二人の世界に生まれたすれ違い
アレックスが屋敷に来て二週間ほど経ったころ。
まだ緊張が残っているものの、
声は前より少し明るくなり、
表情にも柔らかさが増えてきた。
その日の午後、
アメリアは客間の絨毯の上でアレックスと積み木遊びをしていた。
「ほら、ここに置いたら塔が高くなるよ!」
アメリアが勢いよく積み木を乗せようとすると、
アレックスは静かに首を振る。
「……そこじゃ、崩れる。
こっちのほうが……いいと思う。」
「え、そうかな?」
「うん。たぶん……」
アレックスが慎重に積み木を置くと──
塔はぐらりと揺れ、
ぱたん、と倒れた。
アメリアは目を丸くし、
アレックスは固まった。
「……ごめん……」
肩がしゅんと落ちている。
アメリアは慌てて頭を振った。
「アレックスのせいじゃないよ!
塔が気まぐれなだけ!」
「……塔が……気まぐれ?」
「そう!もう一回作ればいいの!」
アレックスはぽかんとしたあと、
ほんの少しだけ微笑んだ。
けれど──
再び積み始めた時、
今度はアメリアが勢いよく積み木を置いてしまい、
どさっ。
また崩れた。
アレックスはびくりと肩を揺らし、
ぽつりとつぶやく。
「……アメリア……雑……」
「えっ!?雑じゃないよ!」
「……雑、だよ。」
「雑じゃないもん!」
「……ある、と思う。」
「ない!!」
短い言い合い。
でも、お互いたいして怒っているわけではない。
だが、初めての“意見の衝突”は
二人を一瞬だけ黙らせた。
アメリアは積み木をつつきながら、
ちらちらとアレックスを見た。
(どうしよう……ケンカしちゃった……)
アレックスは俯いたまま、
指で積み木を小さく転がしている。
静かな空気。
その中で、アレックスが小さな声で言った。
「……嫌われたくない……」
アメリアは一瞬で顔を上げた。
「嫌うわけないよ!!
アレックス、大好きだよ!!家族だもん!!」
アレックスの肩が小さく震え、
ゆっくりと顔を上げた瞳は
すこしだけ潤んでいるように見えた。
「……アメリア……ごめん。」
「私こそ……ごめんね。」
ふたりはそっと向かい合い、
自然と同じタイミングで笑った。
積み木はまた倒れたままだけれど、
その光景は妙にあたたかかった。
こうしてふたりは、
幼いながら“ケンカして仲直り”を経験した。




