冬休みの終わりと、少しの違和感
目を覚ましたとき、窓の外はまだ薄く白んでいた。
公爵邸の冬の朝は、魔術学園の寮よりもすこしだけ空気がやわらかい。
暖炉の熱が壁にまで染み込んでいるからだろう。
(……そろそろ、学園に戻る準備もしないと)
枕元に置いていた懐中時計を手に取りながら、私は小さく伸びをした。
この冬休みは、楽しくて、くすぐったくて、そして少しだけ胸が痛かった。
アレクの様子が、ほんの少しだけ“いつもと違っていた”から。
朝食の席に向かうと、すでにアレックスはテーブルについていた。
銀髪を低くまとめ、きちんとした姿勢でナイフとフォークを持っている。
「おはよう、アレク」
声をかけると、アレックスは顔を上げた。
「……おはよう、アメリア」
言葉としては何もおかしくない。
ただ、ほんの一瞬――
視線が私を素通りして、どこか遠くを見た気がした。
気のせいかもしれない。
でも胸の奥が少しだけひゅっとなる。
「冬休み、あっという間だったね。
学園に戻ったら、また宿題増えそう」
「……そうだな」
短く返される相槌。
彼らしくないわけじゃないけれど、
一緒に暮らしてきた年月のせいか、
そのわずかな温度差にどうしても敏感になってしまう。
(やっぱり……少し、変だよね)
両親は、相変わらず私たちを甘やかしてくれる。
「アレックス、よく食べているかい? 学園の食事は口に合ってる?」
「アメリア、またちょっと綺麗になったんじゃない? 学園パワーかしら~?」
賑やかな会話の中で、
私はちらりとアレックスの横顔を盗み見た。
きちんと微笑んでいる。
礼儀正しく返事もしている。
それでも――
笑みの奥に、何か固いものが沈んでいるように見えた。
「アレク?」
つい呼びかけると、アレックスはすぐにこちらを向いた。
「なんだ?」
「……ううん。なんでもないよ」
問いただす勇気が出なくて、
私は焼き立てのパンに視線を落とした。
(学園に戻ったら……ノエラに相談してみようかな)
胸の奥に芽生えた小さな不安を、
うまく言葉にできないまま飲み込んだ。




