少し遠い気がして、胸がざわつく
アレックス視点
朝の廊下を並んで歩きながら、
アレックスは違和感を覚えていた。
アメリアはいつも通り笑っている。
声も明るい。
歩き方も軽い。
……なのに。
(なんか……少しだけ……
アメリアが俺を避けてるような……?)
ほんの一歩。
距離が遠い気がした。
昨日あれだけ近くにいたせいかもしれない。
アメリアが無邪気な笑顔で
「アレクありがとう!」
なんて言ってきたせいかもしれない。
けれど。
(……なんで目を合わせてくれない……?)
アレックスが横を見ると、
アメリアは ぱっと視線を逸らした。
頬がほんのり赤い。
その理由はアレックスには分からない。
(俺、何かしたか?
昨日……なにか……
アメリアが嫌がることした?)
心臓がずきっと痛む。
アメリアが無事で安心した夜。
ずっと胸に残っていた温度。
耳に残る「大好き」の声。
そのどれもが、
今は少しだけ不安に変わってしまう。
(“大好き”って言ってくれたのに……
なんで……今日はちょっとだけ遠いんだ?)
不安が胸の奥に小さく積もっていく。
「アメリア。」
呼びかけると、
アメリアは少し驚いた顔で返事をした。
「え、な、なに……?」
(やっぱり変だ……
いつものアメリアなら
“どうしたのアレク?”って笑うのに……)
アレックスは言葉を飲み込んだ。
「……別に。」
本当は聞きたいことだらけだった。
昨日のこと、
怖かったかどうか、
自分が抱き寄せたこと。
でも聞けない。
アメリアが困った顔をするのが怖かった。
そんなアレックスの胸を見抜いたように、
後方でノエラが小さくつぶやいた。
(……あー……これ、アメリア様は“照れ”で、
アレックス様は“拒まれた”と勘違いするやつですね……)
任務中だが、思わず哀れみの目を向けてしまう。
(隊長……がんばれ……)
アレックスは歩きながらちらりとアメリアを見る。
アメリアは頬を赤くしながら、
胸に手を当てて何か考えているようだった。
(……やっぱり……俺……嫌われたのか?)
胸がぎゅっと痛む。
気づいていないだけ。
アメリアが“恋の入口に足をかけただけ”だなんて。
アレックスは静かに息を吸う。
(……もしかして…あれか…
いや……どれだ……)
湖畔の余韻は、
アレックスの胸に今日も静かに渦を巻いていた。




