冬庭で揺れる影
アレックス視点
朝食を終えると、
アメリアは嬉しそうにマントを羽織りながら言った。
「アレク、庭に行こ!」
その声を聞くだけで、
胸の奥が温かくなる。
「……ああ。行こう。」
冬の庭園は一面に薄い雪が積もり、
光を受けて静かにきらめいていた。
凍った噴水の周りには、
白薔薇の枝が冬支度のまま眠っている。
アメリアは雪を踏む小さな音を楽しむように
とことこと歩き、
時折振り返って笑う。
(……そんな顔をするなよ。)
綺麗だと思う。
ずっと見ていたくなる。
けれど口には出せない。
アメリアが枝にそっと触れ、
吐く息が白く揺れる。
その指先が触れた場所を、
アレックスは無意識に目で追っていた。
気づけば視線はアメリアばかりを辿ってしまう。
黒髪が風に揺れる。
朱い瞳が雪に反射してほんのり輝く。
(……どうしてこんなに、目が離せないんだ。)
アメリアが笑うと、胸が軽くなる。
アメリアが他の男と話すと胸が重くなる。
その理由を、最近ようやく認めざるを得なくなってきた。
アメリアが気づかず雪を踏む音だけが、
庭にふたりのリズムを刻む。
「ねぇアレク、休暇中はのんびりしようね。
私、あなたとたくさん一緒に過ごしたいな。」
その言葉に、
アレックスは反射的に顔をそらす。
(……なんで、そんな……
何でもないことみたいに言うんだよ。)
胸が痛い。
けれど痛いのに温かい。
言葉にならない。
アメリアは不思議そうに首をかしげる。
「アレク、寒い? 手、冷たい?」
「……大丈夫だ。」
アメリアが少し近づくと、
心臓がまた落ち着きを失う。
ふたりの影が雪に寄り添うように伸びる。
その景色が、妙に綺麗で息が止まる。
(……ずっと、このままがいい。)
そう思った瞬間──
視線の先で、館の侍女が書簡の束を抱えて
書斎の方へ消えていくのが見えた。
何げない光景のはずなのに、
胸の奥に小さなざわめきが走る。
理由はわからない。
ただ、嫌な予感だけが
静かに雪の中へ落ちていった。




