揺れる馬車の中で
アレックス視点
車輪が石畳を叩く、単調なリズムが続いている。
馬車の中。
向かい合って座るアメリアは、窓の外を楽しそうに眺めていた。
「ほら、アレク。あの露店、冬限定の飾りだよ。
去年もあったけど、今年は少しだけデザインが違う気がする」
「そうか」
そう返しながら、視線を向けるふりをして、
実際にはアメリアの横顔ばかり追いかけてしまう。
(……縁談)
思い出したくない会話が頭をよぎる。
“アメリアには、いずれ多くの縁談が来るだろう”
“最終的に選ぶのはアメリア”
その言葉は“呪い”みたいに胸に残っている。
(アメリアが誰かを選ぶ。
俺じゃない誰かを)
馬車が少し揺れた。
思考が逸れないように、
何気なく横に座るアメリアの肩へ手を伸ばしかけ――
寸前で引っ込める。
その瞬間、アメリアが小さく身体をすくませた。
「……ごめん。揺れたから、支えようとしただけだ」
自分で言って、少しだけ声が硬くなったのが分かる。
アメリアは慌てて首を振った。
「う、ううん! 私こそ……ちょっとびっくりしちゃっただけで!」
言葉は軽い。
でも、その“びくっとした動き”が、
必要以上に胸に刺さる。
(……やっぱり、少しは距離を取りたいんだろうか)
嫌われたくない。
怖がられたくない。
だからこそ、
自分から踏み込みすぎないようにしていたつもりなのに――
それすらも裏目に出ている気がして、
アレックスは奥歯を噛んだ。
「アレク、学園に戻ったらね。
また一緒に図書室、行ってくれる?」
「……ああ。もちろんだ」
その願いが、
いつか“当たり前ではなくなる”日が来るのだとしたら。
(その時、俺はどうするんだろうな)
答えは出ない。
出ないまま、馬車は学園へと近づいていった。




