市場で見つけた青いリボン
街から帰った夜。
アメリアは自室で机に向かい、
今日の出来事を絵に描いていた。
市場の通り。
パン屋の前でアレックスが驚いた顔。
賑やかな声と、風にそよぐ布。
一日の思い出が色鉛筆の線になって広がっていく。
扉がそっと開き、
アレックスが顔をのぞかせた。
「……アメリア、今……いい?」
「もちろん!どうしたの?」
アレックスは胸のあたりで何かを握りしめている。
迷うように視線を揺らしながら、
アメリアの前に立った。
「……これ……あげる。」
差し出されたのは、
薄い青色の小さなリボンだった。
市場の露店に並んでいたやつだ。
「わぁ……これ、欲しいって思ってたやつ!」
アメリアが笑顔になると、
アレックスの表情が少し緩んだ。
「アメリア……見てたから。
……似合うと思った。」
アメリアは髪をまとめ、
そのリボンをそっと結んだ。
「どう?」
アレックスは真剣な顔で見つめる。
小さく頷いた。
「……すごく、似合う。」
アメリアは嬉しくなって、机の引き出しを開けた。
「アレックスにも、おそろいにできるもの……あ、これ!」
小さな金の紐。
昔、何かの贈り物に巻かれていたものらしい。
「これ、手首に巻いてもいい?」
アレックスは一瞬驚いたが、
アメリアの目を見ると、ゆっくりと手を差し出した。
アメリアはそっと紐を結ぶ。
金のひもが小さな手首にふんわりと光った。
「ほら、おそろい!」
アレックスは自分の手首を見つめ、
しばらく言葉を探すようにして──
「……うれしい。」
その声があまりに静かで、
胸の奥にじんと温かさが染みた。
「アレックス、ありがとう。
私、すごく嬉しいよ。」
アレックスは少し照れたように俯き、
そのままアメリアの隣に座った。
二人はしばらく、静かな時間を共有した。
暖炉の火が揺れ、夜の空気がゆっくりと流れていく。




