表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
推しの義弟を守りたくて悪役ルートを回避したら、愛が重すぎる未来ができあがった  作者: ChaCha


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

85/89

理由のない優しさは、逃げ道を塞ぐ

冬の曇り空の下、

ミシェルは小さく震えながら校庭を歩いていた。


息が白く溶ける。

胸の奥がざわざわして、

落ち着かない。


(……最近、どこにいても“見られてる”ような気がする)


気のせいかもしれない。

だけど、背中にかかる視線は、

まるで“確認”されているような温度だった。


――大丈夫か。

――寒くないか。

――どこへ行く。

――誰と話す。


問いかけられてはいないのに、

いつの間にか答えを強いられるような圧。


(アルフレッド……どうして……

 こんなに頻繁に出てくるの……?)


考えないようにしても、

彼の存在が思考の端にしつこく絡みついて離れない。



昼休み。

ミシェルは友人のリリィたちと

久しぶりにおしゃべりしていた。


「ミシェル、最近顔色悪くない?

 大丈夫?」


「う、うん……大丈夫……だと思う……」


リリィは心配そうにミシェルの手を包む。


「なんかね、前に聞いたことあるんだけど……

 “距離を詰めるのが異常に早い男子”には気をつけた方がいいって」


「……え?」


「最初は優しいんだって。

 人助けしたり、困ってるのに気づいたり、物を拾ってくれたり……

 でもね、あれ全部、理由があるんだって」


「り、理由……?」


リリィは声を潜めた。


「“距離を詰めても拒否されにくい素地づくり”。

 それを優しさでやってくるタイプがいるんだよ」


ミシェルの指先が震えた。


心臓が、ズン……と重くなる。


(……それ……)


思い当たることが

いくつもある。


リリィはさらに続ける。


「見た目が綺麗な人ほど、信じちゃう子が多いんだって……

 ちょっとした偶然でも、“運命みたい”って誤解しやすいから」


(運命……みたい……)


ハンカチを拾われた。

寮の前で待たれていた。

気づけば手袋を渡されていた。


(……偶然じゃ……ない?)


頭がぐらりと揺れた。


「ミシェル、大丈夫?

 なんか……真っ青……」


「え、えっと……ちょっと……考えごと……」


リリィが心配して肩を抱こうとして――

その手が空中で止まった。


影が落ちる。


「……ミシェル」


アルフレッドだった。


また――いた。


ほんの数十秒前までどこにもいなかったのに、

突然そこに“いる”。


ミシェルの心臓が跳ねる。


「具合が悪いのか?」


柔らかい声。

優しさに包んだ気遣い。


でも瞳だけが、

リリィの手を“許さない”ように見ていた。


リリィは青ざめ、小さく会釈して距離を取る。


ミシェルは震えながら笑顔を作った。


「だ、大丈夫……ちょっと驚いただけで……」


アルフレッドはミシェルの額へ視線を落とす。


「寒いところに長くいたからだろう。

 ……戻るぞ」


「え、でも、まだ休み時間――」


「戻るぞ」


拒否の余地がなかった。

命令ではない。

でも命令だった。


ミシェルは仕方なく立ち上がる。


リリィの顔が心配で引きつっている。

「気をつけて……」と口の動きだけで伝わった。


(リリィも……怖がってる……

 私……何を巻き込まれて……?)



廊下へ出た途端、

一段と空気が冷たくなった。


アルフレッドが歩幅を合わせ、

隣に立つ。


「君の友人は、君の状態にあまり気づいていないな」


「そ、そんなこと――!」


「だが俺は気づく。

 君の呼吸、声の高さ、歩き方……。

 昨日より冷えている。

 焦って歩いていたからだ」


どうしてそこまで見ているのか。

どうしてそこまで“把握できるのか”。


怖い。

でも、逃げたくない。

そんな矛盾が心を締めつける。


ミシェルは勇気を振り絞って言った。


「アルフレッド……。

 どうして……そんなに私のこと……」


問い終わる前に、

彼が立ち止まった。


静かに振り返り、

ミシェルの瞳を覗き込む。


その目の奥に――

確かに“熱”があった。


抑え込んだ情熱。

深い執着。

まだ表に出していない、濃すぎる何か。


「理由がいるのか?」


低い声だった。


「君が俺の視界に入って、

 俺を見て、

 俺の言葉に反応する。それで十分だ」


息が止まる。


(……それって……)


アルフレッドは一歩だけ近づく。


触れていない。

触れていないのに、

体が勝手に壁際へ追い込まれる。


「ミシェル。

 君をひとりにするつもりはない」


その言葉の“意味”に気づけたら――

ミシェルはもう引き返せなかった。


胸の奥で、

“カチ、カチ” と何かが閉じていく音がした。


ゲームで言うなら――

 マップ移動不能。

 他ルート封鎖。

 選択肢減少。


(……逃げ道……なくなってる……?)


改めて顔を見る。

美しい。

穏やか。

なのに、どうしようもなく怖い。


怖いのに……

胸が熱くなるのが、もっと怖い。


アルフレッドは静かに微笑んだ。


「行こう。君の歩幅に合わせる」


優しい言葉だった。


でもその優しさが、

一番重く、一番冷たい鎖に感じた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ