朝の廊下に差す光と、静かに寄り添う気配
翌朝の寮は、
昨日の騒ぎが嘘のように静かだった。
アメリアは身支度を整えながら、
胸の奥に残る昨日の温度を思い返す。
(……アレク……
今日も…普段通りで…会えるよね)
自分で自分に問いかけた言葉に、頬が少し熱くなる。
廊下に出ると、
朝の光が淡く差し込み、
影が長く伸びて揺れていた。
そして──
「……アメリア、おはよう。」
いつもの位置に、アレックスがいた。
銀髪が光に触れ、
静かにきらめいている。
アメリアの胸がふわっと温かくなる。
「おはよう、アレク。」
今日は目をそらさないように、
まっすぐ言ってみた。
アレックスは一瞬だけ目を丸くして、
ほんの小さく息を吸った。
「……よかった。
今日は……いつも通りだな。」
(いつも通り──
そう思ってくれてるんだ……)
アメリアは胸がほどけるような気がした。
歩き出すと、
アレックスはいつもより半歩だけ近い。
気づいていないふりをして、
アメリアも少しだけ歩幅を合わせる。
階段へ向かう途中、
アメリアの靴紐がゆるんでいるのに気づいたアレックスが言った。
「アメリア、紐が……」
「あ、ほんとだ……ごめん、ちょっと──」
しゃがもうとした瞬間、
アレックスがそっと腕を伸ばして止めた。
「……俺がやる。」
アメリアは驚いて瞬きをする。
「え……いいよ、自分でできるよ?」
「……いい。
こういうのは……俺がやりたい。」
それ以外の理由は言わない。
けれど、手の動きは丁寧で、
結び目はきゅっと綺麗に締められた。
アメリアの胸がまた跳ねる。
(アレク……
なんで……こんなに優しいんだろう……)
立ち上がったアレックスは、
気まずそうに視線を外した。
「……昨日、危ないことが続いたから。
少し……気をつけてほしいだけだ。」
アメリアは思わず微笑んだ。
「うん。ありがとう、アレク。」
その笑顔に、
アレックスの肩が少しだけ緩むのが分かった。
アメリアは隣を歩くアレックスの横顔を
静かに見つめた。
昨日までの寂しさが嘘のように、
胸がじんわり温かい。
(アレク……
私、やっぱり……)
言葉にならない想いが
胸の奥で静かに灯り続けた。




