胸のざわめきの正体
アレックス視点
教室を出てからずっと、
胸の奥が静かにざわついていた。
アメリアが勉強に困っている同級生に、
やわらかい声で教えていた場面。
その輪の中心で微笑んでいたアメリアの姿。
(……嫌だった。)
自分でも驚くほど、はっきりと思う。
理由は分からない。
けれど、胸の奥に針のような痛みが走った瞬間は
はっきり覚えている。
寮へ向かう廊下を歩きながら、
アレックスは胸に手を当てた。
(どうして……あんな気持ちになったんだ?)
アメリアが誰かに優しくするのはいつものことだ。
自分にも、よく笑ってくれる。
それなのに──
あの男子へ向けられた微笑みを見た時、
胸の奥がきゅっと縮まった。
(アメリアの“ありがとう”は……
本当は俺だけに向けてほしい……)
口に出した瞬間、
アレックスは立ち止まった。
(……今、俺……何を考えた?)
風が廊下を抜け、制服の裾を揺らす。
その冷たさで、ほんの少しだけ頭が冷える。
でも、胸のざわめきは消えない。
(アメリアが誰かに笑うと……
嫌なんだ。
落ち着かなくなる……)
他の誰かと楽しそうに話すアメリア。
誰かに頼られて嬉しそうなアメリア。
その全部が、
胸に引っかかる。
(……俺は……どうしてこんな気持ちになる?
分からない……でも……)
アメリアが困っていたら、自分が助けたい。
アメリアが笑っていたら、自分が一番近くで見たい。
それを誰かに取られるような気がして、
胸がうずく。
(アメリアの隣は……俺がいい。)
思った瞬間、耳の奥が熱くなる。
そんなこと、一度も考えたことがなかった。
でも、いま胸からこぼれそうなこの感情は──
“嫉妬”という言葉に限りなく近い。
「……俺は……どうして……」
寮の扉に手をかけながら、
アレックスは静かに息を吐いた。
胸のざわめきはまだ止まらない。
けれど、ひとつだけ確かなことがある。
(アメリアが……誰かに取られるのが嫌なんだ。)
気づいた途端、
胸の奥で何かがゆっくり形を持ちはじめた。




