胸に残ったひと言の意味
アレックスと並んで歩きながら、
アメリアは先ほどの言葉を何度も胸の中で反芻していた。
『今日も、隣にいろ。』
(……アレクって、たまに……すごく、突然だよね……)
言い方はいつも通り静かで、
強くも弱くもない声。
でもその一言だけで、
胸の奥がふわっと温かくなってしまった。
(隣に……いてほしいって……
どういう意味なんだろう……)
アメリアはそっとアレックスを見る。
彼は前を向いたまま歩いている。
横顔は穏やかで、
朝の光を受けて銀の髪がやわらかく揺れた。
(アレクはただ……心配してくれてるだけ。
深い意味なんてないよね……)
そう自分に言い聞かせるのに、
胸の鼓動が落ち着かない。
さっきの言葉を思い出すたび、
胸の真ん中がじんわり熱くなる。
(アレクの隣にいるよって言ったけど…)
自分の言葉を思い返して、
頬がほんのり熱を帯びた。
すると、アレックスが気づいたのか
ちら、と視線を向けてくる。
「……どうした?」
アメリアは慌てて首を振った。
「な、なんでもないよ!」
(なんでもあるけど……
でも言えない……!)
アレックスはしばらくアメリアを見て、
安心したように前へ視線を戻した。
ただそれだけの仕草なのに、
また胸が跳ねる。
(やだ……
なんでこんなにアレクのことで……
ドキドキしてるの……)
湖畔での落水、
玄関で抱き寄せられた一瞬、
靴紐を結ばれた時の距離。
ひとつひとつが胸に残っていて、
どれも「推し」だけでは説明がつかない。
(私……アレクに……どうしたいんだろう……)
自分の胸の奥で生まれはじめている感情に、
アメリアはまだ名前をつけられない。
でも、
アレックスが言ったひと言だけは
ずっと心から離れなかった。
──今日も、隣にいろ。
(アレクが望むなら……
私は……隣にいたいよ。)
そんな思いをひっそり抱いて、
アメリアは歩みをそっとアレックスの歩幅に合わせた。
二人の影が、
朝の光の中で自然に重なる。




