表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
推しの義弟を守りたくて悪役ルートを回避したら、愛が重すぎる未来ができあがった  作者: ChaCha


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

86/89

封じられていく選択肢と、見えない檻の影

翌朝。

薄い雪雲が空を覆い、光が地面まで届かず、学園全体が灰色に沈んでいた。

ミシェルは胸の奥の重さを引きずったまま教室へ向かう。


(……昨日、アルフレッドに言われた言葉……)


「君をひとりにするつもりはない」


優しい声で、柔らかい表情で。

なのにあの一言は、まるで

“この世界で君が自由に動く未来はない”

と告げる宣告のように聞こえた。


(怖い……でも……嫌じゃなかった……

 なんで……?)


混乱するたびに息が浅くなり、

ミシェルは寒さより胸のざわめきの方が気になっていた。



教室に入ると、

クラスメイトの男子グループが話しているのが耳に入る。


「昨日、例の上級生が振られてたぞ」

「相手、あのミシェルって子だろ?」

「っていうかさ……あいつ最近、誰にも近づけなくね?」

「誰か先に手回ししてるんじゃ……」


ミシェルは肩を震わせた。


(わ、私……そんな……)


違う。

告白された覚えはない。

近づく機会があったとも思えない。


(どうして……誰も……近づこうとしないの……?)


“近づけない”のは偶然なのか。

それとも――

アルフレッドが“先に何かをしている”のか。


疑いたくない。

でも思い当たる節はいくつもある。


昨日、リリィが怯えていたこと。

寮に返しに行くと言った本を、当然のように“奪うように”持っていたこと。

誰と話そうとしても、すぐ近くにいたこと。


全部つながってしまう。


(いやだ……考えたくない……)



休み時間。

ミシェルはリリィと少しだけ話すことができた。


「ミシェル……最近、本当に気をつけてね」


リリィは声を潜めて囁いた。


「聞いたことあるの。

 “選択肢が減り始めた女の子は危ない”って。

 最初は優しく接して距離を詰めて、

 気づけば周囲から誰も近づけない状況にして……」


ミシェルの胸が強く締めつけられる。


(選択肢……減ってるの……?)


リリィは続ける。


「前に読んだ小説でもね、

 “隠しキャラルート”って、

 本来の攻略が全部閉じてから始まるらしいの。

 普通の人は気づかないんだけど、

 主人公が振り返った時だけ……

 “あ、もう戻れないんだ”って理解するんだって」


(……っ)


ミシェルの心臓が跳ねた。


(選択肢が……閉じていく……

 まさか……私……?)


けれど、受け止めきれずに笑って誤魔化す。


「ま、まさか……そんな……!

 だって私、攻略なんてしてないし……!」


「ミシェル……

 攻略は“してなくても踏む時は踏む”んだよ」


その瞬間、脳裏にフラッシュバックが走った。


前世の朱里の声。


『ちょっと!それ絶対踏んじゃダメなやつ!

 一回踏んだら最後!

 推しルート行きたくても行けず……

 ふふ……リセットしかないんだよね……

 見た目はいいんだけど……見た目は……!!』


(……踏んだの……?

 踏んじゃったの……?

 あの偶然が……全部……?)


息が苦しくなった。



そのときだった。


「ミシェル」


背後から声が落ちる。


優しい声なのに、雷のように心臓が跳ねた。


アルフレッドだ。


なぜ――

今この会話をしている、この瞬間に。


(……どうして……来るの……?)


アルフレッドはリリィに軽く会釈し、

ミシェルへ視線を戻した。


「昼食、まだだろう?」


「え、あ、あの……今日はリリィと――」


「リリィは授業準備がある」


「え?」


リリィがびくっと肩を震わせる。


「え、えっと……」

「そう、そうなの……ミシェル、ごめん……!」


嘘だ。

声が震えている。

さっきまで準備の話など一度も出ていない。


(……リリィ……恐がってる……)


アルフレッドは微笑む。


柔らかく、優しく。

けれど“結論を覆す気がない”目。


「行こう、ミシェル。

 君が食事を抜くのは良くない」


ミシェルの手は冷たく震えた。


彼は決して強引に腕を掴まない。

触れない。

触れないのに――

逃げられない。


(……これが……“選択肢が閉じる”ってこと……?)


ミシェルは小さく頷くしかなかった。


「……うん」


アルフレッドは静かに言う。


「良かった。

 君が俺について来るのは、自然なことだ」


その言葉に、

ぞくりとした。


優しいのに。

優しいのに――

“逃げ場を封じる形”の優しさ。


ミシェルは気づき始めていた。


自分の未来はもう、

 選び直せる道ではなくなっている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ