母と紅茶と、こぼれる恋バナ
夕食後、暖炉のあるサロンに呼ばれると、
母マリアが紅茶を二つ用意して待っていた。
「アメリア、ちょうどいいところに来たわ。
ほら、一緒に飲みましょう?」
その笑顔に吸い寄せられるように席に着くと、
母はすぐに身を乗り出してきた。
「で? 学園生活はどうなの?
好きな子はできた?
気になる男の子は?
アレックスと仲良くやってるんでしょう?」
矢継ぎ早の質問に、アメリアは思わず吹き出す。
「お、お母様、ちょっと待って……!
そんなに一度に言われても答えられないよ!」
「だって気になるじゃない!
あなた、可愛いんだから。
学園でモテてるって噂も聞いたのよ?」
紅茶を飲む手が止まる。
「それは……知らないよ。
ただ、アレクと一緒にいる時間が多いからかな。」
「まあまあまあ! やっぱりアレックスなのね!」
「違うってば!
アレクはその……特別だけど……
でも“そういう意味”じゃなくて!」
母はにっこにこで、
娘の恋バナに飢えていたかのように身を乗り出してくる。
「でも、アメリア。
あなたが誰を好きになっても、
お母様は全力で応援するからね。
もちろんアレックスでも? ふふふ。」
「も、もう! お母様!」
顔が熱くて紅茶が飲めない。
「じゃあ、アメリアは誰が好きなの?」
「……ひみつ。」
「うふふ、いいわねぇ。
その“ひみつ”が一番楽しい時期なのよ。」
母の柔らかな声と、甘い紅茶。
冬の夜は驚くほど温かくて、
アメリアは胸の奥がふわりとほどけていくのを感じていた。
(アレク……どう思ってるのかなぁ……)
そんな小さな疑問だけが、
ほんのり甘く胸に残った。




