言いかけた本音と、届かなかった一言
寮へ向かう小道は、
夕暮れの光で金色に染まっていた。
アメリアとアレックスは並んで歩く。
さっきより自然な距離。
でもまだ、どこかぎこちない。
アメリアは胸の奥に残ったもやを
どうにか言葉にしようと、
そっと口を開いた。
「ねぇ、アレク……今日、なんか──」
アレックスがはっと振り返る。
「アメリア、俺も……話がある。」
二人の声が重なった。
一瞬の沈黙。
風が木々を揺らす音だけが聞こえる。
アメリアは小さく笑って言った。
「じゃあ……アレクから。」
アレックスは喉の奥で息を整えた。
昼間ずっと抱えてきた不安が、
言葉に変わろうとしている。
「今日……アメリア、
なんか俺を避けてた……気がして……」
アメリアの目が丸くなる。
(避けてた!?私が!?)
アレックスは続けた。
「もし……俺が何かしたなら……
嫌だったなら……
ちゃんと謝りたくて……」
言葉はゆっくり、
慎重で、
どこか怖がっているようで。
アメリアは胸がぎゅっと締めつけられた。
(そんな……逆だよ……
私は……アレクが遠く感じて……)
アメリアも口を開く。
「アレクこそ……今日ずっと冷たくて……
なんか……避けられてるのかなって……
ちょっと……寂しくて……」
アレックスの目が驚きで揺れた。
「俺が……?
避けるわけないだろ……
アメリアのこと……」
そこで、言葉が止まった。
喉まで出かかった本音を、
アレックスは慌てて飲み込む。
(今……伝えるか?
やっぱり…まだ……)
アメリアは一歩近づいて小さくつぶやいた。
「なら、よかった……」
ほんの一瞬だけ、
二人の手が触れそうになる。
アレックスの心臓が跳ねた。
(……触れたい……
でも……こんなことしたら……
きっとアメリアを困らせる)
指先だけが、
さり気なくアメリアの方へ傾いた。
アメリアも、
自分でも気づかないまま
その距離へ寄っていく。
ほんの数センチ。
言葉より近い距離。
その時──
「アメリア様ーっ!
アレックス様!待ってくださいー!」
ノエラが駆け寄ってきた。
ふたりは驚いてぱっと手を引っ込めた。
ノエラは息を切らしながら頭を下げる。
「ご、ごめんなさい!
寮母様から集合の連絡が……!」
アレックスは小さく息を吐いた。
(……今だったのに……)
アメリアも胸がざわついていた。
(あと少しで……なんか……
すごく大事なことを言いそうだった……?)
すれ違いが解ける
ほんの寸前。
でもまだ、言葉にはならない。
夕暮れの光が
ふたりの影をもう一度並べる。
次こそは──




