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ニィナ、初めて街を歩く

おまたせしました。

ニィナ視点です。

 うーん……、……どうしよう?

 うんうんと唸りながら、あたしはリットル訓練場の一室である物を見ながら悩んでいた。

 ある物……それは本だけど、書いてある内容はこの訓練場で学べるという武器一覧の詳細だった。

 ……エルサに聞いたら、きっと分かり易いかも知れないけど……今この場には居ない。


「うぅ……、どうしてこうなったんだろう」


 少しだけ情けない声を出しながら、あたしは朝からこれまでのことを思い出し始めた。

 ……あれ? これって、現実逃避って言うんだっけ……?


 ◆


「戦いかたを学びたい?」


 怖い剣道の面の人が帰って、ご飯を食べて、お風呂に入って、ベッドで寝むりに付くまで考えていたことをあたしはエルサに朝ごはんを食べながら言う。

 ちなみに朝ごはんは、カリカリのトーストと砂糖で甘くされたホロホロ卵、それとトマトとレタスといった野菜とオレンジとぶどうの果物だった。……あ、スープのほうは昨日のポトフを少しだけ水で薄めたものを飲んだけど、美味しかった。

 そんな感じの朝ごはんを食べながら、驚いた顔をしてるエルサへと頷いた。


「うん、あの怖い人が来る前から少し考えてたんだけど……昨日、あたし何も出来なかったから、少しでも戦う力を身につけておくべきだって思ったの……」

「……そうか。じゃあ、朝御飯食べたら……訓練場に行くか」

「訓練場?」

「ああ、この世界で戦うために必要なことを学ぶ場所だ。そこならニィナがどんな武器を一番上手く使えるか分かる筈だからな」

「なるほどー。わかったよ! あたし絶対に戦えるようになるからね!! 待っててねエルサ!!」

「お、おう……」


 意気込むあたしにギョッとしたのかエルサは苦笑いを浮かべながらあたしを見る。その表情で少し変だったかなと思いつつ反省する。

 顔を赤くしながら、少し落ち込むけれど……エルサに変な子って思われないかなぁ……?

 それが少しだけ不安だった。


「さて、それじゃあ訓練場に向かうんだけど……姿を隠すための外套を羽織るか?」


 朝ごはんを食べ終え、エルサが立ち上がるとあたしへと初めて会ったときに被せてくれた布を差し出してきた。

 確か……これを被ったら他の人にも気づかれなかったよね?

 昨日の出来事を思い出しながら、あたしはエルサが持つ布を見ていた。すると、《鑑定》が機能したのかあたしの視界に布の詳細が表示された。


 ――――――――――


 アイテム名 : 隠れ蓑クロス

 品質    : 中級(4)

 説明    : 隠密活動向けの外套。頭からスッポリと被ると正体がばれ難くなる。

 効果    : 認識阻害


 ――――――――――


 隠れ蓑クロスって名前だったんだ……。

 改めて知った布の名前に、へーっと思いつつエルサを見る。


「エルサは被るの?」

「オレ? んー……、正直視線は苦手だと思う。けど、こうなったからにはその視線にも慣れないといけないんだよなぁ……」


 あたしの問い掛けに、エルサはウンザリしながら返事をしてくれた。

 ……そっか、そうなんだよね。あたしもこの世界で生きるんだから、視線に気にしたらダメってことだよね?

 だったら、あたしもその視線に慣れないといけないよね?

 そんな感じに心の中で思い、あたしはエルサを見た。


「エルサが、エルサが被らないんだったら、あたしも……被らない」

「え? 大丈夫なのか?」

「まだ、ちょっと怖いよ……だけど、エルサが一緒に居てくれたら、あたしは大丈夫だと思うから……っ」


 そうあたしが言うと、エルサは困った顔をしつつも「仕方ないな……」って言って差し出していた布はインベントリの中に戻したらしくエルサの手から消えた。

 そして……少し恥かしそうに顔を赤くしつつ、エルサがあたしに向けて手を差し出してくる。――え?

 きょとん、とエルサを見ると……差し出してきた手の意味を語り始めた。


「一人で出るよりも……一緒に出たほうが怖くないだろ? きょ……今日だけ、だからな?」

「……良いの?」

「嫌だったらしないだろ? それとも……手、繋がなくても出れるか?」

「つ、繋ぐ! 繋ぐよ!!」


 引っ込めようとしたエルサの手をあたしは素早く両手で掴むと、そのままギュッと握った。

 握り締めた手は柔らかくて暖かい……、あたしと同じ……女の子の手だ。

 と、というか……咄嗟に叫びながら掴んだけど……、変じゃ……なかったかな?

 そう思うと胸がドキドキしてきた。へ……変だな。何で、こんなにドキドキするんだろ……。

 ドクドクと鳴り響く胸の鼓動を感じながら、チラリとエルサを見ると……エルサも恥かしいのか顔を赤くし、気まずそうにしていた。

 ――あ、見られているのに気づいたのかあたしから目を反らした。

 ……なんだろう、こう……凄く、嬉しいけど……恥かしいな……。

 熱くなって来る顔に頭が引っ張られていってるのか、頭がボーっとしてきた……そんなあたしの様子にエルサが気づいたらしく、


「ニィナ? お、おい、大丈夫か?! ニィナ!!」

「え――あっ! う、うん、大丈夫だよ?」

「そうか……、だったらそろそろ行こうか?」

「うん、い……行こうか……!」


 エルサの声に頷き、あたしは立ち上がるとエルサに引かれたまま玄関へと向かう。

 そして、外へと出る入口の前で……あたしはゴクリと喉を鳴らす。……この扉の向こうにプレイヤーが居るんだよね? エルサには大丈夫って言ったけど……、やっぱり凄く不安だ。

 そんなあたしの心を見透かしているのか、エルサが繋いでいた手をギュッと握ってくれた。


「エルサ?」

「手は、放すつもりは無いから心配するな」

「う……ん、それじゃあ……行くね」


 エルサの言葉にそう言いながら、あたしはエルサの手を握り返すと彼女と共に外へと続く扉を開けた。

 その直後、光が視界を覆い……あたしとエルサは外に出ていた。

 裏通りらしき場所で、人は疎らでそのことに安堵しつつあたしはエルサに手を引かれながら大通りらしき場所へと歩き出した。

 4分ほど細い路地を歩いたりして……、急に開けた場所に出た。と思った瞬間、あたしは周りの光景に驚いた。

 ……すごい。昨日は怖くて怖くて仕方なかったから周りを良くは見ていなかったけど、ほんとにファンタジーって言葉が似合うような街並みだ。

 そんな初めて見る光景にホケーっとあたしが呆けた顔をしてるとエルサが手を引いた。


「ほら、迷子にならないようにちゃんと付いて来いよ」

「あ、う……うん!」


 エルサの声にハッとしてあたしはエルサと共に大通りを歩き出した。……すると、あたしたちの存在に気づいた人たちがチラチラと見始めているのか視線を感じるようになってきた。

 そして、周囲ひそひそと会話をしているらしいけれど……猫の耳には聞き取れるようで、周囲の会話があたしには聞こえた。


『なあ、あの子らって……』

『ああ、あのAIの』

『うはっ、可愛いな……!』

『尻尾、ゆらゆらしてるぜ……』

『不人気のほうは不人気のほうで、妙に男らしい気配を放ってるよな』

『ああ、何というか個性豊かなオーラを感じるぜぇ……』

『おい……誰か声かけてみろよ?』

『いや、お前行けよお前』

『イヤだって、恥かしいだろ?』

『んじゃあ、おれが』

『『『どうぞどうぞ』』』

『コントかよ!?』


 色々な会話が聞こえ、そのほとんどがあたしとエルサのことだった。

 けど不人気ってどういう意味だろう? 首を傾げつつもてくてくとエルサの後を歩くけれど、視線の中に違う視線を感じた。

 こう……舐め回すように全身を見つめ、ネットリとした感覚を感じた。何ていうか……興味と言う言葉からすごくかけ離れたような視線だった。


「――――っ!?」


 その視線にビクッとし、尻尾がピンと立ってあたしはキョロキョロと周囲を見渡す。

 そんなあたしの様子に気づいたエルサが声をかけてきた。


「ニィナ?」

「エ、エルサ……、何だか変な視線が……」

「視線? ……ああ、何となくお前が言いたいの理解した……。居るんだよな、ああいうプレイヤー……」


 あたしの説明にエルサも周囲を見渡すと何かに気づいたみたいで、溜息混じりにポツリと呟いた。

 その言葉にあたしは分からずに首を傾げるけれど、直後振り返るとエルサはあたしの体を優しく包み込んだ。

 突然のことであたしは驚き目をパチクリさせ、周囲からは「おぉっ!」とした声が聞こえた。

 いったいどうしたのか分からず驚きながらも……、エルサの体から漂う甘い香りにまた胸がドキドキし始めた瞬間――。


『ニィナ? ニィナ、聞こえるか? 聞こえてるなら、心で返事をしろ』

「――っ!?」


 突如頭の中に聞こえてきた声に、あたしはビクッとした。けれど、エルサが言ったように驚いた声を上げないで居たのは偉いと思う。

 そう思っていると、エルサがこれは内緒話に向いているものだと説明をしてくれて、返事は心の中でしたら良いと教えてくれた。

 その説明に納得していると、エルサが説明を始めてくれた。


『つまりだ。ニィナが感じた視線っていうのはだな、いやらしい目で可愛いプレイヤーを見る奴らなんだよ』

『え、えっと……?』

『……エッチな目でオレやニィナを見るプレイヤーが居るってことだ』

『えぇっ!?』


 良く分かっていなかった言葉に、サラッとエルサはもう一度説明をしてくれたけれど、その言葉にあたしは顔を真っ赤にしながら驚いた。

 え、えっちなめ?! えっちな目で見られてたのあたし!?

 そんな目で見られていたことを知って顔を真っ赤にしながら、あたしはピンと尻尾を立てた。

 い……一応、あたしだって中学は卒業しているからえっちとかそういうのは知ってるよ? けど、そんな目で見られるって言う経験はまったく無いはず。だって……女子の中ではあまり目立たない部類だったと思うから。

 で、でもでも高校生になったらそんな会話をすることになってたのかなぁ? うぅ……実感が湧かないよぉ……。

 けどエッチって、少女漫画にあったような感じのことをするんだよね? う、うわー……うわーっ!

 ……そんな風にあたしは顔を真っ赤にして頭をブンブン振っていると、言い辛そうにエルサが……。


『……えーっと、ニィナ。心の声が駄々漏れだから……』

『にゃっ!? き、聞こえてたの……?!』


 顔を真っ赤にするエルサを見て、あたしはますます恥かしくなり……顔を俯かせる。

 うぅ、恥かしいよぉ。恥かしいよぉ……!

 きっとあたしの顔はすごく茹蛸になっていると思いながら、エルサに手を引かれて訓練場へと向かった。

 ……ちなみに幸か不幸か分からないけれど、恥かしさのあまり嫌な視線は気にならなくなっていた。


 そして、訓練場へと辿り着くと……。


「ぃよぉぉぉーーこそ! リットル訓練場へええええぇぇえぇぇっ!!」

「ひゃっ!?」


 大きな男の人があたしたちに向けて大きな声をかけてきたため、あたしは驚きまたも尻尾をピンと立てた。

 そんなあたしの様子を見つつ、エルサは溜息を吐きながら目の前の男の人へと声をかけた。


「はぁ……。テラっさん、ニィナが怖がってるから、そのノリは止めてくれよ」

「ん? そうかそうか、すまなかったな。それで今回はどんな用件だ?」


 あたしたちの顔を見てから、男の人はついさっきまでと違った様子で謝ると用件を聞いてきた。


「ああ、今回はニィナに合う武器を見極めることと……そのまま使えるように訓練を頼みたいんだ」

「なるほど。それは分かった。では……ん? ちょっと待て、お前……《魔力操作》を習得しているな?」


 うんうんと頷く男の人を見ていると、何かに気づいたようにエルサを見てきた。

 ど、どうしたんだろう?

 そう思っていると、エルサも分かっていないようで聞かれたままに頷いた。


「……覚えてるけど、それが何か?」

「だったら、お前はエクサのところで魔法を修練して来い。おーい、エクサー!」

「は?」「え?」


 突然の言葉に、あたしとエルサは固まる。……というか、何だか話が勝手に進んでる?

 そう思った瞬間、男の人の言葉にそのエクサって人が反応したのか、エルサの足元にポッカリと大きな穴が空いた。

 直後、エルサは穴の中へと落ちていった。


「――う、うああああああ~~~~っ!?」

「エ、エルサァァァァーーッ!?」


 驚きながら落ちて行くエルサへと手を伸ばしたあたしだったけれど、伸ばした瞬間……穴は閉じてしまった。

 その光景に呆然とするあたしへと……大きな男の人は、あたしを怖がらせないように笑っているみたいだけどとても怖い笑みを浮かべつつ……。


「さ、ではお嬢ちゃんのバトルスタイル選びを始めに行くか」

「あ、あわ……あわわ……」


 ガクガクと震えるあたしの肩にやさしく手を置いているみたいだけど、エルサが居なくなったショックが大きくあたしは返事が出来ないまま……ズリズリと訓練場の奥へと連れて行かれた……。

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