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推しの義弟を守りたくて悪役ルートを回避したら、愛が重すぎる未来ができあがった  作者: ChaCha


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星明かりの前夜

アレックス視点

夜の空気は透き通っていて、

静かな星明かりがアルバローザ邸の中庭を照らしていた。


アレックスは自室の窓辺に膝を抱え、

星を見上げていた。


明日はアメリアと一緒に魔術学園へ行く日。

胸の奥が温かくなる──

……けれど、その奥底には、

いつまでも消えない影が潜んでいる。



アレックスの父──

アルバローザ公爵の親友であり、

影部隊の中でも腕が立つ男だった。


父は任務中、

公爵の身代わりとなって倒れた。


幼いアレックスはその事実を

「父はお星様になった」と教えられた。

でも、周囲が必死に隠そうとした“緊張と悲しみ”は

幼い心でもはっきりと感じ取っていた。


だが、それ以上に衝撃だったのは母だった。


アレックスの母は、

夫を激しく、深く、息が詰まるほど愛していた人だ。


愛というより、執着に近いほどに。


夫がいなければ笑わず、

夫がいれば何より幸せそうだった。


その夫が帰らなくなった日──

母の世界は音を失った。


最初は、ただぼんやりと座っているだけだった。

次第に食事もとらなくなり、

声も出さなくなり、

目の光が薄れていった。


アレックスは小さな手で母の腕を揺らした。


「……母様?」


母はアレックスを見た。

その瞳は美しくて、けれど壊れかけていて、

涙で濡れていた。


薄い声で、ふるえるように言った。


「……ごめんね、アレックス……

ごめんね…こんな母様をゆるして…

 母様は……もう……光を探せないの……」


その言葉の意味は幼いアレックスには理解できなかった。


コロンと転がり落ちた小瓶…

こぼれ落ちていく涙。


母の身体がアレックスの目の前で力を失い、

僕の頬に手を伸ばし優しく無でてくれる


呼吸が浅くなっていく母…

触れていた母様の手が力無く落ち……


「……母様……?」


ゆっくり、ゆっくり、

体温が消えていく。


その感覚だけが、鮮明に残った。


叫ぶこともできなかった。

ただ息が詰まり、

胸が痛くて苦しくて、

世界から音が消えた。



父と母は、

どちらも公爵と深く関わっていた。


だから──

アレックスは思った。


(……ぜんぶ嫌いだ……

 公爵家なんて、いらない……)


カイン公爵が優しく抱きしめてくれても、

その腕の中でアレックスは固く冷たくなったまま、

目を閉じた。


アメリアが近づいてきても、

手を振りほどいたこともある。


(父様と母様を奪った家なんて……)


そんな小さな恨みを、

幼い胸にぎゅっと握りしめていた。



……でも。


アメリアは僕の元へきてくれた。


振りほどかれても、

意地悪を言われても、

アレックスが部屋に閉じこもっても──


毎日、ドアの向こうで声をかけ続けた。


「アレックス、今日も遊ぼうよ」

「外は風が気持ちいいよ」

「一緒におやつ食べよ?」

「隣にいてもいい?」


ただ優しく。

ただ迷いなく。


アレックスの中に空いた「ぽっかりした穴」を、

少しずつ満たしていくように。


アメリアの声が、

どんな薬よりも失った光を取り戻していった。


(……アメリア……)


アメリアの手は小さくて、

でも不思議と温かかった。


あの時、

初めてアレックスは思った。


(……この家は……アメリアがいるから、嫌いじゃない。)


それが“最初の救い”だった。



窓の外には星が瞬いている。


アレックスは胸に手を当て、

ゆっくり息を吸った。


(父様も母様も……

 大切な人を失って壊れたんだ。)


だからこそ──

アレックスは心に決めている。


(僕は……“光”を失わない。

 アメリアのいない世界なんて……いらない。)


アレックスはそっと微笑んだ。


「……アメリア。」


星が瞬き、温かい光が

アレックスの胸の中に静かに灯った。



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