胸に残った“嫌だ”が静かに広がる
寮に戻ったあとも、
アレックスの声が耳から離れなかった。
──「嫌だ。」
そのたったひと言が、
どうしてこんなに胸に残るんだろう。
ベッドに腰を下ろし、
制服のリボンをほどきながら深呼吸してみる。
(落ち着こう……落ち着きたいのに……)
胸の中心だけ、ぽうっと熱い。
アメリアは机の上に置いたノートを開いてみたが、
文字がまるで模様に見えてしまう。
(……勉強会の誘いに、アレクは……
“負担をかけたくない”って言ってた。
それはたぶん本当。
でも……それだけじゃない顔だったよね……)
あの時のアレックスの表情。
静かで、でもどこか強い。
怒っていたわけではない。
ただ──
自分を誰かに渡したくないような、
そんな色が一瞬混じっていた。
(アレク……どう思ってたんだろう)
胸がまた跳ねる。
アメリアはベッドに倒れ込んで、
枕をぎゅっと抱いた。
(勉強会くらい……好きにしたらいいって言われると思ってたのに……
“嫌だ”って……なんで?)
自分の心がざわめく理由も分からない。
アレックスに反対されて悲しいわけでも、
腹が立つわけでもない。
むしろ──
嬉しかった。
(だめだめ、そんなふうに思うの変だよ……!)
顔が熱くなる。
アレックスの声の響きが、
甘い魔法みたいに何度も胸を叩いてくる。
──今日も、隣にいろ。
(……そんなの……)
ずるい。
だってそんなふうに言われたら、
胸が勝手に高鳴る。
アメリアは枕に頬を埋め、
小さな声で名前をこぼした。
「……アレク……」
その響きが静かな部屋に溶けていく。
でも、その名前を呼ぶだけで
胸がじんわり温かくなる。
(アレク……私……)
アレックスのひと言だけで、
アメリアの世界は大きく揺れてしまう。
そしてその揺れは
静かな夜の中でゆっくり大きくなっていった。




