図書室に落ちる光のなかで
三日目の朝。
アレックスは少しずつ屋敷の空気に慣れてきたようで、
表情にわずかな柔らかさが増えていた。
アメリアは彼を連れて、家の図書室へ向かう。
高さのある本棚と、
大きな窓から差し込むやわらかな光。
木の香りが満ちたその空間は、子どもたちにも心地よい。
「本、好き?」
「……読むのは、好き。
でも、こんなに大きい図書室は初めて。」
「たくさんあるよ!一緒に読もうね。」
アレックスの瞳がふっと和らぐ。
それだけでアメリアは少し嬉しくなる。
本を読みながら、
アメリアがたまに難しいところを説明してあげると、
アレックスは静かに頷いた。
やがて、昼頃。
アメリアはふと思いついたように窓を見る。
外の白薔薇が、薄く積もった雪の上で揺れている。
その光がアレックスの横顔に反射して美しい。
「ねぇ……アレックス。」
「なに?」
「その……うちに来て、少しは安心した?」
小さな沈黙が降りた。
アレックスは両手を本の上に重ね、
少しだけ視線を落とす。
「……まだよくわからない。
でも……アメリアが、優しいから……怖くはない。」
その言葉はひどく静かで、
でも確かで、
胸の奥にすっと染みこんできた。
「怖かったら言ってね。
私、アレックスの味方だから!」
アレックスは小さく頷く。
「……うん。」
その返事がどこか照れていて、
けれど安心の色を含んでいて、
アメリアは心の中でそっとガッツポーズした。
*
午後。
ふたりは庭で雪を踏みながら散歩をする。
白薔薇の蕾の前でアレックスは足を止め、
しばらくじっと見つめていた。
「この花……ずっと閉じてるね。」
「冬だからね。春になったら咲くよ。」
「……咲いた姿、見たい。」
「一緒に見ようね。」
アレックスは、小さく、でも確かに微笑んだ。
それは転生後、アメリアが初めて見た
アレックスの自然な笑顔 だった。
胸がじんわり温かくなる。
蕾の白薔薇が風に揺れ、
そのすぐそばで、ふたりの影が寄り添うように伸びていた。




