塔の前で耳が真っ赤になる理由
選別の塔へ続く列は、
遠くから見るとただ並んでいるだけなのに、
実際に入ってみるとまるで“魔法アトラクション”だった。
キラキラ浮かぶ光の玉が頭上を通ったり、
小さな紙の鳥が「ピィ!」と鳴きながら飛んだり、
時々、誰かのローブにくっついて
「ふしぎ〜!」と新入生たちが騒いでいる。
(たのし……っ!
アトラクションみたい……!)
アメリアははしゃぎたくなる気持ちを抑えられず、
背伸びしながら辺りを見渡す。
「アレク、見て!あの浮いてる本……
ページが勝手にめくれてる……!」
アメリアはうきうきしながら、
アレックスの耳元にふっと顔を寄せた。
「……すごいよね!こういうの大好き!」
アレックスはその瞬間、
ピシッと固まった。
(近い……!耳……触れた……!
“好き”……って言った……今、“好き”って……)
アメリアはさらに別の方向を指す。
「ほら見て!あの魔法薬の瓶、
ぷくぷく泡が浮いてるの可愛い〜。
ああいうのも好きなんだよね!」
また耳元。
アレックスの心臓は完全に高速。
(好き、好き、好き……
ぼ、僕に言ってる?
いや違う、でも耳元で言わないで……
しぬ……!)
アメリアはまったく気づいていない。
「ねぇアレクは?
ああいう魔法の仕掛け、好き?」
“好き?”の破壊力が強すぎた。
アレックスの耳が、
さっきまでの朝陽より真っ赤に染まる。
「……す、すき……」
「本当!?アレクも好きなんだ〜!よかった〜!」
アメリアは嬉しそうに笑い、
さらにひそひそ声で続ける。
「アレクと好きが一緒だと嬉しいね……!」
アレックスは絶句した。
(い、今のは……無理…………
反則………………っ)
後ろにいたノエラ(潜入中)が
小声でつぶやいた。
(隊長……耳が茹だってますよ……)
アメリアはアトラクション気分、
アレックスは生きた心臓が飛び出しそう──
そんな対照的な二人は、
もうすぐ塔の入口にたどり着こうとしていた。




