夜の静けさと、胸に灯る小さな熱
寮に戻って、部屋の扉を閉めた瞬間。
アメリアはベッドへぽふんと倒れ込んだ。
(……今日も、一日いろんなことあったな……)
天井を見つめながらゆっくり息をつく。
胸の奥がじんわり温かい。
まず思い浮かぶのは──
湖畔で差し伸べられたアレックスの手。
(あれ……ほんとに一瞬だった……
落ちたと思ったら、もうアレクが来てて……
すっごく早かった……)
怖さより先に、
安心が胸を満たしたことを思い出す。
そして、寮の玄関での出来事。
(また……助けてくれた……)
箱が倒れそうになった時の、
アレックスの迷いのない腕。
抱き寄せられた瞬間、
周りの音が全部消えたように感じた。
アメリアは胸の上に手を置き、
その時の温度を思い返す。
(……あったかかった……
アレクの手、すごく優しかった……)
顔が熱くなってくる。
(な、なんで……?
推しだから……?
推しだからドキドキするだけ……?
いつもの“尊い”ってやつ……だよね?)
でも、今日のドキドキは
いつもより深くて、
ちょっとだけ苦しい。
(もし……もしアレクに嫌われたら……
そんなの絶対イヤ……)
胸がきゅっと縮む。
(あれ……
これ……なんだろ……
“推し”ってだけで、こんなふうになる……?)
両手で枕をぎゅっと抱きしめた。
(アレク……
今日、私のこと……守ってくれた……
いっぱい……)
思い返すたびに、
胸の奥がぽっと小さく光る。
(アレクがそばにいると……ドキドキする……
なんでだろ……)
自分が発した“好き”という言葉の重みも
今になってずしっとくる。
(……大好きって……
私、当たり前みたいに言ったけど……
本当に、アレクのこと……大好きなんだと思う……
推しとして……たぶん……)
そう自分に言い聞かせて、
もう一度深呼吸する。
窓の外には、
明かりの消えかけた学園の塔が見えていた。
明日はどんな日になるんだろう。
アメリアは胸に手を当てたまま、
そっと目を閉じた。
(アレク……
明日も……隣にいたいな……)
その願いを包むように、
夜が静かに降りていった。




