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推しの義弟を守りたくて悪役ルートを回避したら、愛が重すぎる未来ができあがった  作者: ChaCha


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選ばれてしまった妃。

エピローグ

ミシェルはゆっくり身を起こす。

はだけた寝間着は柔らかな絹。

部屋は広いが、どこか冷たい。


窓は高く、外は見えない構造になっている。

太陽の位置も分からない。

朝か昼か、光の色でなんとなく判断するしかない。


ここは――


「第二王子妃だけの離宮」


王宮の敷地の一角、

深い森に包まれた小さな離宮。

周囲をぐるりと高い壁に囲まれ、

出入りできるのはただ一つ。


第二王子アルフレッドが持つ“鍵”だけ。


その離宮は第二王子宮と一本の橋でつながっている。

橋の向こうは衛兵詰所。

だがミシェルの存在を“妃”として認識している彼らは、

彼女を止めこそすれ、通すことは決してしない。


それが、この場所の役割だった。



侍女が部屋に入ってきた。


痩せた少女で、

瞳に光がない。

口をきけず、文字も読めない。

誰にも秘密を漏らさないための選ばれた子。


彼女は無表情のまま、

朝食の膳を整え、

ミシェルの髪を整え、

必要最低限のことだけをする。


少女は声を持たない。

少女は読み書きもできない。


つまり――


ここでのミシェルは

誰とも 会話 ができない。


ひとりきりの妃。


「……ありがとう」


小さく言っても、少女はただ黙って頭を下げるだけだった。



昼も、夜も、

離宮は驚くほど静かだった。


人の気配はほとんどなく、

風の音だけが高い壁に反響している。


そして、日が沈みかけた頃。


コツ……コツ……と靴音が橋を渡ってくる。


ミシェルはその音をもう聞き分けられるようになっていた。


アルフレッドが来る音だ。


扉が静かに開く。


アルフレッドが現れる。


第二王子としての威厳を纏いながら、

微笑むその顔は、どこまでも優しい。


その優しさが、

いちばん怖い。


「ミシェル。今日の体調はどう?」


「……いいわ」


微笑んで答えるしかない。

逆らえば、何が“変わる”か分からない。

変わらなかったとしても、怖い。


アルフレッドは手を伸ばし、

ミシェルの頬に触れた。


「良かった。君が元気でいてくれて」


触れ方は優しい。

けれど引かれれば、それは枷に変わる。


「……私、離宮の外へ……」


言いかけた瞬間。


「ミシェル…

それは、ダメだよ…」


アルフレッドは静かに首を振った。


胸が痛い。

逃げたい。

泣きたい。


でも泣くと、彼は悲しそうに笑う。

その笑顔を見るのがもっと怖い。


だからミシェルは今日も笑うしかなかった。


「……ええ。分かったわ」


アルフレッドは満足げに微笑む。


「いい子だ」


夕方から朝まで、

アルフレッドは離宮に滞在する。


朝になれば王宮へ戻る。

ミシェルはその間、

逃げることも、助けを呼ぶこともできない。


ただ――

待つだけ。


妃という名の、

世界にたったひとりの囚われ人として。




「ミシェル。

 君がいてくれて、本当に嬉しい」


今日も彼は、壊れ物を扱うように髪を撫でる。

劣情を孕んだ瞳でみつめ 優しく唇に触れる。


幾度となく熱に浮かされて

深く沈んでいく……



胸がぎゅっと痛む。


(…あの時…選択肢を間違えなければ…)


この場所は柔らかくて、暖かくて。

でも同時に――逃げられない。


“隠しルート”のバッドエンドの、その先。

現実で体験するには、あまりに重すぎる愛。


ミシェルは閉ざされた離宮の中

意識を手放した。



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