表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
推しの義弟を守りたくて悪役ルートを回避したら、愛が重すぎる未来ができあがった  作者: ChaCha


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

84/89

“偶然”のはずなのに、逃げ道がどこにもない

ミシェルは最近、

胸の奥のざわめきが止まらなかった。


(なんでだろう……別に嫌じゃないのに……

 なのに、息がうまく吸えない……)


その理由は昨日からはっきりしている。

アルフレッドが“当たり前のように隣にいる”時間が増えすぎたのだ。



翌朝の教室。

ミシェルが席につくと、


「ミシェル」


当たり前のように差し出されるノート。


「えっ……!? わ、私、落とした……?」


「落とした。廊下の突き当たりだ。

 拾って、君の席へ置いておいた」


(……なんでそんな場所に私のノートが……)


疑問はある。

だが言葉にできない。


アルフレッドの視線は静かで、

“反論が正しいのかさえ分からなくさせる圧”があった。


「……ありがとう」


胸が苦しくなる。



休み時間。

友人のリリィが声をかけてきた。


「ミシェル、帰りに書店寄らない?

 新しい魔術の参考書、可愛い表紙のやつ!」


「う、うん! 行きたい!」


久しぶりの普通の誘い。

心が少し明るくなる。


だが――。


「ミシェル」


また名前を呼ばれる。


背筋が固まった。


アルフレッドが、

いつの間にか後ろに立っていた。


「放課後、君の寮まで本を届ける。

 昨日貸した手袋を受け取りたい」


なぜ――

“届ける”と言うのだろう。


リリィが気まずそうに目をそらした。


(あ……終わった。)


ミシェルは笑顔を無理やり貼りつけて言う。


「ご、ごめんリリィ……今日は……」


「あ、うん! また今度ね!」


リリィは明るく振る舞ったが、

ミシェルは見逃さなかった。


――目が、怯えていた。


(……リリィ、怖がってる……

 なんで? 何が……?)


ミシェルは勇気を振り絞って言った。


「アルフレッド、その…後で…返すよ?

 寮まで来なくても――」


「駄目だ。

 俺がいく」


拒絶の余地がなかった。


言い方は柔らかい。

声も穏やか。

けれど“正解以外を許さない”空気が肌を刺す。


(なんで……なんでこんなに優しいのに、

 逃げられないって思うの……?)



放課後。


寮への帰り道。

ミシェルはひとりで歩いた。

少しだけ、アルフレッドと距離を置きたかったから。


風が冷たい。

冬の夕暮れの香りがする。


そのとき――


「帰りはこっちだ」


横から声が落ちてきた。


振り返らなくても分かった。

アルフレッドだった。


「そ、その……今日は大丈夫、ひとりで帰れる……!」


「ひとりで歩くと、危ない」


「危なくないよ……ここは学園だし……」


「危ない」


(まただ……また“決定事項”みたいに……)


ミシェルは怖くなった。


「どうして――どうしてそんなに……私のこと……」


言いかけて、言葉が詰まる。

核心に触れてはいけないと、

本能が警告した。


アルフレッドは静かに近づいてきた。


「ミシェル」


目の奥が、深い。

色が沈んでいる。

でも光がある。

獲物を捉えるような――

いや、絶対に逃がさないと決めた光。


「君の無事は、俺が確認する」


意味が分からない。


けれど言葉の隙間に、

“おまえがどこにいても把握している”

そんな温度が潜んでいた。


喉が乾く。

呼吸が浅くなる。


アルフレッドは優しく微笑んだ。


「君を心配するのは、俺だけでいい」


それは優しさの形をした“宣言”だった。


ミシェルは震える声で返す。


「……どうして、そんな……」


「理由が必要か?」


ゆっくり、ゆっくりと距離が近づく。


彼が触れた場所はどこにもない。

なのに――

触れられたような錯覚が全身を走った。


「ミシェル。

 君を放っておく選択肢は、もう俺にはない」


その語尾が、静かに沈んだ。


逃げられない予感だけが、はっきりと胸を掴んだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ