胸に残る“ぎゅっ”と、離したくなかった温度
寮に戻ると、
部屋の窓から夜風がそっと入ってきて、
カーテンを静かに揺らしていた。
アメリアは制服をハンガーにかけながら、
今日の出来事を思い返していた。
(……あの時……
アレクが、ぎゅってしてくれた……)
廊下でぶつかりそうになった瞬間、
アレックスの腕に包まれた感覚は
まだ身体に残っている気がした。
胸がふわりと熱くなる。
(ありがとう、って言ったけど……
ほんとはもっと、いっぱい言いたかったな……)
アレクはいつも助けてくれる。
小さい頃からずっと。
当たり前のように、自然に、何度も。
(……アレクが隣にいると安心するんだよね……
推しだから、ってだけじゃなくて……)
寝台に腰を下ろすと、
アメリアはそっと胸に手を当てた。
「変だなぁ……今日の私……。」
嬉しいのに、
落ち着かなくて、
でも嫌じゃなくて。
ふわふわした気持ちが胸の中をくすぐる。
(アレクの香り……すごく落ち着くのに……
今日はなんか……ドキッとしたな……)
アメリアは枕に顔を埋めた。
(……変じゃないよね?
推しなんだもん。
大好きって思うのは、普通だよね……?)
そう言い聞かせながら、
目を閉じた。
でも胸のざわめきは
しばらく止まらなかった。
*
自室に戻ったアレックスは、
背中をドアにもたれたまましばらく動けなかった。
(……危なかった。
あのままぶつかったら……
アメリア、痛かったかもしれない……)
思い返すだけで、
胸が冷たくなる。
でも同時に──
腕の中にいたアメリアの温度を思い出すと、
胸が熱くなる。
(……アメリア、驚いてたな……
でも、ちゃんと支えられた……よかった……)
鞄を机に置き、
深く息をついた。
(……あの時、
ほんとはもう少し……離したくなかった……)
その感情が自分のものだと自覚した瞬間、
アレックスは手を止めた。
(……なんで、俺……
アメリアのことになると……こうなるんだ)
胸の奥がぎゅっとなる。
守りたい気持ちと、
そばにいたい気持ちと、
よく分からない熱が混ざる。
(アメリアは……
ああいう時、俺をどう思うんだろう)
考えても答えは出ない。
ただひとつだけ分かっている。
(……アメリアが笑ってくれてたら、
それでいい……はずなのに……)
頭ではそう言っても、
胸のざわめきは収まらなかった。
ベッドに横になると、
アレックスは静かに目を閉じた。
暗い部屋の中で、
腕の中にアメリアがいたときの温度だけが
ゆっくりと記憶に残り続けた。




