡る感覚が魔力を隅々に渡らせている状態……」
その言葉を聞きながら、魔力という物をオレは感じていた……。
……今まで、バトルアビリティで各種魔法は使用していた。けれど、これを感じるとアレは紛い物と思えるほどだった……。
純金と金メッキ、それほどまでの違いがある……。
そう思っていると、全身に魔力が行き渡ったのか……まるでオレ自身が燃えている、いや……魔力とひとつになっているような感覚に捕らわれた。
けれどその直後、ひとつになっていた魔力はオレの体から溢れ出し……まるで水の中にでも居るようにオレを包み込んでいく。
そう思いながらその揺らめきに体を委ねていると、オレの意識がこの素晴らしい魔力の中へと溶け出し……徐々にオレという存在が薄れ始め……。
「魔力に気を取られるんじゃない……! 気をしっかり持てっ!!」
「――――っ!?!?」
怒鳴りつけられるような声にビクッとした瞬間、オレの体に行き渡っていた魔力が一気に霧散し、体が重くなるのを感じた。
いったい、どうしたんだ? そう思いつつ、ゆっくりと目を開けると……苦虫を噛み潰したようなエクサがオレの肩を揺すっていた。
ど……どうしたんだ?
訳が分からず呆気に取られるオレだったが、そんなオレを見ながらエクサは安堵の息を漏らした。
「良かった……、正気に戻った……」
「え、オ……オレ……え?」
安堵するエクサに対し、オレはいったい自分に何があったのか分からずに混乱する。
そんなオレへと、エクサは頭を下げてきた。……え?
「ごめん……、普通に人間と同じように説明してた。……例え中身が人間だとしても、あんたの外身は主神様の分け身……それをすっかり失念してた」
「えっと、まったく話が見えないんだけど……?」
エクサは何が起きたのか、そして自分の失敗を理解しているようだけれど……オレはまったく分からない。
説明プリーズ。
そう思っていると、自分がまったく説明していないことに気づいたのか軽い溜息を吐き出した。
「今、我輩があんたに教えていた方法、それは自身の魔力の底を知ることと全身に魔力を染み渡らせることを目的とした行動だった……。けど、あんたは魔力を全身に染み渡らせたあと、その魔力に呑み込まれそうになっていた……。
わかる? あのまま、意識を魔力に委ねたままだったら……あんた、意識が完全に消えてたよ?」
「……え?」
「ゲームでだったら、意識が失うっていうゲーム会社に問題があるんじゃないかって指摘を受けるかも知れないけれど……、あんたはこの世界で生きる羽目になった。だから、意識の消失は普通に『死』……、そんな危険なことになるって思ってなかったから本当にごめん」
エクサの言葉を他人事のようにポカンとしながら聞いていたオレだったが、普通に死んだらやり直しが出来るというわけでは無いということに気づき顔を蒼ざめさせる。
そう……だった。理解してたけど、これはもうゲームじゃなく現実だったんだ……。
それを思い出しながら、オレは体の奥にあるはずの魔力に恐怖を覚え……体を抱くようにして縮まった。
「……怖い?」
「え?」
不意に、声を掛けられ……顔を上げると酷く悲しそうな顔をしたエクサが居た。
まるで……、そう……まるで宝物を取り上げられた子供のように純粋に悲しそうな顔をしていた……。
「あんたは怖いって言ってた魔力だけど、元々主神様と同じ物だから……すごく綺麗だった。
本当に、本当に綺麗だった……」
「エクサ……」
「加減を見極めて、自分が使えるようになる方法を見つけたら……きっとその力は、あんたの助けになる。だから……怖がらないであげて、だってその魔力だって……あんたの一部なんだから」
魔力は……オレの、一部……。
エクサの一言が、オレの心に強く……深く……響いた。
怖くても、オレの……一部か。
「……だったら、使いこなせないといけない……よな」
「ええ、そう考えてもらえて良かった……。このエクサダンジョンは周囲との時間の流れはずれていて遅いから……、何日居ても構わないから……」
そう言うだけ言うと、エクサは部屋の中央に置かれた台座に座禅を組むと静かに瞑想し始めた。
何というか、スケスケローブで殆ど裸にしか見えない服装で座禅って妙なエロスを感じるよね? などと馬鹿なことを考えていると……エクサの体から薄っすらと青白い揺らめきが感じられた。
その揺らめきが、エクサの病的なまでの白い肌と……夜闇を溶かしたような黒に少しだけ青が混ざった髪全体へと行き渡ると、彼女の体の表面に薄っすらと紋様が浮かび上がった……。
「……きれいだ」
ポツリと呟きながら、オレはエクサをマジマジと見る。一方、エクサのほうはオレの呟きが聞こえていないのか静かに瞑想を続けている……。
どうやらこれが、魔力を染み込ませる状態だったらしい。つまり、こんな感じの現象がオレにも起きていたのか……。
そう納得しながら、オレも魔力をもう一度感じるためにその場に座り込んだ。
浅く……、さわりだけに触れるように……。
魔力を感じながら、オレは静かに呼吸をし始めた…………。
●キャラクタープロフィール
・名前:エクサ=リットル
・性別:女性
・CV.:遊林黄緑
・髪の色:黒(光に翳すと青に見えるタイプの)
・身長:157cm
・体型:微乳の色白(日照不足)
・性格:ダウナー系の引き篭もり
・特徴:エクサダンジョン管理者のため、ダンジョンから出ないため常時あの服装




