冬の光と、こぼれた言葉の温度
今年最後の授業が終わった午後。
魔術学園の廊下は、年末の解放感でいつもより明るかった。
アメリアは教科書を抱えたまま、
ちらりと隣を歩くアレックスを見上げる。
私は15歳、アレックスは14歳になった。
いつの間にか、背は自分より頭一つ分ほど高い。
声変わりも終わり、低い声が胸に届くたび、
どきりとすることも増えた。
柔らかく揺れる銀髪は、金のリボンで後ろに結ばれている。
歩くたびに光を拾い、
まるで風そのものを連れて歩くみたいだった。
(…推しの姿が…眩しい…)
影の訓練で鍛えた身体はしなやかで、
制服越しでも成長が分かる。
女子の視線が集まるのも無理はない。
実際、アレックスは 何度も告白されていた。
アメリアはその場面を数回ほど偶然目撃している。
「……帰省の準備、終わってるか?」
低い声が、すぐ横から落ちてくる。
アメリアは軽く頷いた。
「うん。
あとはパパとママへのお土産を詰めたら終わりだよ。」
「そっか。重いなら持つから言えよ。」
その自然な優しさに胸があたたかくなる。
ちょうど階段に差しかかった時だった。
「アレックス君。あの……帰省する前に、少し話があるの。」
他クラスの女生徒が、
ぎゅっと手を握りしめながらアレックスの前に立った。
アメリアは一歩下がって、静かに様子を見る。
(……告白だろうな。)
アレックスは短く「わかった」と頷き、廊下の隅へ移動した。
アメリアは窓側で待ちながら
(また断るのかな……)と思っていたが──
女生徒が泣きながら走り去っていくのが見えた。
アレックスが戻ってきて、
アメリアの前に立つ。
「……また泣かせた。」
アメリアが少しだけ苦笑すると、
アレックスは静かに言った。
「アメリアを泣かせる気はないからな。」
胸が、跳ねた。
一瞬、呼吸を忘れた。
(……っ!)
言葉にできない甘さが胸に満ちる。
この数年間、
倉庫事件、学園祭、ハロウィン、山岳合宿──
他愛もない出来事の中で、
距離が近づいていくたび、
胸の奥が甘く締めつけられる瞬間が増えていった。
でも、どれも決定的な一歩にはならない。
幼い頃から一緒にいる家族で、
そしてずっと隣にいる“推し”で、
それ以上とも、それ以下とも言えない距離感。
だからこそ──
時々、アレックスの言葉は胸をくすぐる。
“ずるい”なんて言いたくなるくらいに。
アレックスは何も気づかない顔で言う。
「……帰省の前に、荷物持ち手伝う。」
「うん。ありがとう、アレク。」
名前を呼ぶと、アレックスの耳がわずかに赤くなる。
その小さな変化が、
アメリアにはとても愛おしかった。




