眠れない夜に触れたぬくもり
その日の午後。
アメリアは廊下で侍女のレナから、アレックスが屋敷に馴染めているか心配されていた。
「アレックス様、まだ夜は少し眠れないご様子でした。」
「……眠れない?」
「ええ。音に敏感なのか、何度か目を覚ましていらっしゃるようでしたわ。」
アメリアは胸がきゅっとした。
(そりゃそうだよね……急に環境が変わったんだもん……)
アメリアは自分の部屋に戻り、
窓の外に広がる庭を見下ろした。
午後の光が雪を照らし、
その奥で白薔薇の低い影がほんの少し揺れた。
(私にできること、何かないかな……)
そう考えていると、ノックの音。
扉を開けるとアレックスが立っていた。
手を胸の前でぎゅっと握りしめている。
「……アメリア、ここにいてもいい?」
アメリアは顔をほころばせた。
「もちろん!」
二人は床に座り、絨毯の上に積み木を広げる。
暖炉の火が赤く揺れ、ふたりの影を壁に映した。
しばらく遊んでいると、アレックスがぽつりと言う。
「……ここだと、落ち着く。」
「どうして?」
「アメリアがいるから……かな。」
胸の奥で温かいものがふわっと膨らんだ。
「アレックス、眠れなかったんでしょ?」
アレックスは驚いたように少し目を丸くした。
「……ど、どうして……?」
「顔がちょっと眠そうだったから。」
アメリアはそう誤魔化した。
本当は侍女から聞いたなんて言えない。
アレックスは俯きながらつぶやく。
「……知らない部屋だと、ちょっと怖い。」
「うん。私もそうだよ。
でも、慣れたらすぐ平気になるよ。
その間は、私が隣にいるから。」
「……ほんとに?」
「うん!」
アレックスは胸の前で握っていた手を、少しゆるめた。
その指が、積み木の角をそっと触れる。
「……ありがとう。」
たった一言が、
言葉以上にまっすぐで、温かかった。
外では風が吹き、
白薔薇の影が小さく震えた。
あくまでさり気なく、
ふたりの距離が縮まるのに寄り添うように。




