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推しの義弟を守りたくて悪役ルートを回避したら、愛が重すぎる未来ができあがった  作者: ChaCha


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32/89

小さな声と、小さな不機嫌

翌日の休み時間。

教室は昼の光に満ちていて、

机の上に影が四角く落ちていた。


アメリアは魔法書を抱え、

席へ戻ろうとした時だった。


「ねぇ、アルバローザさん。」


ふいに声をかけられた。


振り返ると、

昨日の魔力操作の授業で同じ班だった男子が

少し緊張した笑顔で立っていた。


「えっと……昨日の、魔力糸の練習。

 その……すごく上手だったから……

 参考に、少しだけ話を聞きたくて……」


アメリアはぱっと明るい笑顔になった。


「そうなんだ!ありがとう。

 私でよければ、説明できるところまでなら──」


男子の表情が緩む。


ほんの短い会話。

それだけの出来事。


……だが。


アレックスは

隣の席からその光景を見ていた。


机に広げていたノートに

影がすっと走る。


ページをめくる手が止まった。


(……何、話してるんだ)


大した内容ではない。

どちらにも悪気はない。


それでも──

胸のあたりが、やや重くなった。


アメリアが笑顔で話す。

男子も、安心したように笑う。


(……アメリアの笑顔、

 あんなふうに向けなくていい。

 そんな奴に。)


アレックスは気づかないふりをしたまま、

だがノートの字はすっかり止まっていた。


アメリアは男子の質問に答えると、

「がんばってね」と柔らかい声で励まし、

席へ戻ってきた。


「アレク、待たせちゃった?ごめんね!」


アレックスは顔を上げ、

短く首を振った。


「……別に。」


声の温度は変わらない。

表情もいつもどおり。


だけどアメリアは気づく。

ほんの少しだけ、

アレックスの機嫌が沈んでいることに。


「アレク……怒ってる?」

「怒ってない。」


即答。

それが逆にわかりやすい。


アメリアは不思議そうに首をかしげた。

アレックスは目をそらす。


その瞬間、

教室の窓から風が入り、

アメリアの黒髪をそっと揺らした。


白薔薇の香りが

ふわり。


アレックスは、

胸のざわりが少し溶けていくのを感じた。


(……アメリアが戻ってきたなら、それでいい。)


それでも隣に座るその姿が、

少しだけ愛おしく、

少しだけ切なかった。


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