スチルに固定される涙
アレックス視点
アメリアの言葉は、
ずっと欲しかったものだった。
“好きだよ”
“ずっと一緒にいたい”
何度夢に見たか分からない。
何十回と、心の中でシミュレーションした台詞だ。
(なのに、どうして――こんなに苦しい)
胸が焼けるように痛い。
(もっと早く言ってくれていたら)
幼いままの二人なら、
“ずっと一緒にいようね”で済んだかもしれない。
将来も、縁談も、
王家も、立場も、
何も考えずにすんだかもしれない。
でも今は違う。
アメリアは、公爵令嬢だ。
誰もが噂する、病弱で聡明な美しい令嬢。
影から見ていても分かる。
彼女に目を向ける者は、年々増えている。
(アメリアには多くの縁談が来るだろうって)
アメリアが、自分の意志で誰かを選ぶ。
その“誰か”に、自分が含まれていない可能性を思うたび、
心がボロボロに崩れる。
「アメリア」
名前を呼ぶ。
彼女は、不安そうに、でもまっすぐこちらを見ていた。
(この瞳を、誰かに向けるのかもしれない)
たとえ“今”は自分を選んでくれたとしても、
未来永劫その選択が変わらない保証なんてない。
“ずっと一緒にいたい”
その言葉が、いつどこで“ごめんね”に変わるのか
分からない。
(でも、俺の“好き”はもう変わらない)
アメリアがどんな未来を選ぼうと、
自分だけは変われないだろう。
“君がいない世界で生きていく”という選択肢を、
もう受け入れられない。
「アメリア」
震える手を伸ばし、
そっと彼女の頬に触れた。
柔らかい肌。
少し冷たい温度。
アメリアが目を見開く。
「アレク……?」
「ごめん」
何に対する謝罪なのか、自分でも分からない。
“君を不安にさせたこと”
“君に言葉を渡すのが遅すぎたこと”
“これから自分が選ぶかもしれない道のこと”
全部が喉の奥で絡まって、
ひとつの短い言葉にしかならなかった。
視界が滲む。
(あ)
指先に伝うぬるい感触で、
ようやく自分が泣いていることに気づく。
アメリアが驚いたように息を呑んだ。
「アレク……泣いて――」
「……怖かったんだ」
言葉がこぼれる。
「アメリアが誰かを選ぶ未来が。
俺じゃない誰かと笑っている未来が。
“さよなら”って言われる未来が」
アメリアの朱の瞳が揺れる。
「俺は、君がいなきゃ生きていけないのに。
君はきっと、俺がいなくても……
ちゃんと笑えるだろうから」
それが、一番怖かった。
震える指先で、もう一度アメリアの頬をなぞる。




