なんでだろう、アレクが少し遠い
午前の座学。
教室の窓から柔らかい日差しが差し込み、
魔法式が書かれた光パネルが静かに明滅している。
アメリアはノートを取りながら、
ちら、とアレックスの方を見た。
アレックスは真面目に授業を聞いている。
いつも通りの姿勢。
いつも通りの横顔。
……なのに。
(……アレク、今日……なんか冷たい?)
いや、冷たいというより──
距離を取られているように感じる。
気のせいだよね、と思って
授業の途中に小さく声をかけてみた。
「アレク、ここの式って──」
アレックスは一瞬アメリアを見たけれど、
すぐ視線を資料に戻した。
「……あとで教える。」
短い。
本当に短い。
(え……え……?
アレクって、こんな感じだっけ……?)
胸がふっと沈む。
昨日まであんなに優しかったのに。
湖で守ってくれたのに。
寮でもあんなに心配してくれたのに。
(推し……推しが……
推しが冷たい……寂しい……)
自分でもびっくりするくらい、
胸の奥がきゅうっと痛む。
ノエラは後方の席から
アメリアの様子を静かに見ていた。
(……あー……アメリア様も気づいてない……
“これ、立派な両片思いの匂いなんですが”……
でも任務中なので黙るしかないのが歯痒いです!)
アメリアは小さく深呼吸して
気持ちを落ち着けようとした。
(そうだよ、アレクは昔からこういう時あるし……
訓練とか、いろんなことで悩んでるのかも……
それに、私が勝手にドキドキしてただけだし……
なーんにも変じゃない、変じゃない……)
そう思おうとするほど、
胸のざわめきは逆に大きくなる。
休み時間。
クラスメイトたちが楽しそうに談笑する中、
アメリアは机に頬杖をついた。
(アレク……なんか話してくれないかな……
昨日みたいに笑ってくれたら、
それだけで……私は嬉しいのに……)
“推し”だからドキドキしただけ。
そう何度も言い聞かせるのに。
(なんで……こんなに寂しいんだろ……)
昨日抱きしめられた感覚が
ふわっと思い出される。
胸がさらに熱くなる。
(……これ……推しだから、だよね……?)
アメリアは自分の頬を軽く叩いた。
(落ち着け!
推しは推し!
沼に落ちるとか、そういうんじゃ……ない!
たぶん……)
でも気づいていた。
心のどこかで。
アレックスが離れた距離にいるだけで
こんなにも世界が曇って見えるなんて。
(アレクが……離れちゃやだな……)
ぽつりと漏れた言葉は、
自分でも気づかないほど小さかった。




