素直すぎる言葉と、逸らされた横顔
翌日、魔術学園は一気に慌ただしくなった。
アレックスはアメリアの部屋の前で軽くノックする。
「アメリア、荷物……俺が持つ。」
扉が開き、
アメリアが少し照れた笑顔で迎えてくれる。
「ありがとう、アレク。
じゃあ、これお願い。」
渡された鞄は思ったより軽い。
だがアレックスは淡々と肩に掛ける。
アメリアの隣に立つと、
彼女は外套を羽織りながら小さく息をついた。
「なんだか、帰省って久しぶりな気分だね。」
「……そうだな。」
アレックスの視線は自然とアメリアへ向く。
黒髪が外套の襟にふわりとかかり、
朱の瞳が冬の光を受けてやわらかく輝いている。
すぐ近くに立つだけで胸が妙にざわつく。
アメリアは鞄を整えながら、
ふとアレックスの方へ向き直った。
そして、何気ない声で──
「ありがとう。
アレク、大好き!」
世界が、一瞬だけ止まった。
心臓が、強く跳ねる。
アレックスは咄嗟に横を向いた。
(……な、なんで……
そんなことを……普通に言えるんだよ……)
顔が熱い。
耳まで熱い。
視線を戻せない。
アメリアは首を傾げている。
「どうしたの?」
「……別に。」
声が少し低くなる。
誤魔化すためでもあり、
感情を隠すためでもあった。
(アメリア……
“好き”の意味分かって言ってるのか……?)
胸の奥が落ち着かない。
でも、嫌じゃない。
むしろ……嬉しすぎて苦しい。
アメリアは無邪気に笑う。
「じゃあ、馬車まで行こ。
楽しみだね!」
アレックスは小さく息を吸い、
鞄を持ち直して歩き出す。
(……アメリアの“大好き”は……
何度きいても……慣れない。)
でもその言葉は、
胸の奥深くでじんわりと温度を持ち続ける。
アメリアの声は、
冬の冷たい空気の中でも
確かに“温かかった”。
それが、今のアレックスには
何よりも大切だった。




