初めての授業と、隣にいる安心
魔術学園の教室は、
外から見るよりずっと静かで、
どこか図書館のような落ち着いた雰囲気があった。
席に着くと、
前方の壁に薄い光が集まり、
ゆっくりと“魔法式パネル”がスライドして現れる。
(これが黒板の代わりなんだ……!
書き換えも自動でしてくれるんだ……すごい……!)
光の文字はくっきり読みやすく、
授業が始まる前からアメリアの胸は少し高鳴っていた。
アレックスは隣の席。
机の配置が“二人一組の並び”なのが嬉しい。
と、その時。
教室のあちこちでひそひそ声が聞こえた。
「アルバローザの……やっぱ綺麗だな……」
「隣の銀髪の子が弟?似てないけど……」
「てかあの子、笑うとすごい可愛い……」
男子たちが、
好奇心と憧れが混ざった視線をアメリアに向けていた。
アメリア自身は全く気づかず、
光パネルに表示された“初級魔力操作”の説明を
興味津々で見つめている。
しかし。
アレックスは気づいていた。
(……なんで、あいつらアメリアばっか見るんだよ……)
胸の奥に、微量の熱が灯る。
冷静な顔をしているのに、
視線だけが男子たちを鋭く追い払っていた。
魔力操作の授業が始まった。
教師がゆっくり教壇に立ち、
杖でパネルを指す。
「では新入生諸君。
今日扱うのは“魔力の糸”。
魔術の基礎であり、
魔力を細く、均一に流す練習から始める。」
「はい!」
アメリアは元気に返事をした。
楽しみが抑えきれない。
アレックスは横で、
その明るさにほんの少しだけ口元をゆるめた。
教師が続ける。
「まずは魔力を指先に集めてごらん。
糸のように細く、乱れないように……
焦らず、ゆっくりだ。」
アメリアは指先に集中し、
深呼吸する。
すると──
すっと、細い光が指先から伸びた。
氷が冷たくきらめき、
その中心に闇の色が混ざり、
揺らぐことなく一本の魔力糸が形を作る。
(……できた……!
綺麗に……できた……!)
教師は目を丸くし、
すぐに声を上げた。
「見事だ、アルバローザ嬢。
魔力流路が安定している……
初級とは思えん。」
周囲の生徒たちも驚いていた。
「すご……」
「魔力量だけじゃなく制御も上手い……」
アレックスは、
その称賛を聞くたびに胸の奥がくすぐったくなる。
(アメリア……すごい。
本当に……すごく綺麗だ。)
ただ、同時に。
(でも……
あの男子、また見た。
見すぎだろ……)
ちら、と視線を送る。
男子生徒はびくっとして目をそらした。
教師は次にアレックスのほうに目を向ける。
「では……アレックス君、やってごらん。」
アレックスは静かに指を上げた。
集中した瞬間──
ふわりと風が立つ。
銀髪がその風に軽く舞い、
ローブの裾も柔らかく揺れる。
空気が軽やかに流れ始め、
その中心で土属性の光が静かに重なった。
風と土。
相反するようで、しっかりと調和した魔力糸が
綺麗に一本描かれる。
教師はうなった。
「……こちらも優秀だ。
弟君も才能が高い……!」
アメリアは心の底から嬉しくなった。
「アレク、すごいよ!ほんとに綺麗……!」
アレックスの耳が少しだけ赤くなる。
「……アメリアのほうがすごい。」
「え?そんなことないよ!」
「ある。」
アレックスは小さくつぶやいた。
そして。
また男子がアメリアを見た瞬間──
アレックスの目が静かに細くなる。
(……見んな。)
アメリアは気づかない。
その小さな独占欲の芽が、ゆっくり育っていたことに。




