待つだけの時間が、こんなにも長いなんて
アレックス視点
アメリアが執事に呼ばれて書斎へ向かっていったあと、
アレックスはしばらくその場に立ち尽くしていた。
(……アメリアを呼ぶなんて、珍しい。)
もちろん、師として、親として、
たまに話があることは知っている。
けれど今日の呼び出しはどこか違った。
理由も内容も告げられず、
ただ「書斎へ」とだけ伝えられたのだ。
それだけのことなのに、
胸の奥で落ち着かないものが動き続けていた。
アレックスは廊下沿いの大きな窓へ歩き、
外の冬空を眺めた。
息をすると、
冷えた空気が胸の奥に沈む。
(……アメリア、大丈夫だよな。)
何が心配なのか、自分でもわからない。
父カインに呼ばれたからといって、
危険があるわけではない。
むしろ誰より信頼できる人物だ。
それでも胸がざわつくのは──
アメリアが自分の知らない場所で、
自分の知らない話をしているからだ。
(……“知らない”のが嫌なんだ。)
その感情に気づいた瞬間、
自分の中で何かがひどく静かに沈んだ。
しばらくして、
書斎の扉が開く音が遠くに響いた。
アレックスは思わず振り向いた。
アメリアが出てくる。
父と何か話した後らしく、
少しだけ考えこむような顔をしていた。
だが、アレックスを見るとふわっと微笑む。
「アレク。待っててくれたの?」
胸のざわつきが一瞬で熱に変わる。
「……別に。
散歩の続きをするなら付き合おうと思っただけだ。」
そっけなく返したが、
アメリアは疑いもせず素直に頷く。
「うん。行こう。」
その笑顔を見た瞬間、
さっきまでの不安がどこへ消えたのかと思うほど、
胸の奥が軽くなった。
(……こんなに簡単に、俺の気分は変わるのか。)
父と何を話したのか聞きたい。
でも訊いてしまえば、
“知らなかったこと”がもっと増えそうで怖い。
だからただ並んで歩いた。
アメリアが話しかけてくれるたび、
アレックスの胸の奥は静かにほどけていく。
(……アメリアが笑ってくれれば、それでいい。)
そう思ってしまう自分が、
時々とても危うく感じる。




