あたたかい灯りと「おかえりなさい」の声
馬車の揺れが止まり、扉が開くと、
冬の空気よりも先に──
懐かしい温度が胸に広がった。
アルバローザ公爵家の玄関に灯る明かりは、
いつ見てもあたたかい。
「お嬢様、アレックス様──おかえりなさいませ!」
執事ロイドの落ち着いた声から始まり、
続けて侍女たちがぱっと花が咲いたように微笑む。
「おかえりなさいませ!」
「今年もお疲れさまでした、アメリア様。」
「アレックス様も、お変わりなく安心いたしました。」
その光景だけで胸がほどけていく。
アレックスは少し照れたように
小さく会釈を返している。
その姿を見て、アメリアの口元も自然にゆるんだ。
玄関ホールへ足を踏み入れると、
ふわりと温められた空気が頬を包む。
大理石の床は磨きこまれ、
天井のシャンデリアが冬の光を受けて静かに輝いていた。
そこへ──
待ちきれなかったように両親が姿を見せる。
「アメリア!」
「よく帰ってきたな。」
母マリアが真っ先に駆け寄り、
ぎゅっと抱きしめてくれる。
その後ろで父カインが、柔らかく目尻を下げていた。
「ただいま、パパ、ママ。
寮生活も楽しかったけど……
やっぱり家に帰ってくると落ち着くね。」
「ふふ、あなたが帰ってきてくれるだけで家がぱっと明るくなるのよ。」
アレックスにも父は微笑みかける。
「アレックスも、よく戻った。
ゆっくり休んでいくといい。」
アレックスは姿勢を正し、
「……お世話になります」と静かに頭を下げた。
少し照れた声の低さが、アメリアの胸をくすぐる。
侍女が荷物を受け取り、
「暖炉のあるお部屋をご用意しております」と案内してくれる。
屋敷全体が、
二人の帰りを心から喜んでいる──
そんなあたたかさで満ちていた。
(あぁ……帰ってきたんだなぁ……)
明日は家族でゆっくり食事をして、
庭を散歩して、
アレクともたくさん話そう。
アメリアは胸の奥がじんわりとあたたまるのを感じながら、
柔らかく微笑んだ。
(寮も楽しかったけど……
やっぱり、この家が一番好き。)
その想いを噛みしめながら、
アメリアは石造りの廊下を歩き始めた。




