“家の温かさ”と
玄関で迎えられた声の温かさが、
まだ胸の奥に残っていた。
「お嬢様、アレックス様、おかえりなさいませ。」
侍女も執事も笑っていた。
まるで自分もこの家族の一員として
本当に“帰り”を喜んでくれているかのように。
(……ここは、あたたかい。)
幼い頃、この家に来たばかりの頃は
胸の奥に冷たい空気しかなかったのに。
今は違う。
自然と視線がアメリアを追う。
母マリアに抱きしめられて笑っているアメリア。
その横顔は、昔と変わらず柔らかくて、
けれど学園で過ごした時間が
彼女をさらに美しくしていた。
(アメリア……きれいになったな。)
口には出せないけれど、
見惚れそうになる瞬間が増えた。
父カインに声をかけられて、
アレックスは軽く頭を下げた。
「……お世話になります。」
声が少し低く響いて、
アメリアがちらっとこちらを見た。
その一瞬に胸がざわつく。
(なんで……あんな顔で見るんだよ。)
嬉しくて、苦しい。
アメリアは“家族”として迎え入れてくれて、
何年も変わらず優しい。
距離は近くて、
けれど越えてはいけない線がひとつ、
ぼんやりとある気がして。
越えようとすると、
自分のほうが怖くなる。
侍女が荷物を運び、
アメリアは明るい声で笑った。
「アレク、あした庭を散歩しようよ。
冬の庭園もきれいだよ。」
その言葉だけで胸が熱くなる。
(……そんなふうに誘われたら……
期待するだろ。)
アメリアと歩くだけなのに、
自分はどうしてこんなに心臓が騒ぐんだ。
廊下を並んで歩きながら、
そっと横目で見た。
黒髪が揺れる。
朱い瞳が灯りを映している。
ずっと近くにいるのに、
触れたら壊れてしまいそうなほど綺麗だ。
アメリアはいつもの調子で
「冬の帰省って好きなんだ。
ねぇ、今年も一緒に過ごせるの嬉しいね」と笑った。
アレックスは喉が少しだけ辛くなる。
(……俺は、その何倍も嬉しいんだけどな。)
けれど言葉にすれば、
この気持ちはきっと形を変えてしまう。
だからただ、短く返した。
「……ああ。嬉しいよ。」
アメリアはそれだけで満足そうに笑う。
──この瞬間が続けばいい、と
心のどこかで願いながら。




