昼休みのざわめきと、小さなハプニング
初めての昼休み。
学園の食堂は、想像以上に賑やかだった。
それぞれのテーブルに魔法で温度管理された料理が並び、
空中にはメニューがふわりと表示されている。
トレーを持つ生徒たちが行き交い、
活気のある声が広がっていた。
「わぁ……!すごい……!」
アメリアは目を輝かせた。
アレックスはいつものように静かで、
彼女の後ろに自然とつく。
列の進みが遅くなるたび、
アレックスがさりげなくアメリアの背に手を添えて
ぶつからないよう守ってくれる。
(……こういう時のアレク、頼りになるんだよねぇ)
アメリアは少し嬉しくなった。
二人は席を確保して、
温かなスープとパンを食べながら過ごしていた。
「アレク、このスープ美味しいよ。
ちょっと飲んでみる?」
アメリアが口を付けたスプーンを差し出すと、
アレックスは一瞬固まった。
「……それ、アメリアが……」
「うん?おいしいよ?あげる!」
差し出されたスプーン。
無自覚すぎる“距離の近さ”。
アレックスはほんのわずかに眉を動かし、
そっとスプーンを受け取った。
一口。
「……おいしい。」
「でしょ!」
アメリアはにっこり笑う。
アレックスはスプーンを返しながら
目をそらした。
(……こういうの、
嬉しいけど……
なんか、落ち着かない…………)
その時。
ぱしゃっ。
「きゃっ!」
アメリアの手元から、
水の入ったカップが小さく跳ねて倒れた。
制服の袖口に少し水がかかる。
「アメリア!」
アレックスが即座に反応し、
トレーごと寄せて水を避けた。
「大丈夫?どこか濡れた?」
「え、えへへ……少しだけ……ごめん、びっくりした……」
アレックスはハンカチを取り出し、
アメリアの袖をそっと押さえた。
動作は丁寧で、
何より早い。
(さすが……影部隊の素質とか……あるんだろうなぁ……)
アメリアは感心しながら笑った。
「ありがとう、アレク。助かったよ!」
「……気をつけて。」
声は低く静かだが、
どこかほっとしたようでもあった。
その様子を、離れたテーブルから
ノエラがスープをすするふりをしながら眺めていた。
(……隊長、反応が早すぎて一般生徒の域を越えてるんですが……
まぁ、アメリア様が楽しそうならいいか……)
アメリアは袖を整えながら、
ふとアレックスを見上げた。
「アレクってほんと優しいよねぇ。
こういうとこ、大好きだよ!」
アレックスは一瞬完全に固まり、
その後そっと視線を落とした。
「…………そ、そう。」
返事は短いのに、
耳の先がほんのり赤い。
熱をもってはやくなった鼓動は
学園のざわめきの中に静かに溶けていった。




