ふたりの魔力の相性
湖へ続く小道を抜けると、
視界が一気に開いた。
(……わぁ……!)
アメリアは思わず立ち止まった。
広い湖面が朝の光を受けてきらきら反射し、
水鳥が翼で静かな波を立てている。
湖畔には魔力を吸う白い草花が生え、
風が通るたびに一斉に揺れた。
魔術学園の野外授業で有名な場所──
“青の湖”。
水面の下には微量の魔力が流れていて、
初心者でも魔力の循環を感じ取りやすいという。
アメリアは胸の前で手を握った。
(ここで授業するんだ……!
なんか、夢みたい……!)
アレックスはすぐ横で、湖全体を眺めていた。
「……綺麗だな。」
「うん!すごく綺麗!」
アメリアが嬉しそうに答えると、
アレックスは小さく目を細めた。
(アメリアが楽しそうだと……それだけでいい。)
教師の合図で、
各グループは湖岸に散りながら準備を始めた。
教師が説明する。
「今日は、“自然魔力の読み取り”が課題だ。
湖に流れる魔力の方向と強さを感じ、
それに合わせて自分の魔力を調整してみよう。」
アメリアは素直に頷き、
湖畔の石にそっと触れた。
(冷たい……けど、気持ちいい……
魔力がすぐ下を流れてるんだ……!)
彼女が両手を水面へ向けると──
指先にひんやりとした気配が集まってきた。
闇と水。
二つの属性が静かに整流し、
アメリアの手の周りで淡く揺れる。
「アメリア、流れが安定してる。」
アレックスが低くつぶやく。
「ほんと?よかった!」
アメリアが嬉しく笑った瞬間、
ふと、風が吹いた。
アレックスの魔力が自然に応じ、
水面近くで小さな風の渦が生まれる。
アメリアの水の魔力と触れ合い、
ほんの一瞬──
風と水がやわらかく混ざり合った。
(……え?いま……アレクの魔力と……)
水面が小さく波打ち、
白い光がふたりの指先の間をすっと走った。
アレックスも気づいたのか、
静かにアメリアを見る。
「……共鳴した。」
「うん……
びっくりしたけど……なんか、すごく綺麗だったね!」
共鳴はほんの一瞬。
でも、
ふたりの魔力の相性が自然に噛み合っていた証拠だった。
少し離れた場所でノエラが
そっと小声でつぶやいた。
(え、もう共鳴……?
はやくないですか……?)
控えめ女子も驚いていた。
「アメリアちゃんとアレックス君って……
なんか……すごいね……」
アメリアは照れたように笑った。
「えへへ、たまたまだよ!」
アレックスはそっと視線を逸らす。
(たまたまじゃない……
アメリアと一緒だからだ……)
湖畔の風が心地よく吹き抜ける。




